「いのち、つながり」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
いのち、つながり」を以下のとおり復元します。
「……み。起きてかがみ」
う~ん、こなた?
「おはようかがみ」
うん、おはよう。

まだまどろんでいる状態でぼやける視界はこなたの顔で埋め尽くされていた。驚かなかったのはもはや慣れだ。
身を起こすと何度見ても好きになれない美少女のフィギュアやポスターが。でも私の慣れ親しんだ部屋。
えっと、私はなんでこなたの部屋に、ベッドで寝ていたんだっけ。
「かがみ、今日は何日?」
こなたの言葉に何かのアニメのカレンダーに目をやる。が、それはとっくの昔に過ぎた日付になっていた。
カレンダーの意味がないじゃないのよ、とは何度か言っても無駄だったのを覚えている。
とにかく、自堕落な生活を送っているわけではなく平日は学校があるのですぐに脳内で計算された。
「7月7日?」
「そっ。誕生日おめでと、かがみ」
にこっと笑って祝福してくれた。そう、今日は私がこの子と会うべくして生を受けた日。
今までの17年間、一部は記憶にないけども、家族のみんなが最初にお祝いしてくれていた。
それも悪くないが、こうして恋人にいの一番に祝福してもらう喜びをおわかりいただけるだろうか。

「こなた」
幸せボケしているとか、バカップルだと言われてもいい。寝起きのこの嬉しさは隠す必要なんてあるだろうか。
たまらず愛しい人の名前を呼んだ。感謝と喜びを分かち合おうという気持ちを込めて。
「す、すとっぷ!」
そうするのが当然であるような自然な動作でこなたの肩を掴んで目をつむって顔を寄せたというのに。
毎日のように交わしてきた愛情表現にこなたは空気を読まずに制止をかけた。
仕方なく目を開けて見ると、確かに頬を染めているこなたがいたけれども。
「今日も学校あるから。すぐに着替えてね」
恨めしげな私の視線をさらりとかわすようにそう言ってこなたは部屋を出て行ってしまった。

物足りなさを覚える心に我慢のあとのそれは何よりも幸せなものだからと言い聞かせる。
とりあえず制服に着替えようと思うが、他人の部屋で着替えることに不思議な感覚を少し。
単純なお泊りとは違う日常生活と同じことをこうしてこなたの部屋で行うというのは、くすぐったさとそれ以上の幸福感がある。
一応言っておくが私はこなたと同棲しているわけではない。将来的にはもう決まりごとみたいなものだけど。
ただこの私の誕生日という特別なものにしたくて、半分私の願望と半分こなたのお祝いしたいという気持ちでこうしている。
こなたと私の付き合いも公的な立場からもに公認してもらえるほどに周知の事実。
それと付き合いだしてから初めての私の誕生日にどんなプレゼントがいいか悩むこなたに、こなたの時間がほしいとお願いした結果がこれ。
っと、状況を説明するのに時間をくうとこなたと過ごす時間が少なくなってしまう。
私の嫁であるこなたが作った朝食をいただこうと階上のリビングへと急いだ。

「おはようございます」
おじさん(お義父さんとはさすがに呼べない)とゆたかちゃんもすでに食卓を囲んでいた。
邪念の欠片もない爽やかな笑顔で二人が返してくれる。冗談で「かがみお義姉ちゃん」と言ってくれるあたりも素晴らしい。
そこに制服の上からエプロンをつけたこなたが朝ごはんを並べていく。
フリルのついたかわいらしいエプロンは私の誕生日プレゼントの一つ。この光景を夢見てたのよ。
ふとテーブルに並ぶ料理に目を向けると、なんと和風ではなく洋風の朝食が並んでいるではないか。
出勤(登校)前に新妻の作ったお味噌汁をすするのがデフォだというのに。
さすがに今から作り直せとは言えないけど完璧さに欠ける。あとで覚えておいてね、こなた。
「さっ、食べよう」
そんな私の心情を知ってか知らずか、直後に隣に腰掛けたこなたが言った。
おそらく食後の洗い物のためだろうまだエプロンをつけたままというのはポイントが高かったのでチャラにしとこう。
「いただきます」と四人声を揃えて食べ始めた。 

たとえ期待していたものが出なくても味は疑いようがなく美味しい。
今二人きりなら、美味しいとこなたを褒め称えることも、食べさせてあげる食べさせてもらうという行為もできるというのだが。
恋人の父親の前で、純粋なゆたかちゃんの前で愛を交わすようなことはできない。
「かがみちゃんずいぶんご機嫌だね」
食事に関してよくこなたにからかわれるように、美味しいものを食べている時は自然と頬が緩んでしまう。
おじさんの言葉を否定できるはずもなく「誕生日をこんな風に過ごせて幸せですから」と感謝も込めて答えた。
ついでに大好きな人を抱きしめると笑いが沸き起こった。おじさんもゆたかちゃんもからかいでなく私たちの幸せぶりを感じ取ってくれたのだろう。
自分でもこうなるとは思っていなかった付き合いだしてからの積極性にこなたはなすがまま。
たっぷりと柔らかさやあたたかさを堪能している間、こなたは赤くなった顔を隠すように私の胸にうずめていた。
それを見て場が一段と盛り上がったのは、私の理性にひびが入ったのは言うまでもない。

食事を終えて私も洗い物を手伝うことにした。
待っている間が暇というのと、こういうちょっとした共同作業に幸せを感じるという理由で。
手際良く洗剤でこすられた食器類をこなたから受け取り水で綺麗に洗い落していく。
エプロンをつけているのはこなただけで二人とも制服だから私はスーツ姿でここに立っていたかったななんて。
すでにリビングには誰もおらず、おじさんは仕事部屋に、ゆたかちゃんは学校に行っている。
朝食の感想や少しだけ愛をささやいてみたり。全て洗い終えたあとには軽く口づけもした。
それだけでこれ以上ないくらい真っ赤になるこなたがすごくかわいかったけど、そろそろ家を出ないといけない時間だったので我慢することに。
ぱぱっと支度をして二人揃って「行ってきまーす」と元気よく飛び出した。
まだずいぶんと低い位置にいる太陽も眩しいくらいに照らしている。
素晴らしいくらいに快晴に恵まれたこの日、恋人と並び歩く朝。
私たちの繋がりは一生断ち切れることないと誓うようにしっかりと手を繋いでいた。

いつも利用するバス停のある駅の改札を通り抜け私の妹の姿を探した。ここまで来るのに特に大したことはなかったので割愛。
一応電車内のことを語ると、朝の通勤通学ラッシュはいつまで経っても慣れるものではないが、狭い車内で寄り添い合うように揺られていたことに少し感謝した。
少しずつ同じ学校に向かう生徒たちの数が多くなって見える。その見慣れた制服の人々の間に紫色の髪した私とそうたがわない背格好の後ろ姿を見つけた。
「つかさー、おはよう」
「あ、お姉ちゃん、こなちゃん、おはよう」
ほぼ毎日自宅で交わしてきたやりとりを、いつもこなたを待っていたこの場ですることに違和感を覚えないでもない。
っと、そういえば毎年繰り返してきたやりとりも忘れてしまうところだった。
「つかさ、誕生日おめでとう」
「えへへ、ありがと。お姉ちゃんもおめでとう」
お互いに一緒に育ってきた喜びを笑って示す。つかさのはにかむような笑顔はいつまでも変わらず可愛いと思う。
「ちょっと不思議だね。いつも家で言ってたから」
そう言うつかさの表情はどこか切なげで、いつも傍で過ごしてきた日々を思い浮かべる。
でもね、つかさ、いつかは私たちも離ればなれになってしまうのだから。
……しかし柊こなたという夢が実現すれば今日みたいなことは少なくなるのか。うーん。
「二人とも、バス来たよ」
いっそのこと明日からこなたに柊家で過ごしてもらおうか。部屋は私と一緒なのは当然だし。
でもおじさんとゆたかちゃんの二人暮しに……おじさんの溺愛ぶりもさることながらゆたかちゃんの身の安全のためにも。
いやしかし、あの人はああ見えて人として尊敬できるところもたくさんあるし。いかなるものか。
「かがみ、かがみー?」
ふおっ!?顔が近い。
……ああ、バスね。つい期待を寄せてしまったわ。今行くから。 

幸い車内は最後尾に十分なスペースが空いていた。つかさ、私、こなたの順で腰を下ろす。
「つかさ、眠いの?」
座ることで体の力が抜けたのか、つかさは小さく欠伸を漏らした。
「うん、ちょっと」と答える妹は相変わらずの眠り少女。着いたら起こすと伝えるとすぐに夢の世界に行ってしまった。
反対側のこなたはいつもと違いしゃきっとしている。昨夜は日付が変わる前に寝たものね。
じゃあつかさも見てないし、と腰に手を回すとぴくっと体を緊張させた。
「か、かがみ……」
恥ずかしそうにもじもじと訴えてくるこなたのかわいさは異常だ。こんな状態でお願いなんてされたらひとたまりもないだろう。
それでも私が自重しないのはなんだかんだで最後には受け入れてくれると知っているからだ。
「これくらいならいいでしょ。誰も見てないわよ」
ちゃんと最低ラインの行動に留めるからと伝えると強張っていたのが解けていく。
こういう精神的な甘えを受けとめてくれるこなたの優しさにすがりついてしまう私。
今まで姉として生きてきた手前、誰にも甘えられなかったということをこなたは気づいている。
そういうこなたの人を見抜くとことか、精神面の強さに私は惹かれたんだ、と今一度自分の気持ちを見つめ直す。
自然と体を傾けてきたこなたと寄り添うようにしてバスの揺れに身を預けていた。

バスから降りるともうすぐこなたと離れなければいけないという事実が迫ってくる。
それまでにこなた分をしっかりと補給しておこうと、重なり合う手に力を込めた。
昇降口では靴を履きかえなければならない。そのちょっとの間離れることさえもどかしく感じた。
周りも友達と雑談しながらふらふらと前を見ずに歩く者が多い。他に4、5人が固まっていたり、慌ただしく駆けていく者もいる。
その中の野次馬のように見てくる者や、狭いスペースをかきわけるようにして突き進む。
誰にも私とこなたの恋に邪魔はさせない。そして別れが近づくほどに離れがたくなる気持ちにふたをして。
「またあとでね」
3年B組の教室の前。私は笑って別れを告げる。
「うん、また」
こなたも笑って返してくれる。
別れるその時から次に会う約束がなされる。寂しくなどないのだ。

そして1時間目が終わり短い休み時間。ほんのわずかな時間も惜しむように隣のクラスへ急ぐ。
そういえば朝のHR前に旧友から「おめでとう」と言ってもらったが他に大したこともなかった。
教室を覗くとこなた、つかさ、みゆきの3人が談笑していた。
「おっす」と片手を挙げて呼びかけると、自然と私もその輪に加わる。
「かがみさん、お誕生日おめでとうございます」
すでにつかさへのお祝いは済んだのだろう、みゆきはそう言って綺麗にラッピングされた箱を手渡してきた。
「さんきゅ、みゆき。開けていいかしら?」
このお嬢様はどんな素敵な物を用意してくれたのだろう、はやる気持ちを抑えつつ尋ねる。
にこっと微笑んで許可をもらったので、丁寧に包みを解いていった。
「ネックレス、こんな高価そうなのいいの?」
「大したものでもありませんよ。つかささんにもお揃いのものを」
気にしないでと笑みを浮かべるお嬢様を少し羨ましく思ったが口には出さずもう一度感謝の意を伝える。
ありがとう、みゆき。しかしつかさとお揃いじゃなかなかつける機会がないと思う。
1時間ぶりのこなたの肩を抱きながら心の中でこっそり毒づいていた。 

次の休み時間にはこなたのほうからやってきた。
だいたい用件は見当がついている。気まずそうに、私にすがるようにこちらへ。
「かがみぃ、ちょっとお願いが」
泣きそうな声で私を呼ぶので抱きしめたくなる衝動と、少しのいたずら心が芽生える。
「次英語があるんだけど……」
「何?また宿題?」
突き放すように言ってみる。こなたがわずかに肩を震わせた。
「はぁ、私の誕生日くらい甘えてこないでちょうだい」
別に甘えられることは嫌じゃないけど、というか頼られる立場はいろいろと得だ。
だけどこなたのためにならないという大義名分を掲げて私はそれを突っぱねた。
しかしだんだんとちぢこまって、涙目で私を見てくるこなたのかわいさに決意が揺らいでいく。
「しゅ、宿題はちゃんとやったんだよ。でも、その教科書を家に置いてきちゃって」
なんかいつになく弱気で子どもをいじめているような気持ちになってきた。
好きな子ほどいじめたくなるというのもこなたの表情を見れば肯定できなくはないが、それでも一番好きなのはこの子の笑顔なんだ。
「ふふ、こなたもドジっ娘なのね」
あうっ、といつもと違って弄られる側のこなたは萌えという言葉がふさわしい。
なんて、精神まで逆の立場になったようで、でもちゃんと貸してあげた。
「ありがとう、かがみぃ。大好きっ」と抱きつかれた時は真っ赤になってしまって、やっぱりこなたにはかなわないんだなと思った。

休み時間には会えるのだがこの授業時間がもったいない。
なんで今日は平日なんだろうという、時間の規律にさえつっこみをいれたくなる気分だったが不毛なのでやめた。
優等生として自負できるくらいに成績、授業態度はしっかりとしてきたものだと思っている。
しかし今日くらいは授業が身に入らなくても仕方ないだろう、そう言い訳して携帯を取り出す。
笑顔のこなたの待ち受け画面に思わずにやけてしまった。我ながらベストショットだと思う。
それからメールボックスを開いて、そこはほとんど『泉こなた』の文字で埋め尽くされていて小さく溜め息。
悩み事以外、幸せすぎて出る溜め息はすごく贅沢なことだ。この幸せをこなたも感じてくれてるかな。
こなたが携帯を所持しているかわからないし、授業中というリスクもあったけどメールすることにした。
内容は一言『起きてる?』だけ。最近真面目になってきたし、携帯を携帯(シャレじゃなくて)するよう口すっぱく言ってきたから。
意を決して決定ボタンを押す。『送信完了』の文字にほっと一息ついた。
返信が来る可能性はそんなに高くないだろう、黒板のほうに意識を移す。
と、スカートのポケットで急かすように携帯が震えだした。
『起きてるよー。授業中だし当り前じゃん♪』
こなたらしいからかうような、元気印のような内容にくすっと笑いが漏れた。

『一年前はそんなこと言えなかったでしょ』
『うぐぅ。でも今は違うんだよっ』
『ここ、褒めるとこ?』
『そう!』
『いや、学生にとって当然のことだし』
テンポよく、まるで今この場で会話しているようにメールが飛び交う。
『……。まぁいいや。ところでどうしたの?』
はなから授業中にメールするなんて珍しいことだとわかってたのだろう、すぐに気づかれた。
ここで強がってなんでもないなんて言っても信用しないだろうし、それこそツンデレって言われる。
めったに言わないことだけど、文字にしてなら、面と向かって言うわけじゃないのなら大丈夫、と思ったままにメールを打った。 

『私もだよ』
返ってきたのはたった一言で、文字にするとたったの4文字。それでもしっかりとココに届いた。
いつも飄々として、私の想いが強すぎるのかななんて思ったりしたのに。
純粋にこなたも同じ気持ちでいてくれているとわかって嬉しかった。私だけが弱いんじゃなかった。
ならばこの言葉に返すべきは一言だけ。慰め合いなんかじゃない、強くあるために。
自分自身の偽りない心をありったけの感謝と希望をこの手紙に乗せて。
『    』

それから放課後までこなたと会わなかった。まぁ会える時間自体10分しかなかったけど。
毎時間惜しむように会っていたけど、私は会いに行かない。こなたも来ない。
だって会わなくてもわかってるから。想いをちゃんと伝えたんだから。
「かがみ、帰ろう」
HRが終わって教室に人が少なくなってきた頃、待ちわびた様子もなくこなたはやってきた。
先ほどまでぼーっと腰掛けていた椅子から立ち上がる。傍に来たこなたが私の鞄を差し出してくれた。
「ありがとう」
それを受け取り、半歩前のこなたが手を差し伸べてきて。
朝と同じように、こなたのほうから手を繋ごうって思ってくれたんだと空いている手を伸ばすも。
こなたはその手のひらじゃなくて腕を掴んでぐっと引き寄せた。自然体が前方へ傾く。

あっ……
たった一言発する間もなく、私とこなたの距離は0になった。
驚き見開かれた視界には目をつむったこなたの顔が。整ったまつ毛がよく見えるほどに近くて。
ほのかに色づいた頬や左目の下の泣きボクロに、好きな人の顔を間近で見ている間に、重なり合っていた唇は離れた。
名残惜しみながらも体を離す。顔にせり上がる、全身を駆け巡る熱は抑えようもなくて。
そこにある満足感をひしと抱いて、今度こそ小さなその手が包み込むように私の手のひらに重ねられる。
寄り添い合うように重なった影が離れて、その手だけがしっかりと繋がれていた。

「今日も家に寄ってく?」
「当然。今日一日私といてくれるんでしょ?」
ずっと一緒にいてください、なんてプロポーズじゃないけど。いや、それは私の、私たちの願いだけど。
この私の誕生日という特別な日に幸せを体験させてもらうのも悪くない。
もし幸せに限りがあるとしても、先取りしてしまうと言うのだとしても、私の希望は変わらない。
優しく微笑んでくれる彼女がいるから。幸せは己の手で掴むもの、二人で感じていくものでしょ?
……なんて理想論だけではどうにもできない感情もあったりするけどね。

「ただいまー」
こなたと声を揃えて泉家に『帰宅』した。毎週のように、時には数日間続けて来たりするんだから間違ってないだろう。
というか本来つっこみ役の私がそうなると誰も何も言わない。だいたいおじさんとこなたが先に言いだしたことなんだから。
とまぁ勝手知ったる泉家。こなた(と私)の部屋に荷物を置き着替える。
他人の部屋で着替える違和感も主であるこなたがいると感じることはない。
なぜならこなたのほうが恥じらうからだ。体育とか普通に人前で着替えるというのにね。
「いつになったら慣れるのよ?」
それ以上恥ずかしいことしてるじゃないとは言わない。意識すると逃げてしまうから。
私は家族に見られることも当り前のようにあって、つかさとは気にしたら負けってくらい自然と過ごしてきた。
だからこうして手間取っているこなたが不思議で、でもかわいくて視線を外せない。
「だってかがみは好きな人だもん」
うぐっ……待て、落ち着け。こらえるんだ。
目の前に愛しい人が下着姿で目を潤ませて見上げてくるなんて最終兵器、これに耐えることができたらギネスモノじゃないのか。
そうだ、視覚にとらわれないためには別の感覚を働かせればいい。
さっき、私が好きだからと言ったな?好き……スキ……
っと危ない。好きって言葉で捉えるからダメなんだ。
好きな人、つまり私限定。じゃあ昔から一緒だったおじさんは?もしかしなくても見たことあるのか……? 

「か、かがみ?どうしたの、怖い顔して」
こなたの言葉に我に返るとそこにはすでにTシャツ短パンのこなたが。どこぞの虫取り小僧だっていう。
こんなことならもっと目に焼き付けておけばよかった。いや、その前に自我が崩壊していただろうか。
「こなた」
「な、なに?」
私の呼びかけにこなたの声は震えていた。そういえばさっきから怯えた顔してるけど、そんなに怖い顔してるのか。
本能のほうが強く働いているらしい、いつもの冷静さを取り戻さねば。
「おじさんがたまに覗いて来たり、なんてことないわよね?」
「い、いや。でも鍵がかかってるわけじゃないから100%は……」
確かにゆたかちゃんに危ういところを見られたりくらいはよくある話。
しかし同じ要領で、偶然だとか言われても信用できるだろうか。いや、できない。
そのまま事件を起こしてしまいそうだった私をこなたが抱きついてくれることで踏みとどまった、というのはただの噂話。

こなたと一緒に階段を上がる。もはや恒例のことのようだが挨拶は欠かさずにしておきたい。
少し学校で暇を潰したからゆたかちゃんもすでに帰ってきているみたい。部屋にはいなかったのでおじさんと一緒かな。
先を行くこなたの背中を見つめる。たいていこっちで過ごすけどこなた的にはどうなんだろう。
そりゃ柊家は人数が多く誰かしら家にいるのが常だし。でも迷惑だったりしないのかな。
なんて考えたところで一緒に過ごせるのが何よりも重要だし、二人きりの時間がほしい。
そんなことを一人自問自答してるとこなたが扉の手前で立ち止まった。
「どうしたの?」
尋ねてみるけどどうぞとジェスチャーするだけで何も言ってくれない。
全く何がしたいのか、何のために私が開けなければならないのか。疑問に持ちつつも引き戸に手をかけた。

パンッパンッ
銃声なんかではなく、でもそれ相応にうるさい音。わずかに2発だけだが。
しかし狙い澄ましたように紙テープが降りかかり、疑問に思う前に。
「誕生日おめでとう」
と、おじさん、ゆたかちゃんの両名に祝福された。こなたはこれを知ってて?
「いやぁ、これはこなたの誕生日のやつでな。その日は主役不在で肩透かしを食らったんだよ」
おそらくきょとんと抜けた表情をしてるだろう私におじさんが説明する。そういえば誕生日翌日に怒られたとかなんとか。
「ケーキも手作りのやつあるから。改めて誕生日おめでとう、かがみ」
十分すぎるプレゼントをもらっているというのに、それでも粋なことをしてくれるこなたを感謝を込めて抱きしめた。
あ、テープ乗っけたままだ。それにおじさんもできない口笛を無理にしないでください。
とは頭の隅で浮かんだけれど、本来であれば身内が祝福してくれる代わりに、こうして泉家の人に家族同然に祝ってもらえる喜びを噛み締めた。

その後は即日でできるレベルじゃないご馳走をいただいたり。調子に乗ってしまったのか、人一倍食べていた。
ノリノリなこなたがメイド服まで披露して尽くしてくれたり。おじさんが写真撮ったり、私の理性に結構な刺激を与えてくれたりしたけど。
たまたま遊びに来ただけと言う成美さんにも祝福してもらったり。勢いに気圧されたけど活力と根気をもらった気がする。
ケーキなんてつかさが作るのと遜色ないくらい、いやそれ以上にも思える出来栄えで。
「お父さんも凝り性だし」と、この父娘には不思議なパワーがあると思う。趣味の情熱がすさまじいのは周知のこと。
18本きれいに突き立てられたろうそく、『HAPPY BIRTHDAY かがみ』と書かれたチョコプレートを見て熱いものが込み上げた。
それも体重とか気にせずに美味しくいただいて。かすかな塩気に甘さがちょうどよかった。 

いくら感謝してもしきれないほどの誕生日会に終焉をつげたのは10時をとうに過ぎたころ。
祝い事は盛大なほどよいと成美さんがアルコールに手を出したので今はおじさんが送りに行っている。
少しお疲れの様子のゆたかちゃんはこなたが先に休ませて、今は二人で後片付け。
とはいえ紙くずが飛び散ったとかの掃除は必要なく、大量の洗い物をしている。
騒いだのは主に私とこなたの慣れ初め話。とても恥ずかしいものではあったが私以上にこなたが困っていた。
まぁ身内に話すのが一番きついだろう、余計なことまで聞いてくる大人二人には私もはぐらかすのに必死だった。
それ以外にはゲームをしたというわけではなく、普段のこなたの話を聞かせてもらったり。
会話のほとんどの間赤面していたこなたがかわいくて、途中で泣きついてきたのをなんとかなだめたりと幸福な時間を。
「家族と思ってくれていい」とのおじさんの言葉は素敵なプレゼントだった。

「まさかここまでしてもらえるとは思ってなかったわ」
朝と同じポジションで食器の汚れを落としているこなたに話しかけた。
そもそも誕生日を丸一日他人の家で過ごすのもあれだけど、こなたがお祝いしてくれる気持ちで十分だと思っていた。
「念のためっていうか、一日全てかがみのための日にしようとは考えてたから」
「でも普通家族にお祝いしてもらいたいもんじゃない?」
「それでもかがみは私を選んだんじゃん」
そうだ、こなたの言うとおり。というかこなたも伴侶だから家族よね。
なんとなく止まってしまった手。こなたも同様に、私を見上げる視線とぶつかった。
物音をたてないようにそっと、食器を離し水をはらって、どちらともなく身を寄せて唇を重ねた。

「もうすぐ誕生日が終わっちゃうね」
電気の消えた部屋の中、淡く光る時計の長針と短針が重なり合おうとしている。
弱く、うっすらと差し込む月の光では互いの表情をはっきりとは映し出してくれない。
「そうね。今日は忘れられない一日になりそうだわ。ありがとうこなた」
こなたとこの家で暮らす人に感謝を。私の誕生日は柊家だけのものではなかった。これから二人の、二人の家族と関わり合っていく。
私の言葉にこなたは笑った。細部なんて見えるはずないけどとても綺麗な笑顔だった。
「魔法も解けちゃうね」
泉こなたと過ごしたいという願いをかなえてくれた24時間が終わる。でも、
「あんたは逃げないわよね?」
「逃げはしないよ。それにね、かがみ」

──かがみが望むなら私はいつだってかがみのものだよ
──あんたも私が欲しいってわけね
──そう。かがみが私を欲するようにね

日付が変わる。重なり合う二つの影は決して離れることのない…… 



**コメントフォーム
#comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
- しあわせそうでいいな  -- 名無しさん  (2009-07-09 22:42:16)
- なんか…こう、上手い感想が書けません… &br()ただ一言、素晴らしい作品を有り難う御座います。  -- こなかがは正義ッ!  (2009-07-07 23:23:49)


**投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
#vote3(8)

復元してよろしいですか?

記事メニュー
目安箱バナー