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誰より好きなのに あの日、抱き合ってキスしたのに、その事は幻みたいに私たちの話題には上らなかった。 触れてはならない禁忌のように。 やがて文化祭のチアダンスも終わり、やっぱり私たちはただの友達だった。 チアダンスが終わった興奮の中で「かがみは最高の親友だよ!」といって見せたこなたの笑顔に、かすかな寂しさを感じて、私は動揺した。 最高の親友じゃ、私は、物足りない……? 自分は何故、寂しいのか。 まるで私の中でこなたが、『友達』の範囲を超えている、みたいな……。 文化祭の興奮と達成感の中で、私達は強く強く一体感で結ばれている気がする。 だからこそ、もうすぐそこまで来ている卒業を意識しないではいられなくて。 喝采を浴びた舞台の袖で、薄暗い照明の影でこなたと小声で話していると、その秘密めいたくすぐったい雰囲気と、祭りの高揚と達成感、 そんな様々な感情がない交ぜになって、私は泣きそうになる。 「かがみ、どしたの? 感激しちゃった?」 「う、うるさいわね! そんなわけないでしょ!」 「あれほどチアダンス嫌がってたのに、やってみたらノリノリになるんだから、かがみんはカワユスなあ」 「別に、そんな事ないっての!」 万雷の拍手も、もう遠い。 私達はチア服を脱いで、日常に帰らなきゃならない。 でも。 まだもう少し、もう少しだけ……。 自然と、私はこなたの手を握っていた。あふれ出す感情を抑えきれないみたいに。 「かがみ?」 本当の気持ちが、上手く言葉に出来ない。 「こなた……!」 不意に、こなたが私の家に泊まった夜の事を思い出す。 あのとき、重ねた唇は幻だったの? 違うのなら、今も、私は。 私の気持ちは。 こなたの眼を覗き込む。大きくて、どこまでも深い、こなたの瞳。 見つめ続けると、こなたはふっと目をそらした。 そして、握った手を、振り解かれる。 「あ……」 温もりが消えていく。 「戻ろ、かがみ、いつまでもこんな服のままじゃね。それともかがみ、この服気に入っちゃった?」 「そんな訳あるか!」 いつもみたいなやりとり。 だけど心の中はざわめいていた。 こなたに、拒絶されたみたいに思えて。 時は過ぎる。避けようもなく。 いつもの教室。 文化祭も終わって、厳しい冬がやってくる。気温も、受験という現象も含めて、私にとって厳しい冬だ。 もう大きなイベントはないし、卒業まで一直線、未来とか、将来って言葉には、いつも不安が付き纏って。 十年後、私は何をしてるだろう? その時、こなたは傍にいるだろうか? 冬になっても、こなたはいつものこなただった。のほほんとゲームしたりアニメみたりな毎日だ。 さすがに心配になる。 「こなた、あんたちゃんと、受験勉強とかしてんの?」 「ふっふっふっ、かがみん、私は悟ったのだよ。無理して背伸びした大学に行くより、自分の身の丈にあった大学に行くべきだ、と!」 「はいはい、要は勉強したくないわけね」 法学部を目指す私と、こなたが同じ大学になることは、どうやら無さそうだ。 「そんな適当に選んで、後悔しても知らないわよ? 将来どうする気よ?」 「んー」 私の言葉に、こなたは感情の読み取りづらい表情で首を傾げた。なんだかそういう仕草や様子が、幼児めいて見えて愛らしい。 「実は、あんまり考えてないんだよねー。大学行きながら考える、という事で」 「ちょっとー、ほんと、心配な奴だよな、お前は」 私がそういうと、こなたが、にへり、という感じで笑った。何よ一体? 「かがみ、しっかりしてるよね。法学部に行きたいとか、将来のヴィジョンがちゃんとあって、そのための努力もしてる。 そういうとこ、ほんと凄いと思うよ」 「な、何よいきなり」 「私は適当だからさー、結構、不安に思う事もあるのだよー。かがみがしっかりしてるのを見ると、私も頑張ろう、って思うよ。 それに、かがみが心配してくれるの、嬉しいよ!」 「そ、そんな褒めても、何も出ないわよ」 変な感じだった。 こんなストレートにこなたが私を褒めるのとか、珍しい気がする。 「卒業も近いし、親友への餞の言葉だよー」 親友……。 放課後の教室に人気は少なく、私とこなたは二人でみゆきとつかさの帰りを待っている。 もうすぐ離れ離れになる私達は不器用で、上手く本心を伝え合う事が出来ない。 「ねえ、こなた……」 本当は、こなたは、私のことどう思ってるの? 友達? それとも……。 「かがみには何でも話せるね」 とこなたが笑う。 親友だよ、って笑顔。 その笑顔は、あの夜重ねた唇を忘れようとしているみたいに見えて。 こなたは、本当に私のこと、『友達』なの? それで高校生活が終わったら、こなたと私は、離れ離れになっちゃうの? 私は答えを聞くのが怖くて、こなたに伝える事が出来ない。 自分の想い。 私たちは、親しくなりすぎた。 今ある関係を壊すのをどうしようもなく恐れるくらいに。 つかさとみゆきがお手洗いから帰ってきて、私達は口を噤む。 こなたの表情からは、何を考えているのか、私は読み取れなかった。 私は一人、こなたと私の関係について考えていた。 まるで、迷路に迷い込んだみたいに。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3()
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