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夏の日の思い出」を以下のとおり復元します。
「ふう、後はこれをここに置いて……」 



私は、部屋の整理をしながら勉強する為の準備をしていた。 
今日も、いつものごとくこなたが勉強をしに来ることになっていたので、 
念入りに整理していた。と、その時部屋のドアを叩く音がした。 



「お姉ちゃん、ここで勉強してもいいかな? 
 それとも、少し来るの早かったかな」 



声の主は、つかさだった。今日はちゃんと早起きしてきたようだ。  



「ううん、いいわよ~。先に勉強しててよ」 
「うん、それじゃあ入るね~」 



そう言って部屋に入ってきたつかさが、 
参考書とノートを広げて先に勉強を始めた。 
そんなつかさを横目に、私は自分の机の整理を始めていた。 
そして、ふと開けた引き出しの奧から、妙な物がでてきた。 



「なにコレ……」 



それは、茶色に色あせた古い封筒だった。 
中身を取り出して見ると、一枚のカードが入っていた。 
そして、そのカードを見た瞬間、昔の出来事が一気に 
私の中によみがえってきた。 



「そっか、これってあの時の……」 
「どうしたの、お姉ちゃん?」 



つかさが不思議そうに私の声に反応した。 
私は、カードを持ったまま、つかさの方を向いた。 



「これね、私の初恋の子からもらった大切な物なんだ」 
「ええっ、お姉ちゃんの初恋の人!? 
 ね、ね、どんな子だったの?」 
「そう慌てないでよ。 ちゃんと順を追って話してあげるから」 



そういうと私は、昔の事を思い出し始めた。 
そう、あれは十年くらい前の真夏の夜の出来事だった―― 



…… 



… 

「もう、どこ行っちゃったのよ。 
 お父さんもつかさも、だらしがないわね」 



そういうと、幼い頃の私は浴衣の袖をまくって腕を組んでいた。 
その日は、近所の夏祭りにお父さんとつかさとの3人で来ていた。 
しかし、予想以上に人が多かったのと、気がはやっていたせいで、 
いつのまにか一人になってしまっていた。 



「まったくもう、二人して迷子になるなんてね。 
 しょうがない、捜してみよっと」 



ていうか、今考えてみたらどうみても迷子なのは私の方じゃん。 
私は、過去の自分に突っ込みを入れていた。 



「はぁっ、はぁっ……」 



夏祭りの喧騒が響き、満天の星空が降り注ぐ。 
そんな中を私は、早く二人を見つけ出そうと、全力で走っていた。 
そして、突き当たりの角を曲がった次の瞬間―― 



どーーーーんっ! 



誰かとぶつかった。 一瞬視界が真っ暗になる。 
そして、前をみると私と同じ位の年の子が立っていた。 
ぶかぶかの短パンに黒いシャツを着て、髪は短くまとめ上げている。 
パット見、男の子にも女の子にもみえた。 



「ごめん、大丈夫? 僕、ちょっとよそ見しててさ……」 
「うん、平気だよ。別に気にしなくていいわよ」 



自分の事を、『僕』とか言ってるから男の子かな。 と私は解釈した。 
話を聞いてみると、その子もお父さんを捜しているとの事だった。 
という事はこの子は迷子だ。 私がついててあげなくちゃ。 



「じゃあさ、アンタのお父さんも一緒に捜してあげるわよ。 
 それでいいでしょ?」 
「うん、いいよ。一緒に捜そう」 



そして、私たちはお互いのお父さんを捜し始めた。 
しかし、いくら捜しても見つけ出す事が出来ない。 



「みつからないね……」 
「やっぱり、お父さんは全然ダメね。 
 お母さんの方が絶対にいいわよ。 
 アンタもそう思うでしょ?」 
「えっ……」 



意外な事に、その子は私の言葉を聞いた途端、 
黙り込んでしまった。 そして、ほんの少しの間を置いて、 
その子はうつむきながら喋りだした。 



「……いっちゃったんだ」 
「え?」 
「お母さんね、少し前に遠くにいっちゃったんだ。 
 だから、僕とお父さんだけなんだ」 



悪いことを聞いてしまったと思った。 
そして次の瞬間、私はとっさに口を開いていた。 



「じゃあさ、私がアンタのお母さんになってあげるわよ」 
「えっ、お母さんに?」 
「そうよ。だから元気出しなさいよ、ね」 
「うん、ありがと!」 



そういうと私はその子の手を握って歩き始めた。 
ぶらぶら練り歩く内に、射的の屋台が私たちの目に入ってきた。 



「ねぇ、射的でもやっていこっか?」
「うん、いいよ」



私は、お金を取り出すと、それを屋台にいたおじさんに渡した。
そして、射的用の銃とコルクをもらうと、私は早速射的を始めた。
しかし、景品にコルクが中々当たらない。
何発撃ってもコルクが空しく宙を舞うだけだった。



「もうっ、どうして当たらないのよ」
「それはね、愛が足りないからだよ~」
「それじゃあアンタがやってみなさいよ」
「いいよ。でも、よく見てなきゃ見逃しちゃうよ」



そういうとその子は私から受け取った銃にコルクを詰めると、
素早くそれを構えた。 そして、次の瞬間――
『ポンッ』という音がすると同時にチョコ菓子入りの箱が床に落ちていた。
ふと、その子のことがちょっとだけカッコよくみえた。 

  

「ざっとこんなもんかな。ほら、一緒に食べよ」
「すごいじゃない、どうやって当てたのよ?」
「ふふふ。愛だよ、愛!」



その後、私たちは当初の目的も忘れて夏祭りを楽しんだ。
わた飴、金魚すくい、ヨーヨー、数字合わせ……
ホントに楽しい時間だった。
そして、夏祭りも終盤に差しかかった頃――



「あ、お父さんだ!」



不意に、その子が大きな声をあげた。
見ると、出口の方で男の人が手を振っていた。
どうやら、この子のお父さんらしい。



「ごめんね、僕もう行かなきゃ」 
「えっ、もう行っちゃうの?」 
「うん……あ、そうだ。いいものあげるよ」 



そういうとその子は、ポケットの中から一枚のカードを取り出した。 
そのカードは、表面が金銀にキラキラしていて、その中には 
銃を構えたキャラクターが描かれていた。 



「これ、あげるよ。仲良くしてくれたお礼だよ。 
 大切にしてね。じゃあね~」 
「うん、ありがとう。あっ、ちょっと待って! 
 アンタの名前、まだ聞いてなかっ……」 



そう私が言い切る前に、その子は出口の方に走っていってしまった。 
私は、カードを手にしたまま、しばらくぼうぜんと立ち続けていた。 
胸の奥に芽生えた、不思議な感覚を残して…… 



「あ、お姉ちゃ~ん」 
「かがみ~、ずいぶん捜したんだぞ」 



私が、お父さんとつかさに再び会ったのは、あの子と別れてからすぐだった。 
一瞬で、気持ちの切り替えをした私はお父さんに文句という名の言い訳をした。 



「もう、どこ行ってたのよ! ずいぶん捜したんだからね!」 
「ははは、こりゃ参ったな。お父さん達の方が迷子だったって訳か。 
 ま、そういう事にしておこうかな。さて、それじゃあ帰るとするか」 
「あ、待ってお父さん。実はね……あっ」 



お父さんは、既に私の手を握りしめていた。大きな手。 
こんな状況では、あの子を探しにいくからまた一人になりたい、 
とは言えなかった。そして、あれ以来あの子には会っていない。 
だけど、あの子とのつながりは完全に無くなってはいなかった。 



「このカード、キラキラしててキレイだなぁ」 



そう、あの子がくれたこのカードだけは大切にしなくちゃ。 
そう思った幼い頃の私は、カードを封筒の中に入れて、 
夏祭りの思い出と一緒に自分の机の中にしまいこんでいたのだ。 
そして、10年以上の月日が流れて――――



…… 



… 


「……てなことがあったってわけよ」 
「へえ~、そんなことがあったんだ。 
 それで、カードだけはずっと持ってたんだね」  
「そうなのよ。ま、儚い初恋だったけどね」 



二人でそうこう話している内に、呼び鈴がなった。 
どうやらこなたが来たらしい。 
私は、いつもの様に玄関に向かった。 



「ちわ~。今日も暑くてやんなっちゃうよ」 
「お~っす、そういうだろうと思って、 
 冷房入れておいてあげたわよ」 
「やほーい。それじゃあ今日もよろしく~」 



そんなやりとりをかわしつつ、私たちは部屋に向かった。 
しかし、部屋に入った直後。こなたの動きが止まった。 



「どうしたのよ、急に立ち止まったりして」 
「いやね、今つかさが持ってるカード、かな? 
 なんか見覚えが……」 
「ふ~ん、それじゃあ直接見てみたら? 
 つかさ、こなたにそのカード渡してあげて」 
「うん、いいよ~」 



つかさからカードを受け取ったこなたは、 
まるで何とか鑑定団の人の様な目利きを始めた。 
触ったり、光に照らしてみたり、角を調べたりしていた。 
そして、鑑定を終えたこなたが、予想外の声を上げた。 



「これ、私が小学生の頃持ってたカードじゃん! 
 どうしてかがみが持ってんのさ!?」 

☆ ☆ ☆

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、 
 どうしてそのカードが自分の物だってわかるのよ!?」 
「わかるんだな~、これが。 ほら、ここ見てみてよ」 
「なによ、一体なにがあるって……あっ!」 



こなたが見せてくれたのはカードの表ではなく、裏のほうだった。 
よく見てみると、カードの左下の隅の方にカタカナで小さく『コ』と 
書かれてあった。 



「でも、どうしてこんなマークつけたの、こなちゃん?」 
「いやね、昔お父さんと一緒に食玩に大はまりしてた時があってさぁ。 
 その時私が買った分の中身がこのカードなわけよ。 
 そんでもって私のカードだから『コ』のマークをつけてたって訳」 



私の頭の中は沸騰し過ぎた湯船のごとくグラグラしていた。 
だ、だってあの子は自分の事を僕って言ってたもの。 
それに髪型だって短めで、服装も男の子って感じだったし。 
あ、でも左目の下に泣きぼくろとかあったような……あ、あれ? 



「どったのかがみ? 顔真っ赤だよ」 
「こなた! 今から私の質問に正直に答えて。いいわね!」 
「え、そりゃ別にいいけどさ」 



私は、胸の内にある疑問を全てぶつけてみた。 
そして、その答えはピンポイント射撃の様に正確に返ってきた。 



「ああ、その頃は確か僕っ子の女銃士が主人公のアニメにもはまっててさ。 
 多分その影響だったと思うよ。髪もそのキャラに合わせて短くしたりもしたね。 
 ていうかそのカードに描いてあるキャラなんだけどさ」 
「じゃ、じゃあ男の子っぽい格好してたのは?」 
「う~ん、ただ単に当時のお父さんの趣味で着させられてただけだと思うよ」 



私の中で、『あの子』のイメージが、さっきとは180度変わっていた。 
そんなことよりも、こなたとそんな前に会っていた事の方が驚きだ。 



こなたは、事の真相を知って満足そうな笑みを浮かべていた。 
慌てっぱなしの私とは、まるで正反対だ。 



「いや~、まさかあの時の女の子がかがみだったとはね。 
 なんか運命めいたものを感じちゃうよ」 
「ま、まあね~。腐れ縁ってやつかしらね。」 



冷静さを装ってみるが、声がうわずっているのが分かる。 
そんな矢先、つかさがとんでもない事を口にだしていた。 



「あれ? それじゃあ、お姉ちゃんの初恋の人って、こなちゃ……」 
「わ~、つかさ! それは言っちゃだめぇぇぇ!」 
「なになに、どういうことなの?」 



それからしばらくの間、勉強をそっちのけにして、 
私が言い訳をし続けたのは言うまでも無い。 



そんな中、机の上に置いたままの思い出のカードが、 
真夏の日射しを受けて、キラリと反射していた―――― 


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- 僕っ子こなた見てみたいなぁw  -- 白夜  (2009-12-17 00:20:12)
- おとぎ銃士か  -- 名無しさん  (2009-12-05 22:28:50)
- いいはなしやなぁ。  -- 白夜  (2009-10-15 23:16:49)
- この話最高ーww  -- 名無しさん  (2009-09-01 20:10:33)
- 良いなこの話!思わずにんまりしたよ  -- 名無しさん  (2009-08-11 05:58:25)
- さわやかなお話ですごいよかった!  -- 名無しさん  (2008-09-15 21:07:16)
- ダブっていた部分があった様なので、修正しました。 &br()細かい部分も手直ししてあります。名無しさんのご指摘のお陰 &br()で気付くことが出来ました。感謝致します。  -- 1-166  (2008-09-15 09:56:06)
- 『実は小さいころにあったことがありました』っていうSSの元祖ですね。 &br()途中でダブっている文章があるけど、されを差し引いても素敵なお話でした。  -- 名無しさん  (2008-09-13 10:27:57)

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