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二人だけの空間」を以下のとおり復元します。
「かがみー、勉強教えてくれない?」 
「あら、珍しいわね。テストが近いわけでもないのに、こなたが勉強しようと思うなんて」 
「でもはら、私たちももう受験生なんだから、そろそろ勉学に励まないと、って思うんだよね」 
「へえ、やっとやる気を出したのね。もしかして、志望校とかも決めたの?」 
「ううん、一応勉強しておいたら、大学の選択肢が広がるんじゃないかと思ってね」 
「またそんな適当な目標を掲げて、すぐにやめちゃうんじゃないの?」 
「大丈夫だって。じゃあ、明日かがみの家に行くから。明日は土曜日だし、宿題もいっぱいあるしね」 
「ちょっとこなた、あんた宿題を処理するのが目的じゃないでしょうね」 
「そんなことないって。ところでかがみ様。私めに数学の教科書を貸していただければ非常に有り難いのですが……」 
「別にいいけど、あんた置き勉してるんじゃなかった?」 
「この前持って帰ったんだよ。普段時間割なんてしないから忘れちゃって」 
「ふーん、今度からはちゃんと持ってきなさいよ。はい。あ、でも次の次が数学だから休み時間になったらすぐ返してよね」 
「分かってる分かってる。ありがとう、かがみ」 
こなたは小走りで教室を出て行った。 
それにしても、教科書を持って帰ったってことは、こなたも少しは勉強する気になったのだろうか。 



柊家 
「あ、そういえばつかさ、明日こなたが家に来て勉強する予定なんだけど、つかさも用事が無いなら一緒にやらない?」 
「え、そうなの? でも明日私、ゆきちゃんにバルサミコ酢を使った料理を教えてもらうつもりなの。ごめんね」 
「別に謝ること無いのよ。うーん、そうなると、明日はこなたと二人きりか。マンツーマンで勉強を叩き込んでやろうかしら」 



土曜日になった。昨日早く起こしてと頼まれていたので、つかさを叩き起こす。つかさは寝ぼけ眼で出かける準備をして、九時半には家を出てみゆきの家に行った。 
現在時刻は十時過ぎ。こなたはまだ来ない。 
そういえば、こなたは何時に行くなんて具体的なことは言ってなかった気がする。もしかしたら、まだ寝ているのかもしれない。 
こなたに限って約束を破るなんてことは無いだろうが、早く来て欲しい。 
人間、友人が家に来る直前は、何も手につかないと思う。結局勉強も読書も何もせず、そわそわと部屋中を動き回っていた。 




チャイムがようやく鳴った。やっと来たかと思いながら玄関に行く。 
「やぁかがみ。外は暑いねー。砂漠で体力が減る理由が分かった気がするよ」 
「こなた、遅かったわね。今まで何してたのよ。寝てたの?」 
「そんなことないって。ちゃんと九時には起きてたよ。でもあんまり暑いからコンビニでずっと涼んでたんだよね」 
「あんたねえ、人を待たせてるんだから、さっさと来なさいよ」 
「いや~、ごめん。でもかがみなら、ずっと待っててくれると思うから、ついつい寄り道しちゃうんだよね」 
「な、何言ってるのよ。まあ、とにかく上がって。冷房入れてるから」 
「え、ほんと? やったー」 
こなたは颯爽と部屋に向かって駆けていった。 
「はぁ、現金な奴ね……」 



テーブルを囲んで向かい合うように座る。 
しばらくは黙って勉強を続けた。 
私は集中してやっていたが、こなたは何度もテーブルに顔をうずめたり、後ろに倒れこんだりしていた。 



「かがみんかがみん、宿題終わってるの?」 
「え? ええ、終わってるわよ」 
「じゃあ、答え写すからちょっと見せて」 
「こなた、宿題くらい自分でやりなさいよ。勉強しないといけないとか言ってたのはあんたじゃない」 
「でも宿題って、なんか無理矢理やらされてる感があってやる気が出ないんだよね。ゲームでもお使い要素が多いと萎えてくるし、やっぱり自主的にやるのが一番なんだよ」 
「まあ、確かにあんたの言うことは分かるけど、もう高三なんだから、屁理屈ばかり言ってやらなかったら、将来後悔するわよ」 
「今度からはちゃんとやるから、今日だけ貸してよ~」 
「あんたのために言ってあげてるのよ。とにかく、絶対に貸さないからね」 
「かがみんのいじわるー。私の頭じゃ全然わかんないんだよぉ。う~~~」 



こなたはテーブルに顎を載せてうなり始めた。 
それを見てると、自然と笑みがこぼれてくる。 
「あー、もう分かったわよ。私が教えてあげるから。でもちゃんと、自分の力で解くのよ」 
「ほんと? いやー、かがみんは優しいなー」 
こなたはすぐに体を起こして喜んだ。私の言葉で一喜一憂しているのは、見ていてなんだか楽しい。 
それにしても、よく恥ずかしげもなく優しいなんて言えるものだ。私には到底無理なことだろう。 

「ねえねえかがみ、これはどうすればいいの?」 
「どれどれ、ちょっと貸して。あー、これね。これはこうして、ここをこうすれば簡単に解けるわよ」 
「おぉ、さすがかがみん。伊達に努力してるわけじゃないねー」 
「な、そんなことより早く教えてあげた問題やりなさいよ。自分でやらないと何の意味もないわよ」 
「かがみん照れてるねー。さすがツンデレ」 
「ああ、もう。馬鹿なこと言ってないでさっさとやりなさい」 
そういえば、こなたはツンデレという性格をどう思ってるんだろう。 
だらだらと問題を解いているこなたを見ながら、ふとそんな疑問が浮かんできた。 



何考えてるんだろ、私は。 
変な感覚を打ち払うように、目の前の問題に集中した。 



「そういえばさ、最近大学に入る女子が増えてるせいで、結婚する年齢が上がってるらしいね」 
「へえ、そういうことは覚えてるのね。……ところでこなた。あんた、結婚する気はあるの?」 
「いきなり凄い質問をしてくるね……。 まあ、私は結婚しないというか、出来ないと思うよ」 
「なんでそんな自虐ネタに走るのよ。こなたなら、その、結構モテるんじゃないの?」 
「あー、よくいるよね。お互いを褒めあって安心する女子って」 
「そんなんじゃないって。こなたは本当にモテると思うわよ。コスプレ喫茶でバイトもしてるんでしょ」 
「まあ、そういう趣味の人には好かれるかもしれないけどね。それがモテるに直結するわけじゃないよ。それで、かがみんは将来結婚するつもりなの?」 
「え? わ、私はそんなつもりないわよ」 
「あれ? かがみ、男がいるんじゃなかったっけ?」 
「それはあんたの勘違いでしょ。いるわけないじゃない」 
「そんなに必死に否定するから怪しまれるんだよ。何か隠してるんじゃないの?」 
「な、何も隠してないって。そんな無駄話より、さっさと勉強再開するわよ」 
「……は~い」 



私には男なんていないし、別に好きな人もいない。でも何故か、こなたに核心をつかれている気がする。 
自分で自分がわからない。そんな感じだ。 
今こなたは、両手で頭を抱えながら、問題とにらめっこをしている。口をへの字に曲げて、考え込んでいるようだ。 
一度ため息をつく。こなたの観察ばかりしすぎだ。集中力が足りない。 
脳裏にこなたの言葉が蘇る。 
結婚はしない、出来ない、か。それを聞いて私は、残念がったのだろうか。それとも、喜んだのだろうか。分からなかった。 
もう、自分で分かるのは手元にある数学の問題だけだ。しかし、今はそれすら手につかない。 



こなたが突然四足歩行でテーブルの反対側にいる私のほうに歩いてきた。 
「かがみん、これどうやるの?」 
「ん? どうしたのよこなた。こっちにこなくても、教えてあげるのに」 
「いや~、いちいちかがみに見せて、教えてもらってからやるより、同時にやったほうが早いと思ってね」 
こなたがすぐ隣に座る。普通にしていても肌が触れ合いそうな距離だ。ここまで接近したのは初めてかもしれない。 
シャーペンを握った手が震えている。こなたに勉強を教えようということに緊張しているのだろう。 



どうやって教えたのかは覚えていない。しかし、こなたのノートにはきちんと回答が書かれていた。 
「はー、これでようやく宿題が終わったよ。ありがとう、かがみ」 
こなたの体が、右へと倒れる。私の膝の上に、こなたの頭が乗った。 
「な、こ、こなた。いきなり何するのよ。びっくりするじゃない」 
「ちょっと今日は5時までゲームしてたから、眠いんだよね。ちょうど一段落ついたし、一時間くらい経ったら起こしてよ」 
「あんたまさか宿題だけして帰るつもりじゃないでしょうね」 
返事は来なかった。よっぽど眠かったのだろう、くーくーと小さな寝息を立てている。 



しかし、5時まで起きていたということは、こなたは4時間しか寝ていないということになる。 
次の日のことくらい、考えておけばいいのに。 
でも、眠いのを我慢してきてくれたのかと思うと、少し嬉しくなる。 
独りになったのだから勉強に集中しようと思うが、どうしてもこなたのことが気になる。 
正座した膝の上にこなたが頭を乗せているのだから、仕方がない。下手に脚を動かせば、落ちて頭を打つかもしれない。 


シャーペンをテーブルに置いて、体を後ろに傾けた。両手で体を支える。 
こなたは上を向いた姿勢で眠っている。 
閉じられた目と、弾力のありそうな頬、柔らかそうな唇。今のこなたは本当に無防備だ。 
……っ、私は何を考えて……。 
平常心を取り戻すために、一度深呼吸をする。 
こなたはだらしなく両腕を左右に広げていた。今、目の前にはこなたの左手がある。 
手を繋いだことはあっただろうか。 
無意識のうちに両手がこなたの左手に伸びた。考える時間なんてなかった。 
両手で包み込む。ほのかな温かみが手に伝わってくる。 
しかし同時に自責の念に駆られる。寝ているこなたの手を触るなんて、どうかしている。 
こなたは私を信用して体を預けてきているのに、それを裏切ったのではないだろうか。 
でも、自分の気持ちを抑えることが出来ない。心臓が激しく脈打っている。体が火照ってくるのが分かる。 



私とこなたの二人だけの空間。そしてこなたは眠りこけている。 
触っていた左腕をゆっくりと床に戻す。 
ゆっくりと、こなたの髪を撫でた。さらさらとしていて、くすぐったいくらいだ。 
しばらくその長くて綺麗な髪を弄っていた。滑らかで、気持ちがいい。 



こなたの寝顔を見る。口元は緩み、幸せそうな表情をしていた。つられるように笑みがこぼれる。 
なんて言えばいいんだろう。こなたは、本当に可愛い。 
震える手を、少しずつ顔に近づける。 
人差し指で、優しく頬を押してみた。 



ぷにっ 



「ん~……」 
「あ……」 
こなたがそれに驚いたのか少し体を動かした。だが、まだまだ起きる気配はない。 
ぽよぽよしていて、見たとおり弾力があった。柔らかい手触りだ。 



「うぅぅ……」 
こなたは私の指を避けるように、テーブルの方を向いて寝返った。 
膝の傾斜で滑り落ちそうになったので、また仰向けになるように手前に寄せて向きを変える。 
深呼吸を、ひとつ。 
こなたを見下ろす。目は覚めていないようだ。あまりにも気持ちが良くて、我を忘れてしまっていた。 



こなたの唇は、今むにゃむにゃと波打っている。 
動悸が素早くなるのに合わせて、呼吸も荒くなってくる。 
落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐き、一気に吸い込んだ。 



こなたの唇に、自分の唇を重ねる。 
柔らかくて、温かくて、なんだか甘い感じがする。 
「ん………」 
今、私はこなたとキスをしてるんだ。これが、こなたの唇の感触なんだ。あぁ、こなた、こなた、こなた……。 
「ん~、ん」 
こなたが少し声を上げた。驚いて目を開ける。 



目が合った。 
「あ、こ、こ、こなた。お、起きてたの?」 
慌てて顔を上げるが、もう手遅れだった。 
「かがみ……私にキスしてた?」 
「い、いや、その、それは……。ご、ごめんこなた。その、こなた見てたら思わず……。ほんとにごめん」 
あー、私こなたに嫌われたかな。寝てる間にキスするなんて、最悪だ。 



「……そんなに謝らなくてもいいよ」 
「……ごめんね。私って最悪な人間だわ。こなたのことなんて考えずに……」 
もうこなたと顔を合わせることも出来なかった。俯いた視線を横にずらす。 



いきなり、首に温かい感触がきた。こなたが後ろから抱き付いてる。 
すぐ横に、こなたの顔がある。 
「大丈夫だよ、かがみ」 
「え?」 
「私は平気だよ。だから、自分を責めないで」 
「どうして? あんなことされたら、普通……」 
「私ね。……かがみのこと……、好きだよ」 


時が止まったような、そんな気がする。 
しばらく、どういう意味か分からなかった。思考がフリーズする。 



ゆっくりと、言葉を理解していく。 
ああ、そうか。こなたも……。 
でも、こなたは私よりずっと正直で、純粋だ。 



それに比べて、私はずるいな。 
今までずっと、抑え込もうとしていた。隠れたところでこそこそやるだけだった。 
ほんの少しだけでも、自分に正直に…… 
「ねぇ、こなた」 



次の言葉が喉に引っかかって出てこない。早く言えばいいのに、声が出ない。 
こなたは何も言わない。ただ、私をきつく抱きしめてくれた。 
温かいな……。 
「あ、あのね……。私……」 
もう一息。私は、こなたが好きだったんだ。 
ようやく分かった。今まで自分に嘘をついて、心のどこかにしまいこんでいた気持ちが。 
ゆっくりと外に出る。 
「私も、こなたのことが、す……、す、す、好き」 
ああ。真っ白だ。 



「あはは、かがみん顔真っ赤だね」 
「な……」 
「まあ、かがみは素直じゃないから、すごく言いづらいよね。……ありがとう。嬉しいよ、私。 
……それにしても、口と違って体は正直と言うか」 
「そ、それは……」 
何も言い返せない。でも、そんなのどうでもよかった。 
とにかく、嬉しかった。 
「かがみも結構大胆だよね~。奥手かと思って……はむっ!」 



こなたに抱きついて、そのまま床に倒れこんだ。 
また、こなたにキスをする。 
ゆっくりと、こなたの口の中に舌を入れた。 
こなたの舌と絡めあう。ゆっくりと、優しく触れていく。 
「う……」 
唾液と唾液が交じり合う。 
これで、こなたと一つになれたような気がする。 



こなたは目を瞑って震えている。 
それでも、私を受け入れてくれている。 
こなた……、ずっと一緒だよ。 



何分経っただろうか。時間の感覚が分からなくなっている。 
息苦しさを覚えて、唇を離した。 



「うぅぅ……。かがみぃ、苦しいよぉ……」 
こなたは仰向けのまま動かない。息が荒くなっていた。 
「こなた、ごめん。大丈夫だった?」 
「なんだか、わけが分かんないよぉ。すごく、変な気持ち……」 



こなたの隣で同じように横になる。 
両手で抱きしめて、引き寄せる。 
「かがみ……?」 
「こなた、あのね……」 
言いたい事はいっぱいあった。何から言っていけばいいのかも、分からないくらいに。 



でも、もう言葉なんて要らないかな。 



もう一度、強くこなたを抱きしめる。 
こなたも、私をきつく抱きしめてくれる。 



わたしとこなたの、二人だけの時間が始まる。 


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