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Sugarless Day」を以下のとおり復元します。
休日。 
やることがなくて、なんとなく家の近くを散歩している。 
今年は例年に比べて暖冬だと言われているけど、まったくもってその通りだと思う。 
ニュースで言われていた今年の気候を思い出しつつ、 
こういう時に限って雲一つない空から届く暖かい陽をその身に感じながらも私は歩いていた。 

なんていうか、冷めた心が少しでも暖かくなるようなそんな感じよね。 

ふとご近所の庭に飾られた、灯りの点っていない 
小さなクリスマスイルミネーションに目を奪われ、歩みを止める。 
するとさっきまで暖まっていた心が急に冷えていく錯覚に囚われた。 

…そういえば、クリスマスなんてものもあったわね。 
世間を沸かせているイベントは私には無縁なもの。 
だって、愛しいあの人は今日もバイトでサンタのコスプレを堪能してる。 

…こんな気分になるのは全部こなたのせいだ。 

居て欲しかった。けど、傍にいないその人に、私の卑屈的な気分と 
自分の所在無さの原因を全部擦り付けて私は再び歩き始める。 

────────── 
Sugarless Day 
────────── 

「え…こなた、クリスマスイブはバイトなの?」 
「そだよー。かがみに言わなかったっけ?」 

高校の終業式を終えた一昨日の夜。 
そんな電話をこなたとしていたのが事の始まり。 
お互いの想いが通い合ってまもない、さらにそれまで恋愛経験0の私にとっては、 
こういったイベントは当然の如く一緒に過ごすものだと思い込んでいた。 
だから、こなたの答えは私の心を酷く抉った。 

「そう、なんだ…」 

傷ついたとは言えど、もうちょっと自分の感情を押し隠した言い方を 
できないものかと思ったのは後の祭り。 

「あるぇ~?かがみん。私と一緒にクリスマス過ごしたかったとか?」 

私の想いを他所に、当の本人は然程気にしていないようで、 
猫口笑顔が思い浮かぶような口調で私をからかう。 
そんなこなたに対して、私の中に沸々と憤りが生まれたのは言うまでもない。 

…こういうとき何て言えばいいのかしら。 


空気読め? 


鈍感すぎるこなたへ憤りは確かな怒りに変化して、 
それに支配された私は気づいたら黒電話に噛み付くように声を張り上げていた。 

「べ、別にそんなんじゃないわよ!!! 
ちょっとだけ期待してたけど、寂しくなんか無いわよ!!」 

本音と建前が怒りによって同時に出ているこの言動は、 
こなたにはどんな風にみえたんだろうか。 
私としては『ああ、やってしまった』としか思えないわけで。 
次に帰ってくるこなたの言葉が妙に怖く、居たたまれなくなった私は 
こなたの言葉を聞く前に受話器を電話に置いていた。 

その後、こなたから携帯に何度か電話があったけど私がその電話をとる事はなかった。 

 * * * 

「はぁ…」 

散歩を終えて、日の高いうちから私は自室のベッドの上でごろ寝を決め込んでいた。 
憂鬱に囚われたままの私は何度目かもわからない溜め息をつき、 
枕元のラノベに手を伸ばす。 
開くだけ開いて、文章が一文字も頭にはいってこないからすぐに枕元に戻す。 
もう同じ行動を何度も繰り返してた。 

…こんなことならこなたからの電話に出るんだった。 

何かが変わってたのかもしれないと、後悔の念に襲われて、 
自分の軽率さが目頭を熱くする。 
切ない気持ちとやるせない気持ちを押さえたくて、私は顔を枕に埋めた。 

… 
…… 
……… 

どうやら私はあれから寝てしまったようで、 
耳元でなってる携帯の着信音が私の意識をノックしていた。 
正直何もやる気が起きない状態で電話に出る事も億劫だったけど、 
一向に鳴り止まない着信音についに業が煮えた。 

誰からの着信か確認する前に、寝ぼけた頭で通話ボタンを押す。 

「…はい」 
「あ、かがみ~?やっと出てくれた」 

その相手は間違えなくこなたで。 
私の意識を一気に覚醒まで持っていく。 

「…こ…なた?」 
「そだよーかがみんったらひどいよ。電話でないし」 
「なんで?あんたバイトじゃなかったの…?」 
「ん、そりゃ確かにバイトだったけど」 

ちょっとだけ怒ってるようにも聞こえるその声でこなたが続ける。 

「誰も一日中バイトがあるとは一言もいってない訳ですヨ」 
「…あ」 

…言われてみればそうだった。 

「午前中バイトなだけで、午後はしっかり休みもらってたんだよね。 
かがみん、最後まで人の話聞かないんだもん」 
「だって!あんたが…!」 

そこまで言った言葉が後に続くことはなかった。 
冷静に考えれば、こなたは何も悪い事はしてない。 
全部私の勘違いや思い込みでここまで事を大きくしたのは間違えなく私。 

「まぁとりあえずさ、ドア開けてくんない?」 

ネガティブな私の心中を察したのか、流れを変えるようにこなたが言う。 

…実はさっきから気になっていた。 
自室の扉の向こうから、こなたの声がエコーして聞こえているのだ。 
携帯を耳に当てたまま、それを確認するために扉に近づく。 

「…こなた、今どこにいんのよ」 
「ん~?そりゃかがみさん、ドアを開けてからのお楽しみですよ」 

ドアの向こうと携帯の受話口から間違えなくこなたの声がエコーしている。 
恐る恐るドアを開けると。 

「1日ばかり早いけどメリークリスマス、かがみ」 

…廊下にはサンタクロースの姿をしたこなたがいた。 
そう言うこなたの顔は少し、ほんの少しだけ怒っているように見えて。 
ドアを全開にする前に私に抱きついてきた。 
その勢いで扉も閉まり、私とこなたは私の部屋に押し込まれる形になる。 

胸の中にあるこなたの温もりが私の冷えきった心を溶かしていき、 
驚きが勝っていた感情が徐々に愛しき人へと向く。 
抱き締め返して、すっかり素直になった気持ちのままこなたに向き直る。

「こなた…ごめ、んっ…」 

この数日、こなたにしてしまった行いに対し謝罪を口にしようとした刹那。 
一見それは最後まで言い切ってるように見えるけど。 
最後の一文字は、首に回された腕で強制的に屈む形になった私の唇を、 
こなたが自身の唇で塞いだときに出た音。 

…ようは、キスされ…てるわけで…。 

キス自体は初めてじゃない。 
けど、大概こういうときは目をつぶってるのは私は、 
今回は唐突過ぎて目を開きっぱなしにしていた。 
対するこなたは目をしっかり瞑っている。 

この状況をいつも以上に気恥ずかしく感じていた私の限界はすぐに訪れた。 
「ぷはっ」と息を吸い込む音とともにこなたから唇を離す。 

未だ唇がふれあうくらいの至近距離で。 
私の様子にご満悦のこなたが抱き締める力を一層強めてから言う。 
…顔が熱い。 

「こんな日にごめんなんていらないよ…かがみ」 

そして再び唇同士が繋がる。 

──もしも2人の気持ちが最初から繋がり合っていたら、 
今日という日はもっと甘いものになっていたのかな。 

だから、これはまだ糖分控えめよ、きっと。 

────────── 
Sugarless Day -FIN- 
────────── 

おまけ。 

「結果オーライでいい気がしなくもないけど…」 
「どったの、かがみん。気になる事でもある?」 
「…あんた、住居不法侵入じゃないの?」 
「ほえ?なんで?」 
「私に会うためといえど、勝手に人の部屋の前まできてるとか、どうなのよ」 
「ああ、そういうことね。それなら大丈夫だよ」 
「は?」 
「えーネタばらししたらサンタじゃなくなっちゃうけど…」 
「いいから言いなさいよ」 
「つかさに協力してもらったんだよねー。かがみ電話でてくれないし」 
「あ」 
「…存在を忘れられてたつかさが不憫に思えて仕方が無い」 
「ということは!?」 

(お姉ちゃんにこなちゃんどんだけー…!) 

そんなつかさの叫びが聞こえた気がした。 









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