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何気ない日々:膝を抱え込むように悩む二人 - (2009/02/11 (水) 02:26:29) の編集履歴(バックアップ)


何気ない日々:膝を抱え込むように悩む二人

 これからどうしたもんか。うまく立ち回っているから誰にもバレてはいないと思うし、バレていたら、皆と一緒にこうして笑っていられるとは思わないけど。
 それでも油断したらバレてしまいそうな不安と、いっそ、バレてしまった方が楽になれるんじゃないかなという、そんな自堕落な感情に振り回されながら過ごしている気がする。
 あの夜の、かがみの手の暖かさと安堵感、それに・・・気恥ずかしくて、けれど誰にも言えない切ない胸の高鳴りを。
 私は、かがみがお見舞いに来てくれていたあの日の深夜に目を覚ました。何をきっかけに目を覚ましたかなんてわからない。
 目を開けたときにはかがみはいないんじゃないかなって思ったんだけど。そこは流石、かがみだね。ちゃんと手を握ったまま椅子に座って傍にいてくれた。
 椅子に座ったまま、頭が揺れるたびに一緒に揺れる二房の髪の毛が、かがみらしくなくて声を殺して笑ったんだっけ。
 しばらく、そんなかがみを見ていた。一定の間隔を保ったまま器用にバランスをとりつつ揺れているのは、とても貴女らしいと思った。
気がつかなかったけれど、雨はいつの間にか上がっていて、開いたカーテンから降り注ぐとても美しい月明かりの中にいるかがみが、その光を受けるかがみがとても美しく見えて、呆然と、ただただ見とれていたんだ。そして・・・その唇にも。
 ―それから。
「ごめんね、かがみ・・・」
私は、約束を守りつつも座ったまま、熟睡しているかがみの唇にそっと口付けをした。
 卑怯なことだと思う。今度のは、事故じゃなくて、ただの自己満足の口付け。
 それは、甘酸っぱいなんてそんな感じじゃなくて、現実感が薄くて暖かくてしょっぱかった。私は、またいつの間にか泣いていたらしい。
 その涙は多分・・・
 きっと、月明かりに照らされて消えてしまいそうな貴女の美しさに。
 きっと、約束を守ってくれている貴女への裏切りという罪悪感に。

 ―ねぇ、かがみ?こんな想いを胸に持ったままの私をまだ貴女の傍にいさせてくれますか?

 私の風邪が治って一週間もたたないうちに今度はかがみが風邪をひいてしまった。よく漫画やアニメであるけど、風邪はうつせば治るって。
 やっぱり、あのキスがまずかったかなぁ。でも、そんなこと誰にもいえないし。
「どうも、私の風邪がお姉ちゃんに感染(うつ)しちゃったみたいで・・・はぁ~」
つかさがため息を吐いてうな垂れる。心なしか髪を結っているリボンもしおれているような感じだ。
「いやー、もしかしたら、私の風邪が時間差で感染っちゃったのかもしれないし、つかさの所為とはいえないよ」
ただ単にあの時、かがみが起きてて顔を合わせづらいから風邪ってことにしてもらって休んでるんじゃないかなぁって疑ったりもしたけど、流石に家のお父さんじゃないしずる休みなんてそうそうさせてもらえる訳ないよね、とりあえず、そう信じておこう。
「最近、急に冷え込んできましたから、仕方が無いですよ。私も気をつけないといけませんね。でも、風邪は治りかけが危ないといいますし、つかささんや泉さんも気をつけてくださいね?」
みゆきさんが心配そうに呟いた。やっぱり私達は四人いないと少し静かになってしまうようだ。
「かがみさんも、そんなに酷くないといいのですが・・・」
「とりあえず、インフルエンザじゃないから、きっとすぐ治るよー、ゆきちゃん」
つかさが笑顔で言うものの、会話はそれ以上続かず、私達はもくもくと昼食をとった。
 今度は私がお見舞いに行くべきかなぁ。何も持っていかずに帰りにちょこっと顔を見に行くくらいがやっぱり私らしいよネ。
「今度は私がお見舞いに行こうカナ」
ほかに話題も無かったので、そう呟くと、
「お姉ちゃんが、こなちゃんは治りかけだし、ゆきちゃんは感染るといけないからお見舞いは気持ちだけでいいって伝えておいてって言ってたよ」
「そっか・・・」
「そうですか・・・」
お見舞いはだめらしい。私の場合は前科があるから、警戒されてるのもあるんだろうけどネ。自分が風邪をひいてるのに人の心配をするというのもかがみらしいな。
「そういえば此間、こなちゃんのお見舞いに行ってからお姉ちゃん、ちょっと雰囲気変わったような気がするんだけど、なんでかなぁ~。こなちゃん知らない?」
つかさの目はこっちを向いているのに見ているのはどこかわからない。自分の世界にはいってしまった感じだ。

「い、いや、と、特に心当たりは無いヨ?」
あまりに突然のことに声がわずかに裏返ってしまった。それも始末が悪いことに心当たりになりそうな前科もあるし・・・あの時、起きてたとしたら気持ち悪いとか思ってるのかもしれないしなぁ。
「ふふっ、そうですか。どんな風に変わったんですか?」
「うーん、何だかぼーっとしたり、悩みこんだり、たまに百面相してるから」
「そうですか。大丈夫ですよ、かがみさんなら」
「そうだよね、お姉ちゃんなら大丈夫だよね~」
何か、みゆきさんがほんの一瞬こっちに目を光らせたような気がするけど、気のせいだよネ・・・眼鏡に光が反射しただけだよネ・・・?
「おぉぅ、あのかがみに悩みとな!ここは、私が一肌脱ぐしかないよネ、やっぱり!」
「ん~、こなちゃん。何に悩んでるのかわからないから、そこから調べないとだめだよ~。でも、お姉ちゃんは悩み事があっても相談してくれないの。・・・私が頼りないからかもしれないけど~」
いや、つかさだからこそ、相談できない悩み・・・なんじゃないカナ。とするとやっぱり、この四人で仲良く過ごせる状況をぶち壊してしまう事態になりつつあるんじゃないだろうか。そう思うと、二人に申し訳なくてどうしたらいいか、全然わかんないよ。
「つかささん、たぶんそうではないと思いますよ。かがみさんは、真面目な方ですからとても難しい悩みがあってもそれを自分で何とかしようとしているんだと思います」
「でも、相談してもらえないのは辛いよ」
「うーん、かがみも罪よのぅ。こんな姉思いの妹のつかさまで悩ませるとは」
「こ、こなちゃん。お姉ちゃんが悪いわけじゃないよ。やっぱり、私が頼りないからだよ」
うな垂れるつかさをどう元気付けたものだろう。さっきから私の言葉はどうしても、つかさにとってマイナスになっているような気がする。いつもなら笑ってくれる所なのに笑ってくれないということは、相当深刻に悩んでいるのだろうか。
「つかささんは頼りなくはありませんよ。だから余計にかがみさんは、つかささんに相談したくないのかもしれませんから。ここは焦らず、かがみさんが本当に助けを求めなければいけない時がきたら、きっとつかささんの事を頼ってくださると思いますよ」
「そうかなぁ~」
「大丈夫です、つかささん一人でその悩みに立ち向かえなくても、私も泉さんもいますから、その時は皆で鏡さんの力になってあげればいいんですよ」
みゆきさんの声は心に直接響いてくる。心から友人を心配して、でも、その友人が助けを必要とするまでは余計なことをして混乱させてはいけないという、どこか凛として一本筋が通っているように。
「そうだよ。つかさも大船にのったつもりで、私やみゆきさんにまかせたまへ」
「うん。でも、お姉ちゃんが本当に助けを求めて来てくれた時に、私、気がつけるかなぁ」
まだ浮かない顔をしているつかさ。みゆきさんは、柔和な微笑を浮かべて、
「つかささんなら大丈夫ですよ」
と、締めくくった。その言葉には、つかさにも私にも伝わるくらい、どうしてか説得力がこもっていた。
「泉さんも、何か悩み事で困ったりした時は、私やつかささんを頼ってくださいね」
突然、話を向けられて、口に含んでいた牛乳を噴出しそうになった。
「えっ!?こなちゃんも何か悩んでるの?」
つかさの視線も私のほうに向いてくる。
「いぃ、いやぁ、そ、そんなことないヨ。・・・でも、もしも、みゆきさんが言うように自分ではどうにもならない悩み事ができたら絶対相談するからサ。その時はよろしくー」
噴出しそうになった牛乳をどうにか、むせずに飲み干してそう茶化しながら言う。
 その言葉を聞いたときの、一瞬だけ、私に向けられたみゆきさんの複雑な表情がとても気になったのだけれど、その後、すぐにチャイムがなったのでこの話はお開きになった。


 こなたの風邪が感染ったのか、それとも次の日にこなたと同じように同じ部屋で寝てほしいと寂しがるつかさの風邪が感染ったのか・・・私までもが風邪をひいてしまった。
 昔から風邪は感染せば治るというけれど、じゃぁ、二人が元気に学校に言ってるのは私に風邪を感染したからという結論になりそうだ。
「はぁ・・・そう何度も風邪なんてひかないけど、こうやってベッドに寝てるだけっていうのも退屈なものね」

 眩暈に頭痛に咳きに鼻水とよくある風邪の症状のオンパレードに襲われたのが昨日の夜。咳きはでるし、頭は痛いし、熱は高いしで、結局眠れずじまいだったので、まだ読んでなかったラノベを端から読んでいたら、夜が明けてしまった。
 眠れなかったのは、席の所為でも、頭痛の所為でも、熱の所為でもないと思う。

 そう、こなたのお見舞いに行って、あいつの我侭を聞いて手を握ったまま自分でも器用だと思うような体勢で熟睡していたときに見た夢の所為・・・だと思う。
 その夢の中では月明かりが眩しくて、こなたと手を繋いでいて、現実のような夢。
 しかし、そこからが違う。きっとそれは、私の願望が作り出した幻。その夢の中で私は、こなたに口付けをされる。私の体は動かない、そんな私の唇にそっと、本当にそっと短い間重ねられる、あいつの唇。
 嫌悪感はまったくなかった。だから、私の願望を表した幻としか思えなかった。
 ただ、こなたは唇を重ねる直前、目から大粒の涙をポロリと零すのだ。それが月明かりで煌いて、その煌きが消える前に、口付けは終わりを告げる。
 私の願望ならば、せめて・・・せめて、あいつは笑顔でいてくれてもいいのではないだろうか。
 どうして、あんな・・・悲しくて胸が張り裂けそうな表情をしていたのだろう。
「あんな夢を見るなんて、こなたに対して・・・ううん、親友に対しての完全な裏切りよね・・・だから、あんなに悲しそうな表情をしていたんだよね」
誰が聞いているわけでもない。今、家には私しかいない。父と母は用事で出かけているし、いのり姉さんもまつり姉さんもその用事について行っている。
 もっとも、母だけ違う幼時らしいので早めに帰ってこれるといってはいたが・・・お昼を過ぎた今になっても帰ってきていないということは遅くなるということだろう。
「お母さんが早く帰ってきたからって、どう相談するつもりだったのよ」
そう、私は、この気持ちを持て余していた。はっきり言えば不安でたまらなかった。だから、誰かに相談して少しでも負担を減らしたいと思い始めていた。
 こうして風邪をひくまでには時間があった。いつものように待ち合わせをして、いつものようにじゃれ付いてくるこなたに振り回されて、お昼はみゆきも加わって、何もかもが、何時も通り。
 隠し事が苦手で、すぐに赤くなってしまう私に隠し事なんてできるはずもないと思っていた。
 でも、今までもすぐに赤くなったり、隠し事が苦手だったのだ。逆に気づかれてはいないと思う。
「私が・・・こなたを・・・か」
口に出して思うことといえば、どこが好きなんだろう。どうして好きになってしまったんだろう。そんなことばかりだ。
 あの夢が現実だったら、もっと甘い口付けだったのだろうか。
 しかし、所詮は夢だ。大粒の涙を零しながら、重ねられたこなたの唇は、温かいの悲しくて、胸が締め付けられて、そして何よりすごくしょっぱかった。
「いい加減、眠らないと治るものも治らないわね」
それはわかっているけれど、目を閉じると、あの胸を締め付けるようなこなたの顔が頭に浮かんできてしまって眠ることができなかった。
 それでもそろそろ、そんな抵抗も終わりだ。体力の限界もあるし、薬が効いてきているのもある。頭がぼぉーっとしてもやがかかった様にこなたの顔も隠れてしまう。
 願わくば、夢なのだから涙味の口付けではなくて、もっと幸せな、現実ではありえなくても夢の中くらい幸せな世界を望むわ。

 しかし、私が見る夢は、そう明るくはならないらしい。

 私の目の前には、ライトパープルの毛並みをしたウサギと、青色の毛並みで一房アンテナみたいに頭に癖っ毛を生やした子狐がいた。
 そのウサギの想いはたった一つだった。寂しげな表情を浮かべて、寂しげになく子狐の傍にいてあげたいと。
 だが、誰かがウサギに告げるのだ。所詮、ウサギはウサギ、子狐は子狐。種族相容れない物が共にいようなどと馬鹿げた事だと。
 ウサギが傍にいたところで子狐の群れの仲間に食われてしまうだけだと。それが自然の摂理だと告げるのだ。
 ウサギがどんなに想いっても、隣にいる子狐にその想い届かない。ほんの数センチ隣にいるのに、地の果てよりも遠かった。
 ウサギは思うのだ。全てを投げ打ってでも子狐の傍にいてあげたいと。
 だが、子狐がそれを何時望んだのか。そもそも、望んでなどいないのだ。ただのウサギの思い込みに過ぎなかっただけ。
 かなわぬ思いは報いとなってやってくる。
 子狐の群れの中にウサギは捕まり食べられてしまう。それを子狐は、悲しそうに見つめているだけだ。

 そんな悲しい夢。目を覚ますと、私は泣いていた。言葉では言い表せないごちゃごちゃになってしまった想い、誰にもいえない想い。
「かがみ、どうしたの?」
ずっと傍にいてくれたらしい母に私は思わず、すがりつく。

 この涙が、あの青空を隠して灰色の空に変えてしまえばいいのに
 この涙が、ウサギの想いの全てを溶かして流してしまえばいいのに。

 私は、また、母の胸に顔をうずめて涙が枯れるまで泣いた。
 母は、そんな私の体を優しく抱き締めてくれた。
「もっと甘えてくれていいのよ?かがみ。貴女はしっかりしすぎているところがあるからお母さん、心配なのよ・・・」
甘えることはできても、胸の内を話すことはできなかった、怖かったから・・・。
 母の胸の中は暖かくて、私の心の中は涙の洪水で冷え切っていた。


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