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おいしい日 - (2009/12/11 (金) 09:24:47) のソース

繋がって、くっついて。切れて、離れて。繋がりそうで、切れそうで。くっつきそうで、離れそうで。 
窓に張りついた雫。溶けてゆく雪。我慢出来ずに流れてゆく水滴。 
1つの雫が、もう1つの雫にくっついて。1つの雫が2に離れて。1つの雫がもう1の雫に、くっつきそうで、離れてゆく。 
命のない、窓の上の無機質な動きを、私はキッチンから眺めていた。 
つかさと一緒に、明日の為のおかしを作りながら。無機質な動きに、切なさを感じながら、眺めていた。 

「お姉ちゃん、形はどうするか決めた?」 
「まだかな・・・つかさはどうするの?」 
「ちょっと大きめのハートにする事にしたよ。ほら見て!どうかな?」 

大きなハート。そこにはもう『HAPPY VALENTINE ゆきちゃん!』と白いチョコで文字が書かれていた。 

「可愛いじゃない?つかさらしいわ。」 
「ありがと!こなちゃんとゆきちゃん、喜んでくれるかなー?あ、お姉ちゃんにも後であげるね!」 

きっかけは簡単。ただ、気持ちを伝えたい。そう思ったから。 

『こなたは今年、チョコ誰かにあげるの?』 

何日か前の私の言葉。普通の会話。どこにでもあるような変哲もない言葉。でも、私には何よりも重い意味があった。 

『んー、去年貰った人には作ろうかな。あとは・・・』 

だけど、やっぱり、期待したように事は進まない。私の望むように、世界は動いてくれない。 

『今年はね・・・本命チョコ、作ってみようと思うんだ。』 

そう、だよね。こなたも何だかんだで女の子。可愛いトコや家庭的なトコ、いいトコはたくさんある。 
恋したってそれが、普通、だもんね。私がとやかく言えることじゃない。 

『そっか・・・頑張りなさいよ!』 

頑張りなさい。今は、その言葉を自分に与える。 
頑張って、藻掻いて、あがいて。失敗したっていい。だから、伝えよう。私の想い。こなたに届けよう。はっきり見える形にして。 
例え結果が、繋がらず、くっつかず、切れても、離れても。 


‐‐‐‐ 

「おーっす、こなた!」 
「おはよ、かがみん。あれ?つかさは?」 
「あの子ったら昨日夜更かししてまで料理してたから朝はゆっくり寝かせてあげたの。今日は遅刻ギリギリに来ると思うわ。」 
「つかさは凝り性だね。でも料理できる女の子ってやっぱり得だよね?」 
「・・・私に対する嫌みなのか?」 

いつもの何気ない会話。おはようで始まり、また明日で終わる毎日。 
いつからなんだろう?こんな毎日に幸せを感じるようになったのは。 

「いやー、でもかがみはそれを補えるくらい萌えるポイントがあるから心配しなくて大丈夫だよ!私は充分、かがみの可愛いトコ知ってるからさ。」 
「心配してなんかないわよっ!それに可愛いとか良く恥ずかし気もなく・・・」 
「おっ!照れてる照れてるー。全く可愛いねー、かがみは。」 
「う、うっさいっ!」 

こんなことばかりだから。あどけない笑顔で、真っ直ぐな心で、素直な言葉で、私の心は乱される。 
女の子同士。普通とは違うんだ。そう、分かっていても、理屈じゃない。 
理由なんてない。私はただ、こなたが好き。今も胸の高鳴りは止まない。 

「そ、そういえばチョコの出来はどう?」 
「うん、まぁ、結構自信はあるよ。」 
「良かったじゃない。」 
「まぁね。」 

高鳴りと共に、胸に痛みが訪れる。締め付けられるような、針で刺されたような痛み。 
結局、朝2人で登校したのに、渡すチャンスはあったのに渡せなかった。 
気が引けた?こなたに迷惑がかかる?ううん。ただ、びびっただけ。 
臆病な兎は、覚悟していたつもりだったけど、やっぱり怖かったんだ。 
バックの中に大切にしまった、甘い想い。口に入れたらすぐに消えてなくなる淡い想い。 
それを届けるのが、怖かったんだ。拒絶される事を恐れて。絆を壊すのがとても怖くて。 


‐‐‐‐ 

お腹が減った。気が付いたらもう12時半を過ぎていた。 

「はぁ・・・寒い。」 

当たり前か。ここは屋上だから。3年B組には行きにくくて。それと1人になりたくて。自分自身に、問い掛けたくて。 
気が付いたら屋上にいたんだ。 

「柊かがみはどうしたいの?」 

チョコ、渡したい。頑張って作った想いを届けたい。 
届けて、次は言葉で気持ちを伝えたい。好きだって伝えたい。 

「じゃ、覚悟決めなよ?」 

うん。今のままじゃ、何もしないより、辛い。何よりも絶対後悔するから。 

「頑張れ、かがみ。」 
「何を頑張るんだい?かがみんや。」 

心臓が飛び出るかと思った。いつの間かに、背後にいた少女。 
その少女は、まさに今、私が想い描いていた姿だった。 

「こ、こなたぁっ!?い、いつからいた!?」 
「気が付かなかった?柊かがみはどうしたいの?からかがみの後ろにいたよ。」 
「・・・いるならいるって言いなさいよ。」 

恥ずかしい。色んな意味で心臓が早く拍動する。 

「それより、こなたは何でここに?」 
「え?そ、それはだね・・・これだよ。」 

そう言って私に見せたものは小さな箱。可愛い赤色の模様に、紫のリボン。 
見た瞬間、分かってしまって、全てを悟ってしまって、泣きたくなった。 

「あ、ご、ごめんね!今からここで本命チョコ渡すのか?じゃ、私邪魔だよね・・・」 

今からここに、こなたの好きな人が来る。だから私はいなくなろう。この空間から早くいなくなろう。 
せっかく覚悟、したのに。せっかく頑張ろうと思ったのに。神様は、残酷だ。 
私はそそくさと荷物をまとめる。渡そうと思ったチョコも、カバンの奥深くにしまい込んで。 

「お待たせ・・・いい返事、貰えると良いね。きっとこなたなら大丈夫よ。じゃ、頑張ってね・・・」 

泣きそう。泣くな。泣かないで。お願い。そう、願いながら走りだそうとした瞬間、こなたに強く、腕を引かれた。 

「今の言葉、本当?」 
「・・・え?」 

こなたの真剣な瞳。真剣な声色。何が起こっているのか分からない。でも、確かに分かる感覚。 

「はい、かがみ。」 

私の手には、小さな箱が乗っかっていた。 


‐‐‐‐ 

「かがみ、受け取って、くれる?」 

分からない。何が何だか上手く認識できない。それでも何かが崩れた。 
泣くな。泣かないで。もう、そんなお願いしなくていいんだ。この空間、こなたが存在する此処にいて良いんだ。 

「っひく・・・うん・・・うん・・・ありがと、こなた・・・」 

繋がる。くっつく。切れない。離れない。私の涙は綺麗に流れる。 

「・・・私、喜んでいいの?」 
「・・・うん。ありがと、こなた。ありがと。」 
「ありがと、かがみ。」 

温かい。寒さよりも、何も言わずに、抱き締めてくれたこなたの体が凄く温かい。 

「・・・かがみは、私と・・・その・・・恋人になるの怖くない?」 
「・・・こなたが一緒なら大丈夫。それに・・・」 
「それに?」 

こなたの背中に回した手を器用に使い、バック奥深くから想いを取り出す。 

「私は、泉こなたを愛してるから。」 

もう、怖くない。そんな言葉も伝えきれない愛してるも、飛びっきりの笑顔と、星型のチョコに乗せて、こなたに届けた。 

「・・・大胆なかがみに萌え。」 
「バーカ!それよりさ、チョコ、食べてみてよ。」 
「本命?」 
「恥ずかしいんだから言わせるなっ!」 
「ふっふっふー。いただきます!」 

モグモグとチョコを噛みしめるこなた。反応が凄く気になる。 

「ど、どうかな?」 
「おー・・・かがみのクセにやるなぁ。うん、凄く、おいし。」 
「ホントに!?ホントのホントに?」 
「かがみ・・・」 
「なぁ・・・」 

なぁに?って言おうとしたが言えなかった。私の唇が、こなたの唇で塞がれていたから。 

「ぷはっ。ね?凄く、甘いでしょ?」 
「・・・うん。」 
「大好きだよ、かがみ。」 
「・・・うん。」 

初めてのキスの味は甘い、チョコの味。こなたのぬくもりが重なる優しい味。 
繋がって、くっついて。でも切れる事も、離れる事もない。ずっとずっと永遠に続く、甘い、絆。 


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- あうあう。甘々なのですよ。  -- 名無しさん  (2009-12-11 09:24:47)
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