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6月の結婚前戯 - (2008/07/08 (火) 16:40:47) のソース

 今からちょうど半年前のクリスマス・イヴ。ほんの些細なことがきっかけで、私とこなたの関係は親友から恋人へと変化した。
 最初は、このマイノリティーな関係を周囲の人達は受け入れてくれるのだろうかと不安に苛まれていた時期もあったけれど、私達の抱いている想いや覚悟を真剣に訴え続けた甲斐もあり、今では周囲の人達全てが私達の事を理解してくれている。
 勿論、これからも全ての人々が私達の味方で居てくれるという保障はどこにも無いけれど、私はこの現状を十分に満足していた。

 だけど、偶然というのは重なるもので、私達が付き合いだしてまもなく、同性婚を認めるという改正法案が国会で可決され、関東地方が梅雨入りして間もない6月のある晴れた日に施行された。
 その日の放課後、私はいつものようにこなたに誘われてゲマズに付き合った。
 その帰り、電車待ちをしていると、オヤジ二人が向こう側のホームでイチャイチャしている所を目撃してしまった。。

「いや~、さすがに今日は“こっち側”の人達を良く見かけるよね」

 周囲が引いている事も気にせず、完全に自分達の世界に入り込んでいるオヤジカップルを生暖かい視線で見つめながら、こなたがそう切り出した。

「いくら“こっち側”でも、あんなのと一緒の扱いはされたくないわね…。まっ、気持ちは分からなくはないけど、さすがに今朝から何組もああいうシーンを見せ付けられるとね…」

 一刻も早く結婚をしたいという同性カップルが昨晩から未明にかけて市役所の受付窓口に殺到している様子を放送する朝の情報番組を皮切りに、登下校の間も同様のシーンを何度も目撃していた私は、既にその光景にゲンナリとしていた。
 とはいうものの、周囲にとっては異様な光景にしか見えなくても、きっと当人同士は幸せの真っ只中にいるのだろうと思うと――。

「内心は羨ましいなと思ってるかがみ萌えー」
「なっ…/// そ、そんなわけないじゃないっ!!」

 ストレートに確信を突かれて、私は思わず狼狽してしまう。
 その様子を見て、こなたは猫口モードに切り替わる。

「年齢制限さえなければ…と嘆きながらも、毎晩寝る前に私とのあまーい新婚生活を想像して、想像し過ぎて思わず枕に顔を埋めながらキャーッってなるんだよね。わかります」
「う、うるさいっ!!」

 なんで知ってるんだ、そんなこと。 

 今回の法改正には、結婚出来る年齢を男女共に18歳以上にするという案も盛り込まれていて、5月に18歳の誕生日を迎えたこなたは問題なかったのだけれど、7月7日が誕生日の私はその条件を満たす事が出来なかった。
 確かに悲しかったのは悲しかったけれど、今の時期から結婚するには乗り越えなくてはならない壁が多すぎるので、それ程気にはならなかった。
 むしろ、問題なのはこの法改正のニュースが流れて以来、未だに「こなたと結婚したら。どういう生活を送れるのだろう?」という処理が常時続けられている私の脳内なのかもしれない。
 今も、一瞬裸エプロン姿で料理を作るこなたの姿が浮かんだけれど、私は一生懸命その煩悩を振り切った。
 とにかく、これに関しては、ただでさえ恥ずかしい上に、どんな事を想像していたのかだとか聞かれそうなので、なんとかして話題を逸らさないと…。

「だ、だいたい、私達はまだ高校生なんだから、今結婚しても生活とか出来ないんだし……」

 それを聞いてこなたの表情が更にニヤニヤしたものに変わった。

「という事は、かがみは私と結婚したいと思ってるんだ♪」
「っ!!!!!」

 話題は逸らせたものの、逆に墓穴を掘ってしまったらしい。
 余りにも恥ずかしくて――私は開き直る事にした。

「そ、そういうあんたはどうなのよ。将来、私と結婚したいと思ったりしない?」

 私がそう聞くと、こなたは動揺もせずにさも当然のような表情で、
「勿論あるに決まってるじゃん」
 とだけ答えた。

「えっ…」

 たったそれだけの言葉で、私の心臓はオーバーワーク気味に鼓動を早める。
 こなたの表情が柔らかくなり、穏やかに微笑み出す。

「…じゃなきゃ、『かがみは私の嫁』なんて言わないもん。それに……」
「…それに?」
「かがみと一緒に住んでおけば、何時でも宿題が写せるから便利だしねっ!」
「結局、それが目当てかよ!!」

 向こう側のオヤジカップルすらも思わずこっちを見てくるぐらいの大きな声で、私はこなたにツッコミを入れた。
 ちょっと期待したのに…こなたのバカ。 


-[[7月の花嫁>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/685.html]]へ続く

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