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『あ〜ちゃんが好き、だから。』


そう言ったのっちの目は真剣だった。
部屋に戻るとのっちが今日着てきた服がベッドの上に置いてあって、
のっちが浴衣のまま帰ってしまったことに初めて気がつく。
携帯を取り出して電話帳からのっちを選ぶ。
でも。
通話ボタンが押せない。
押す勇気がない。
結局何もしないで携帯を閉じる。
とりあえず部屋着に着替えた。
そしてベッドの端に座る。
そこが私の考える時の定位置だった。


のっちは私のことが好き。
私は?
私ものっちが好き。
その『好き』は、のっちが言う『好き』なの?


わからない。
そんなこと考えたことなかったから。


そこで思考は停止する。
これ以上は今日考えてもきっと無駄だ。
そう判断して瞼を閉じた。





あの日からのっちは教室にやって来なくなった。
友達にものっちが来ないことを聞かれるぐらいになったのに。
私は友達の発する『のっち』という言葉にさえ敏感になっていた。
帰りは一緒に帰っているけど、実質私はゆかちゃんとしか話していないようなものだった。


いつも通りHRが終わってから、隣のクラスに向かう。
でもそこには『いつも』がなかった。
のっちが一人机の上に座っていて、ゆかちゃんが居なかった。
のっちと目が合う。
変な間が空いてしまって、私はその間を埋めたくてゆかちゃんのことを尋ねる。
理由を端的に言ったのっち。
また変な間が空いてしまう。
堪えられなくて、帰ることを催促した。
帰ってる間もひたすら無言。
お互い気まずい。
私から話しかけることにした。


「のっち」


何も話題を考えていなかった私は自然とあの日のことを話題に持っていくしかなかった。


「のっちがこの前言ってたことだけど」


「のっちが言った『好き』って…そういう意味の『好き』?」
「…うん。」


のっちは私の方は見ずに、でもあの日と変わらないぐらいのはっきりとした態度だった。


「そっか…。」


それ以上そのことに関して何も言えなかった。
関係のない話題を探しては適当に合わせる会話しかできなかった。






私はのっちの『好き』を確認してどうしたかったんだろう。
またあの場所で考え始める。
あの日から私はここでのっちのことを考える時間が多くなった。
いつも最終的にのっちの言った『好き』にぶつかって立ち止まっていた。
そうか。
私はもっと先を考えたかったんだ。
のっちの『好き』はそういう意味。
振り返ってみると、何故かすんなり私の中に収まった。
私は今まで友達としてしか見てこなかったけど、今は?
私はどう思ってる?どう感じてる?
驚きはあったけど嫌な感じはしなかった。
今日まで話せなかった間、正直寂しかった。
でもそれって?
それがどの感情に当て嵌まるのかわからない。
私は自然と携帯の電話帳から一人選んでいた。





『あ〜ちゃん、どーしたの?』
「あ、ゆかちゃん?ちょっと相談したいことがあるんよ」
『ん?何?ゆかが相談にのれることならのるよ』
「いきなりごめんね。あの…友達から告白されたらどーする?」
『友達から?そんなのその友達によるよー』
「だよねぇ…」
『もしその人が自分に不可欠なぐらい大切な人だったら、想いに応えたいって思うかな』
「不可欠なぐらい…?」
『その人に出会ってなかったら、今の自分はいないかなって思うぐらい、ね。
あ〜ちゃんにとって、その友達は大切?』
「すごく…大切。」
『ゆかはさぁ、大切にするってことの延長上に愛ってあると思うんよ。
だから今まで友達としか思ってなくてもさ、
それだけ大切な人だったらどこかしら『好き』って感情はあると思うし。
相手に言われてその感情に気づいちゃう。』



それを聞いて、私は妙に納得してしまった。
私にとってのっちはすごく大切な人。
ゆかちゃんも大切だけど。
二人とも比べられないぐらい大切。
普段はゆかちゃんが私を支えてくれるけど、
いざという時に守ってくれるのはのっちだった。
というより私がピンチの時、偶然のように傍にいたのがのっちだった。
今考えるとそれは偶然なんかじゃなくて、傍にいてくれていたんだとわかる。
そうだったんだ。
のっちは私にとって不可欠なんだ。
私は求められてるとばかり思っていたけど、
本当は私が求めていたんだ。
話せないことが寂しいのも、
会えないのが辛いのも、
全部そういうこと。


ハンガーに掛けられたのっちの服に手を伸ばして、抱きしめる。
一度洗ったけど、僅かに残るのっちの香りが胸を締め付ける。
のっちの私を呼ぶ声が懐かしい。




つづく







最終更新:2009年04月10日 01:21