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「ねぇ、午後から雨だって」
「でも降っとらんじゃん」
「んまぁ…早めに戻ろーよ」

散歩に行こうと言い出したから、2人でスタジオを抜け出した。
衣装のまんまで、なんかヘンなの。
かしぃはソロ撮影中で、でも置いてくのは悪いと思った。
なのに、チラッとかしぃを見たら目で合図をされたんよ。
あ~ちゃんに甘いかしぃの事だ、のっちが代わりに満足させてあげてって事だと思う。

「見てあれ、チョーヤバイ!」
前を歩くあ~ちゃんが、目を輝かせて振り向いた。
「エー?」
「あのピンクの家!チョーほしーい…」
あぁ、ほんとだ。
確かに可愛いし、あ~ちゃんが好きそうだ。
けど、ほしいなんて…それ家だから。
なんて、思っていたら不覚にも吹き出した。


幻覚かな、猫耳がピクンと揺れた。
「なに笑っとんのよ」
そう思った途端にふくれっ面、肩を小突かれる。
えぇと、こうゆう時かしぃはどうしてたっけ。
えー……
「無邪気なあ~ちゃんが可愛くて。」
のっちの最強スマイル付きでプレゼント。
あ~ちゃんは耳まで真っ赤になる予定。


「くっさ」


…え。
「ちょちょ、待ってよ!」
かしぃの時は、にゃんにゃんするくせに!
一言吐き捨て、踵を返したあ~ちゃんの腕を慌てて掴んだ。
ゆっくりゆっくり、嫌味ったらしくあ~ちゃんが振り向いた。
「機嫌取りは3年はやいんよ」
「っな……イッ!」
反論もさせないつもりなのか、おでこを人差し指で弾かれた。

「のっちのばーか」
軽やかなスキップで、衣装の布という布が翻り、髪もふわっふわ。
そう、まるで妖精。


って、あれは気まぐれ猫だ、騙されたらいけんのよ。
大体かしぃの時はそんなん言わないじゃん!
てゆーか3年ってなんよ、半端すぎてのっち泣きそうよ。
…いんやいや、心が泣いても逃げない。

「あ~ちゃん!」
ついキツイ声が出てしまった。
あ~ちゃんは、すぐにピタリと立ち止まる。
やば…お願いじゃけぇ謝ったりはせんでよ…。
かしぃに半殺しにされるけぇ…。

「のっち、」
そんなのっちの心配も虚しく、不思議そうにあ~ちゃんが両手を宙に差し出した。
少しして、さらさらと落ちてくる雨粒。
「雨じゃね」
心なしか弾んできこえた、あ~ちゃんの甘い声。
ずっときいていたいかも。
「なんかいいねぇ」
あ~ちゃんは雨の中、両手を広げてくるくる回り始めた。
遠心力により綺麗な円を描くワンピース。
霧雨の中踊る妖精は、淡くきらきら輝いていて。
すごく、美しい景色。


…じゃなくて!
「衣装……!」
まだ霧雨だけれど、強くなられたらたまんない。
じゃなくても、衣装が濡れるんはよくない!

のっちはハイスピードであ~ちゃんに駆け寄る。
「屋根あるとこ行こ……ねぇ?」
腕を引っ張っても、あ~ちゃんは一歩も動かない。
絶え間なく降り注ぐ雨を、ずっと見上げたまま。
「あ~ちゃん?」
返事も返ってこない。
どこか切ない横顔に、鼻先から落ちる雨粒。
微動だにしないあ~ちゃんは、彫像みたいに美しい。
のっちだってずっと見ていたいくらい。
でも、
「濡れるけぇ…」
もう一度腕を引こうとした、瞬間。
あ~ちゃんがこちらを向いた。
綺麗な三日月を描いた口唇が、一瞬、のっちのそれに触れた。

雨粒に濡れた冷たいキス。
それと正反対、暖かい笑顔のあ~ちゃん。
「あ~ちゃん…?」
いつもと違う。
のっちが、よく知らないあ~ちゃん。
時が止まっちゃえば、のっちが独り占めできるのに。
のっちたちに時間の雨が降る。


同時に衣装の事が、頭の中で蘇る。
もうかなり濡れちゃって、絶対もっさんに怒られる。
さらに時間も迫って…。
ああ、あああ。
幸せから、どんどんおちていく。
「もう、帰らんともう…」
「大丈夫じゃけん」
あ~ちゃんが、のっちの言葉を遮った。
「だーいじょーぶよ」
のっちの好きな間伸びした話し方。
濡れてぐしゃぐしゃになったのっちの前髪を、あ~ちゃんの優しい手がかきわける。
冷たいけど…あったかい。
「雨宿りしとった」
「…へ?」
「そう言えば、まだ二人でおれるじゃろ。」
さらっと言い終え、にゃんっ、と笑うとのっちの手を取って歩き出した。
どこでそんな小悪魔…かしぃじゃろ吹き込んだん…。
けれど、おかげで幸せよりも上に心のエレベータが上がっていく。


雨も降り、街ゆく人も少ない街。
シャッターがおりた小さな店の屋根の下、のっちたちはちょこんとお邪魔する。
「雨も悪くないねぇ」
「そ、だね…」
すんごい密着しとる。
冷たい空気の中、繋がれた手から伝わる体温は、妙なリアリティがある。
なによりも、ツンデレーションからいきなりのデレ期。
その上、ご機嫌斜め上のご様子。
「ねぇのっち今日うち来んさいよ」
「っうぇ?!」

スタジオに戻る前に、のっちはオーバーヒートしそうです。
5本指の先まで体温を共有する今、どうかどうか熱が伝わりませんように。






最終更新:2008年10月10日 17:30