N-side
無理してんのは、お互い様。今も昔と変わらないこの気持ちを人はなんと呼ぶん
だろ。帰ってきたあ〜ちゃんからはいつもと同じ花の匂いがした。それすら昔と
何も変わらない。
「おかえり」
「ただいま」
今も昔と変わらなく可愛いな。もてるもんな、そりゃもてるわ、こんなに可愛い
んだもん。しかも
ツンデレだし。
「可愛いね」
「なんなん急に」
「やっぱ可愛いなーと思って」
あ〜ちゃんは嫌そうな顔をしてため息をついた。嘘じゃないけど、今さら言うこ
とでも無かったかも。そうやって自分を追い込まないでよ、バカのっち。
可愛いなんて言い過ぎた。あ〜ちゃんが本当に欲しい言葉は知っている。だけど
言えない。それを言うにはまだ何も準備が出来ていないから。
「のっちもう眠いから寝るわ」
おやすみって言うと、あ〜ちゃんはいつもの優しい声でおやすみって言ってくれ
た。階段を登る足がふわふわ軽くなる。いい夢が見れそうだ。
あ、ありがとう言うの忘れてた。
A-side
「キス上手くなったね」
そう言ってゆかちゃんは頭を撫でてくれた。のっちがあ〜ちゃんを避けた、気が
した。当然か、朝から避けてたのはあ〜ちゃんの方だし。
自分で撒いた種なのに、どうしてこうも落ち込みやすいんだろ。今に始まった事
じゃないのに、もう2年も経つんだからそろそろ慣れなきゃ。
ゆかちゃんは前からそうだ。いつもあ〜ちゃんに優しくしてくれる。何度助けら
れた事か、ほら今だって優しく抱き締めてくれてるし。
「大丈夫?」
「…うん」
その時だった。
ギャーッ!!!っと物凄い悲鳴がのっちの部屋から聞こえてきた。ゆかちゃんと
目を見合わせる。何事じゃ。
急いでのっちの部屋に駆け込むと、そこにはぶるぶる子犬みたいに震えているの
っちと、思わず気分が悪くなるくらいに散らかった室内が。
「のっち!どうしたん!?」
「ご、ごごごごご…!」
「ごごご?」
「ゴキブリ…っ!」
のっちの指差す先、白い壁に張り付いた黒い物体。まさか、嘘じゃろ。
「ひいっ!」
思わずのっちに抱き付く。無理なんよ無理なんよ!あ〜ちゃんゴキブリとかほん
まに無理なんよ!ゆかちゃん助けてぇっ!
「えいっ」
バシッ。
「「ぎゃーっ!!!」」
やりよった…落ちていた分厚い漫画雑誌で、ゆかちゃん真顔でやりよった…。
「ゆかちゃんっ!それまだ読んでないのっちのジャ〇プっ!!」
「散らかし放題ののっちが悪いんよ、てゆーか掃除しんさい掃除!これだけ汚い
部屋、ゴキブリ出て当たり前じゃ!」
バシッとその勢いでゆかちゃんはジ〇ンプでのっちの頭も叩いた。のっちは言葉
にならない叫びを上げる。あ〜ちゃんは慌ててのっちから距離を取った。
ゴキブリとのっちの頭、間接ジャン〇じゃ。ごめんのっち、さすがのあ〜ちゃん
もゴキブリの死骸を頭に乗っけた人はちょっと…。
「ギャー!のっちの頭がぁ!プリティおにぎりがぁー!!あ〜ちゃあん!」
「ち、近寄らんで!」
「ひどいっ!消毒!消毒ぅ!」
酷いパニック状態で、のっちは頭にファブ〇ーズを吹き掛けはじめた。違うこれ
じゃない!と言って次に吹き掛けたのは整髪剤。それも違うから、気付いてのっ
ち。
ゆかちゃんは〇ャンプでぺちゃんこにしたゴキブリをティッシュに包んで部屋の
外に持って行ってしまった。
「あんの小悪魔…いや、進化して悪魔じゃ悪魔、あのぺちゃんこのゴキブリ、あ
のネズミの餌にする気じゃ」
「…のっち、とりあえずアンタは部屋を掃除しんさいや」
「……うん」
N-side
次の日、お休みなのでのっちは部屋の掃除をする事にした。それに、なんだかん
だで昨日のゆかちゃん格好良かったなぁ…。
のっちもゴキブリの一匹くらいやっつけれないと、あ〜ちゃんの夫が勤まらない
ぞ。いつでもどんな時でも守ってあげなくちゃだし。
「とか言ってる先からデカイの出てきたーっ!!ギャーッ!!!うおおっ飛びよ
るぞコイツー!!」
棚の上に置いてあった殺虫剤をそいつ目がけて振りまく…ってコレ8〇4じゃん!
あいやぁーゆかちゃん助けて〜!!
◇
「え?ゴキブリ退治のコツ?」
「やっぱゴキブリの一匹くらい退治出来ないとさ、…あ〜ちゃんに良いとこ見せ
たいじゃん?」
「のっちがちゃんと部屋綺麗にしとけばゴキブリも出てこんのよ」
「まぁ…、そうだけど?」
「分かっとるなら掃除早くしんさい」
でこにチョップを食らって、のっちは掃除機を抱えてそそくさと部屋に退却した
。
冷たいよなぁゆかちゃんは。でもそんなSっ気たっぷりな所、嫌いじゃないっす、
むしろ好きっす。
でもやっぱゴキブリにビビってちゃいけないよなぁ。のっちももう大学生なんだ
し。
〜あっという間、のっちの妄想劇場・ゴキ襲来編〜
「きゃー!ゴキブリー!のっち助けてー!」
愛する綾香姫のピンチに、のち王子はスリッパ片手に颯爽と現れ…スパーン!と
最高の音を奏で、姫のピンチを救うのだ。衣装はもちろんディ〇ニーな仕様でね
。綾香姫はドレスで、のち王子はかぼちゃパンツね。
「あ〜ちゃん!凶悪な暗黒生物はのっちが退治したよ!これでもう大丈夫!」
「のち王子…!素敵…ぽっ」
「あ〜ちゃんの為なら、どこにだって飛んでくよ」
「のっちはあ〜ちゃんの王子様じゃ!あ〜ちゃんの旦那、日本一っ!」
「のっちの嫁は宇宙一だよ〜」
そうして二人は愛の巣シャンデリア城で幸せに暮らしたそうな。めでたしめでた
し。
〜あっという間、妄想劇場・おわり〜
みたいな!みたいなぁ!?
やっべーどうしよう、のち王子の活躍に綾香姫もメロメロじゃんかよ〜。参った
な〜。
「のっち、何ニヤニヤしとるん」
「あ、あ〜ちゃん」
「気持ちわるー」
ぱたん、と静かに扉は閉じて、のっちは散らかった部屋に一人佇んだ。
この部屋…今日一日で片付くかな…?
◇4:終◇
最終更新:2009年05月25日 20:04