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「私、のち男くんのことがすきです! な~んてねw」
ツアーも折り返し。あたしは一人で余韻に浸る。

なんでこの言葉がこんなに甘い響きとして自分の中に残ってるんだろう。
白い天井を仰ぎながら、ため息をつく。8年も一緒にいたのに。今さらこんな気持ちになるなんて。
思えば、あ~ちゃんの言葉は昔からよく心にひっかかってた。
「のっちがおらんとPerfumeじゃないけんね!」
「あ~ちゃんだってたまには元気ないときもあるんよ…」
いつだって、あたしの心に簡単に入っては、すり抜けていってしまう。

「のっち、あんたまたゲームしよるん!」
ゆかちゃんだ。そうか、今日はリハで、ここはスタジオだったっけ。
「ん…考え事にはゲームが一番。けっこう頭使うんよ?」
面を上げて答えてみる。自然と、視線は数メートル先で楽しそうに笑う彼女を追っていた。
太陽みたいにキラキラしてる。アトマイザー劇場の行方を考えてるみたい。楽しそうに笑う。
あ~ちゃんは、何を考えてあの配役にしたんだろう。

「のち男とあ~ちゃんはどうなるんじゃろーねー」
ゆかちゃんはあたしのPSPを取り上げながら、意味ありげにこっちを見る。
「どうって…あ~ちゃんが決めるのが一番おもろいけぇ、まかすしかないね」
「こないだ告られそうになってびびってたじゃろ?」
「え、あ」
…なんでそんな直球なんですかゆたか先生。

ゆかちゃんはニヤリとして、あたしの目を見ながら言う。
「ゆかはずっと気づいとったけどね」
「あ、うう」
なんて答えていいのかわからない。
「来るべき時が来た、ってことなのかなあ」
そう言って立ち上がり、あたしにPSPをぽんと渡すと、腿を外側からグーで叩きながらあ~ちゃんの方へ歩いていった。
来るべき時ってなんなんだろう。気づいとったって、何に?
「のっちぃ~!あんたいつまでゲームしよるんね!はよこっちきんさいw」
「のち男く~ん(ハァト)」
あ~ちゃんが笑ってあたしを呼ぶ。ゆかちゃんが爆笑しながら手招きしてる。
あたしはPSPを木目の床の上に置いて、大きく息を吐いた。



「のっち、なんか上の空じゃね」
帰りの車の中で携帯をいじりながらあ~ちゃんが言った。
そうだよ、君のことで、なんだか自分が自分でないみたいなんだよ。

「いや、別になんでもないと思うよ」
「なんでも言いんさい。ゆかちゃんも心配しとったよ。あ~ちゃん聞いたげてって言っとった」
あ~ちゃんは真顔だ。大きな目でこっちを見る。

「やっぱあれなん、かみかみっていじりすぎたんがあかんかったんじゃろか」
「こないだのパンパカで調子乗って進行邪魔したけぇ怒っとるんじゃろか」
運転してるもっさんが笑ってる。

「…なーんも怒っとらんよ。ちょっと疲れとるだけじゃけぇ心配せんでええよ。」
「ほいでもあんた、そんな顔してから」
そう言ってあ~ちゃんはあたしの頬を触る。やわらかい手だ。温かい。
あたしは黙りこんでしまう。このままこの温度を味わっていたい。

「もっさん!」あ~ちゃんが突然大きな声をあげた。
「今日はのっちの家に行くけぇ、うちには寄らんでええよ」
「了解」もっさんは小さな声で答えた。こういうときはあ~ちゃんに任せるのが一番いいとでも思ってるんだろう。

「昔からヘタレやからねえ、のっちは。こうやって聞き出さんと思っとることなかなか言わんけぇ」
布団がめくれたままのベッドに腰掛けて、あ~ちゃんがこっちを見る。
あたしはその隣で取りあえず座ってみる。あ~ちゃんがすぐそばにいることが、奇跡のように感じる。
なんでだろう。ちょっと前ならなんてことのない風景なのに。

あたしが何か言いかけたとき、
「のち男く~ん、今日ずっとあ~ちゃんのこと見とったじゃろwなんかついとった??」
あ~ちゃんがいじわるそうに笑いながら、おでこを突っついてきた。
あ~ちゃんにとっては、悩みを聞きだすためのアイスブレイキングに過ぎなかったんだろうと思う。

胸が痛む。
こないだからずっと考えていたことを、いきなり言い当てられた気がして、何も言えなくなる。
8年を共に戦い背負い合って過ごしてきた、これほど大切な親友に対して、邪な気持ちがあるなんて。
そんな自分が嫌になる。

「のっち!?」
「ん?」
「あんた何泣きよるん!?」
知らない間に涙が流れていた。なんて言っていいのかわからない自分と、何を言われるかわからないあ~ちゃんに、あたしの心が教えようとしてるのかもしれない。


「なんで泣いとるんねこの子は…」
あ~ちゃんはあたしの背中をさする。あったかい。いつだってこうやって励まされてきたんだな。
「泣いとらんよ別に」
「泣いとらんゆうてもこんなにぐじゃぐじゃのぶーぶーな顔してから」
あたしの頬を両手で挟んで顔をいじる。髪がゆれて、ふわりといい匂いがした。

頭の中で、何かが外れそうになる。あたしはぶっきらぼうに言った。
「あ~ちゃんはのっちのことなんもわかっとらんよ」
「…」
「わかっとらんし、この気持ちはわからんままでいいんよ」
「なんでそんなこと言うん。ゆかちゃんもあ~ちゃんものっちのことどれだけ考えてると思っとるんよ」
悲しそうな目。天使の顔は一瞬にして曇ってしまった。

自分を取り戻したい。平静を装って、笑ってみる。
「ごめんごめん、ほら、最近疲れててさ。何に悩んでるのかわかんなくなっちゃって」
「…のっちはあ~ちゃんのこと嫌いになってしもたんか。今までならそんなこと言わんもん」
子供みたいに足をバタバタさせながら下を向いてる。
かわいい。そう誰よりもかわいいんだ。あ~ちゃんは。

「のっちはあ~ちゃんのことすきじゃけぇ、だいじょうぶよ」
一番核心に近い言葉のはずなのに、こんな形で適当に言ってしまう自分が嫌だ。でも仕方ない。
曇った顔をまた天使の顔に戻さなきゃ。
そう思って精一杯の笑顔で笑って、あ~ちゃんの肩を小突いた。


「…しっとるよ」
「え?」
天使の顔は見えなかった。
「すきってことぐらい、最初からしっとるよ」
そう言って顔を上げたあ~ちゃんは、Perfumeのあ~ちゃんでもなく、
天使でもなくて、ただの19歳の女の子だった。
肩が小さく見えた。抱きしめたい衝動に駆られたと思ったときには、もう抱きしめてた。

あ~ちゃんは思ったより小さかった。腕の中にすっぽり入ってしまう。
今まで何度もハグし合ったことがあるのに、今日は特別なやわらかさを感じる。
「のっち」
「うん」

高くてやわらかくてやさしい声で。あ~ちゃんは私の耳元で言う。
「そんなことぐらい、最初から気づいとんよ?」
「うん」
「ずっと、こうしたかったんじゃろ?」
「うん」
あたしはどう返していいのかわからなくて、子供みたいに首を振るだけだ。

あ~ちゃんがクスリと笑う。声はさっきよりもやわらかくなった。
「のっち…、どきどきしすぎw」
あたしの両肩をつかんで引き離した。くしゃっと笑う顔がかわいい。
胸がつかまれてしまう。キスがしたい。でもこんなときどうすればいいんだろ。

「あ~ちゃん…目つぶってみてくれない?」
「…でもこの流れじゃとのっち絶対ちゅーするじゃろ」
痛々しいぐらいの自分の気持ちが、急に軽くなった。あ~ちゃんは天才かもしれない。
あたしがあ~ちゃんのことを好きだという気持ちは、もう一人で抱えてなかった。
このいとしい距離が、急にしあわせに思えて。自然と笑ってた。

「やっと笑ったわ」
そう言って、あ~ちゃんは天使に戻った。頬の筋肉がゆるんで、安心した顔。
あたしがまだ子供だったら、有無を言わさず押し倒してるんだろう。
あたしがもう少し大人だったら、あ~ちゃんにこんなこと言わせないだろう。


「ごめんね」
意を決する。あたしは言って、油断してるあ~ちゃんを引き寄せるとためらいなく唇を寄せた。
あ~ちゃんは拒まなかった。あ~ちゃんの唇は思ったより薄くて、でもとても気持ちがいい。
ずっとこうしたかったって思いながら、髪をなでて顔を触って肩を抱きしめて、何度もキスをした。

力が入る。自然と体の重心があ~ちゃんに傾く。ふわっとベッドに倒れたあ~ちゃんの唇を追って、
あたしはあ~ちゃんに覆いかぶさった。目をつむったままのあ~ちゃんの表情は読み取れない。
ゆるくウェーブのかかった髪がベッドの上に広がってる。

脳が命令する前に、言葉が勝手に口から出ていく。
「すき…」普段はあまり見せてくれないおでこに。
「すき…」よく膨らむ頬に。
「すき…」泣いたり笑ったり忙しいまぶたに。
「すき…」小さな鼻先に。

すきという気持ちが止まらない。
「うん…」
精一杯応えようと、あ~ちゃんはうなずいてくれる。身を固くして、目をつぶりながら。

「しってる…」
何度か繰り返した後、あ~ちゃんの手が背中に回るのがわかった。少し震えてる。
「すき…」耳にキスしたとき、冷たいものが当たることに気づいた。
「…あ~ちゃん泣いてるの?」

ふと我に返り、あ~ちゃんから体を離して起き上がった。
「ご、ごめん!なんか、その、急にこみあげちゃって、いや、ほんと、なんかごめんね!」
あたしは急にのち男になってしまった。あれは素の自分なんだな…。
「ううん」
仰向けになったまま、あ~ちゃんは首を振る。
涙をふいたりこらえることをしないのが、余計にいとしくさせる。かわいすぎる。
不意に腕をつかんで引き寄せられた。
「のっちぃ…こっち来て…」


体を横にしてあ~ちゃんを抱きしめた。
なんで泣いてるのかわからないけど、今抱きしめなくてはいけないのは確かだった。
いつもみんなを楽しませてくれて、たくさんの人を一瞬で笑顔に変えられる子が、目の前で泣いてる。

「何を言ったらいいんかわからんよ」
「…?」
「すごくうれしいのに、どうしたらいいかわからんのよ」
「何もしなくていいよ。ただ、ここにおってくれるだけで。」
「そうなん?」
「そうだよ。」
このよくわからない抑えられない感情を、あ~ちゃんが受け入れてくれた気がして。
あたしは安心してあ~ちゃんの髪をなでた。

「ありがと」
安心した顔で腕の中で微笑んで、私の首あたりで顔をごろごろする。猫みたい。
何もしなくていいって言ったのに。あたしの右手を触って、やさしく握ってくれた。
あ~ちゃんのやさしさが伝わってくる。

「ちゃんと覚えとかにゃいけんわ」
「ん?」
あ~ちゃんの吐く息が、首筋に当たってくすぐったい。しだいに顔を上げて、頬ずりをしてくれる。
「のっちの匂い、忘れたくないけぇ」
「ん…」
「もっとぎゅっとして…」

どきどきしてるけど、でもすごく安心する。あの衝動はいつの間にか消え去っていた。
いつの間にか、あたし達は深い安心感に包まれて、眠りに落ちていた。





■おまけ
「ふむふむ。まあ今回はここまでが妥当な線じゃろ。」
「思ったよりのっちががんばったけぇ、感謝せんといけんね」
耳につけたヘッドホンを外し、受信機の電源を切ると、
樫野有香は二時間前の電話を思い出していた。

「あ~ちゃんは今日のっちの家に泊まるって。かしゆかなんか聞いてる?」
「なんかのっち悩んどったみたいじゃけぇ。それがらみじゃろ」
「ふーん。まあこういうときはあ~ちゃんに任せるのが一番いいからね、了解。おやすみ!」

そしてPCに向かいながら小さな声で呟く。
「もっさん、GJ!」








最終更新:2008年10月10日 22:08