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笑顔をつくる。

会話をする。

シャッターがきられる。

一瞬の光が、瞼の裏に不快な影を焼き付ける。

また、笑顔をつくる。

撮影を終える。

溜め息をつく。


撮影する時はスタジオが薄暗いから、あたしが被写体でなくなってしまえば、あたしの表情に気付く人はいない。
あたしの溜め息に気付く人もいない。

もっと言えば、ここで涙を流したって、気付く人なんていないだろう。

もしかしたら、一番安全に泣ける場所なのかもしれない。

でも、そんなことはしない。


したってしょうがないし、最近は泣き始めると限りがない。
だから泣けない。
一人の夜にしか泣けない。


先に撮影を終えたあたしは、のっちの撮影を見つめる。
楽屋には戻りたくない。
あたし達は三人だから、誰か一人が撮影してる時は、必然二人きりになる。


ゆかちゃんと二人きりにはなりたくない。
あたしの隠してる気持ちが溢れてしまいそうになるから。

のっちと二人きりにはなりたくない。
あたしの胸を衝く想いが、焦がれて焦がれて、苦しくなるから。


周りにスタッフさんが大勢いる。
今のあたしがあたしを保つ、ギリギリの理由。
仕事だから。
今は、仕事中だから。
だからあなたはPerfumeのあ〜ちゃんでいなければならないのよ。
自分に言い聞かせることができるから。


撮影を終えたのっちは、一目散に楽屋に向かう。
いいな…
こうなるとあたしがスタジオに留まる理由がなくなってしまう。


そして、悩む。
どこに行こう?
誰もいない場所はどこだろう?


末期だ。
ゆかちゃんとものっちとも顔を合わせるのが苦痛に感じてしまう。
このままじゃマズイ。
そんなこと分かってる。
有り得ないことだ。
でもあたしはそう感じてしまう。
苦痛である、と。


「あ〜ちゃん?」

振り返るとのっちがいた。
あたしは自然と笑顔をつくる。
慣れた笑顔。
もうそれが反応のように、反射的につくられるそれは、きっと毎回同じ顔だしかわいくもない。
その笑顔が、隠すあたしの返事のかわり。


「差し入れでドーナツ貰ったの。あ〜ちゃん大好きでしょ?みんなで分けよ?」

「…うん」


うんだって。
いらないって言えばよかった…
行くの?
仕方ないね。
さすがにこれも行かないのは、あまりに不自然だ。
わざわざのっちが呼びに来てくれたんだから…


参ったな。
楽屋で三人きりになるのはいつ以来だろう。
いつもなにかと理由を作っては、ふらふらしてたから。


「行こ?あ〜ちゃん」
「うん」


のっちの背中を追いかけはじめる。
懐かしい空気に、また込み上げてくる震えた想い。


薄暗いスタジオの扉を開けると、のっちの背中が光に包まれた。


目を細めるあたしは、久しぶりに眩しさが鬱陶しくなかった。





最終更新:2009年06月17日 11:01