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あたしとのっちは、廊下を走っていた。
控室に戻る、その途中。

思い立ってアイスを買いに行ったあ~ちゃんは、
まだ当分帰ってこない。

のっちが、いたずらっぽく提案してきた
「ちょっとここに、隠れちゃおうよ、ゆかちゃん?」

ゆび指した先は、目立たない衣裳部屋。

そうね、これはちょっとした、かくれんぼ。
二人であ~ちゃんを、驚かせちゃおうか!

「お邪魔しま~す」

その衣裳部屋は、座るスペースもないほど、
色とりどりの布、布、布で埋め尽くされていた
あたしたちは、衣装の山を崩さないように
壁際で息をひそめ、電気を消した

たくさんの衣装に囲まれた二人の距離
いつもよりずっと近く感じる

暗闇に二人でいるのが苦しくなって、ちょっとコメントしてみた
「ところであ~ちゃん、この部屋に気づくかな?」

なぜか返事がない。

「…のっち?」

突然、のっちに後ろから抱きすくめられた。
背中からのっちの激しい鼓動が響いてくる
…い、一体どうしたの、のっち…?
「…ゆかちゃん、えっとね…」
「うん、…なあに?」
「のっち…、のっちは、…ゆかちゃんが、好きなんよ。」
「ぇっ!」
「ゆかちゃん、…のっちのに、なって…。」



そんな、急に言われて…。
心臓がドラムのようなビートを刻み始める
ドキドキしながら振り返ると、
こぼれそうな瞳が間近に縋っていた。

「…だめ?」
「ダメ…じゃ、ないけども…。」
「ほんまに…?」
「う、うん。」
「よかったぁ!」

のっちが体をくるっと回転させたから
あたしの体は自然と、壁に押し付けられる格好になる

「ゆかちゃん、大好き。」

キラキラと眩しい光を放つ瞳に吸い込まれて
あっという間に、唇を奪われる

キスの合間に繰り返される、
瞬くような、のっちの囁き
「…好き、好き、好き…」
髪に、おでこに、鼻先に、瞼に、降ってくるたくさんの想い。
のっちの髪が、あたしの頬を掠めていく
ふいにのっちが頭を下げて、首筋にキスをした
「ひゃっ!」
驚いて声をあげると、耳に吐息がかかる
「ゆかちゃん、シーッ」
のっちが、あたしの口元に指先を当てる
顔を上げず、首筋から離さないで、唇を這わせていく

耳の後ろ、あごの下、鎖骨の窪み、
…気がつくと、のっちの舌が撫でていた
「んっ…ぅん…」
熱い指先に唇を押さえつけられて、声が出せない
ゾクゾクする感覚に震えだして、のっちの指先を噛んでしまう

「ぃたっ!」
「…やっ…、のっち」
「…嫌?」
「ゆか…、その。。。」
「のっちは、ゆかちゃんが、欲しいんよ。」

のっちが、まっすぐに見つめているから

真っ赤になってしまいそうで、
目を合わせられないまま、小さくつぶやいた

「…ゆかは、優しくしてくれんと、嫌…。」



あたしの言葉に覆いかぶされたのっちのキス
ハチミツみたいに甘くって
口の中で弾けたみたいに、いっぱいになってしまう
行き場のない舌が、追われて絡み取られる
息をするのが、苦しい…

ワンピースの上を、静かに滑っていくのっちの手
あやすような温度に、心を連れて行かれそうになっていると
指先がもっと下に、降りてきた

ドキッとして、思わず体を閉じる
のっちに穏やかに咎められ、ゆっくりと開かれてしまう
服の中に入って来た温かい手は、
…ほんの少し、震えていた

のっちの長い指が、肌に、
触れてくる

胸に、お腹に、お臍に、腰に
あたしのラインを、なぞるように撫でていく
のっちに触れられたところが、熱を放ちはじめる
痺れるような甘い体温に、
呼吸が乱れて、意識に靄がかかったみたいに、力を、奪われる

そして…、あたしに、たどり着く

その手の温度が
もどかしくて
恥ずかしくて

…気持ち、が、よくて

のっちの指先が、探している
激しくなる呼吸を隠して
あたしの吐息に耳を澄ませるように
顔を近づけて、聞き漏らすまいとしている
そんなにも、せつない顔をして
ピッタリと重ねられた体から
隠せない心臓の音だけが、荒れ狂うように響いてくる

狭くて暗い衣装室の中に、
押し殺された溜息だけが、降り積もる
どんどん上昇する湿度と温度に、目がくらみそう
窒息しそうな距離から、離れられない
こんなにも近くにいるから
自分でもわけがわからない感覚が、勝手に目覚めていく。



突然、体がビクッと弓なりになる
のっちの勘が、一番深い場所を、探り当てた
顔をあげると、のっちと目が合う
瞳の色だけで、ねだるように、尋ねてくる

(…ココ?)

うまく反応できない
乱れそうな声を、唇を噛んでこらえ、顔を伏せた
下からのぞきこまれても、眼をそらしてしまう。
のっちの息が、細くなった
不安そうな目線が、あたしのカラダを撫でてゆく
汗ばんだ頬を擦り寄せて、あたしの答えを、欲しがっている

(違うん…?)

密やかに手繰るような指に、
噛み殺しきれない吐息が、漏れ始める
焦ったのっちが、わずかに力を込めた

「ぁっ…」

戸惑う指先が、一瞬だけ止まった。

…それから、
…ゆっくりと、静かに優しく触れてくる、…そこが。

おずおずとしたやわらかな刺激に、涙が溢れる
潤んだ目で見上げると、切羽詰まったように唇を求められた
捕らえられた熱い舌に、焼けつくされる
弾む吐息まで、奪い尽くして。
苦しさに瞼を開くと、
キラキラの星を宿した瞳に、射すくめられた。
こんなに狭い暗闇で、のっちの目だけが輝いている
もうそらせないほど、強い眼差しに、
胸が、いっぱいになる

のっちが、見つめている

待っている、あたしの声を
待っている、あたしの言葉を
待っている、あたしの、…あたしを
…言ってほしい…?

「…のっち、…もっと…っ…」



のっちがあたしに、キスの雨を降らせる
祈るような慈しむような丁寧さで
溶けちゃいそうな刺激を繰り返す
その掌に、導かれていく

のっちの指先が語っているから
もっと、見せてと
もっと、聞かせてと
もっと、こっちへおいでと

溢れ出る声は、たっぷり濡れた唇で、覆い隠して。
のっちが送ってくる快感に、身をゆだねる

次第に鼓動が早まって
何かが、体の中を、駆けめぐる
雷に打たれたみたい、
暴れ出しそうな激しい感覚に、意識が途切れそう
目の前が、真っ白に霞んでいく…

のっち、抱きしめていて
あたしの全部を
…あげる


「んっ…!」


ゆっくりと戻ってきた感覚に目を開くと、
そこは、のっちの腕の中。

力の抜けた体を、ぎゅぅっと抱きしめられた
無意識に、のっちの体を掴んできつく固まっていた両手を、静かに解く
大きく深呼吸をすると、
のっちがおでこにキスをしてきた
あたしの髪をサラサラと撫でて、耳元に囁く

「ゆかちゃん、…好き。」

…好き…、好き…
何度でも繰り返すリフレイン
あたしものっちが、…大好き…

さっきの快感より、優しい気持が満ちてくる
とろけそうな幸せに、のっちの温もりをもっと求めたくなる。。。



だが!

ちょっと、待って。
…え~っと、少し落ち着こう。
このままでは、あ~ちゃんのところに、戻れなくなっちゃう!

いかんいかん、
しかもここ、衣装室だった!
あたしは、はっとして、体を離した。
のっちが、不思議そうに見返してくる。
髪を整えながら、まだドキドキしているハートも服の下に押し込んで、
つっけんどんに言葉を放つ。

「のっち。あ~ちゃんが待っとるじゃろ。もう、行かんと」
「もうちょっとくらい、いいじゃろ。」
「だめ。戻らんと心配するけぇ。」
「もっとこうしていたいんよ。」
「…。そりゃ、ゆかも、そうだけど…」

のっちが顔を寄せてくる。
「…じゃ、もっかい、しちゃおっか?」
「しないっ!」

まったく、なんでこのコはそんなことばっかり…。
こらっ、ダメだってば。
…こ、これ以上すると、ゆか、ホントに…。

絡みつくのっちを突き放すと
赤い顔を抑えて、扉に駆け寄る。
扉を思いっきり押した。引いた。
…が、びくともしない。
ウソっ、扉が開かない?!
ここって、まさか、中からは出られないんじゃ…。

のっちの熱っぽい声が、背中を撫でる。
「ゆかちゃん…」

こ、こりゃヤバイ、ヤバイよっ!
助けて、あ~ちゃん!!



その頃、あ~ちゃんは。
「一体、二人はどこにいったんじゃろ???」
まだ、廊下を捜索中なのであった。

「…!…ぁ~ちゃ…!」
「んっ?ゆかちゃんの声…?」
「…、あ~ちゃん、あ~ちゃんっ!」
「えっと、ここなのかな?」
暗闇に、光がさしはじめる。
「あっ、二人とも、こんなところにおったん?」

「よかったぁ、あ~ちゃん!」
ほうほうの体で逃げ出したあたしは、涙目であ~ちゃんに抱きつく。
「もう!すっごい探したんよ。どこ行ったかと思ったよ。」
「ごめんごめん、こっから出られんかったんよ。」
「そうなんだ。でも…二人とも、なんで赤い顔しとるん?」
「この中、空気が薄かったんよ(誰かさんのせいで)!
 早ぅ、いこっ!!」
あたしはあ~ちゃんの手を引くと、ダッシュで部屋を飛び出した。

バクバクする心臓を抑えて、廊下を疾走する
のんびりしたのっちの声が、背後に響く

「二人とも、ちょっと待ってよ。早いよ~!」

早く早く
逃げ出さなくちゃ
慌てすぎて足がもつれそう
急いで急いで
もっと遠くまで、行かなくっちゃ!


…でもね。

わかっているの
知っているの
どんなに遠くに走っても
もう、絶対逃げられないって。

そうでしょ。

だって…、
あたしは、君の、


瞳の虜





おしまい







最終更新:2008年10月10日 23:15