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side.N


おいでよ。
その言葉を受けた彼女が、ゆっくりと身に纏っているワンピースを脱ぎ、床に落とした。
暗い部屋の中。
月明かりを受ける彼女の肌は、輝く程に白い。
綺麗。そう思いながら、彼女を真っ直ぐに見つめ続けた。


知ってたよ。
勿論知ってた。
でも、確信ではなかった。
そうだろうなとは思ってたけど、自信がなかった。


望んでた。
本当は望んでたんだ。
あたしは、本当は彼女とこうなりたかったのかも知れない。


きっと、あたしがゆかちゃんを選んだのは、そういう事なんだ。
二人を天秤にかけた時に、ゆかちゃんを選んだのは、あ〜ちゃんに拒絶されるのが恐かったから。
あたしの本当の想いが、拒絶されるのが、恐かったからだ。
だからあたしは、あ〜ちゃんは選べなかった。
上手くいかなかった時に恐怖なのは、圧倒的にあ〜ちゃんだったから。
人を好きになるのは、物凄く素敵な事だけど。
人を好きになるのは、物凄く恐い事でもあるから。

だから逃げたんだ。
恐いから、逃げた。
そして、ゆかちゃんを好きになった。
でも、傷付けた。
あたしの勝手で、傷付けた。
だって、あたしじゃダメだったから。
彼女を輝かせることができるのは、あたしじゃない。
それどころか、あたしは自分の世話すらできないらしい。

もう分かんないよ。
あたしはなにがしたいんだよ。
どうしたらいいの?
誰か教えてよ。
だって、あたしはあ〜ちゃんにはなれないんだよ?
あたしの気持ち、分かる?


「恐い顔しとる」
「そう?」
「うん。でも、泣き出しそうにも見える」
「まさか。なんであたしが泣かなきゃいけないの」
「本当はずっと泣いとるくせに」


でも、あたしの悩みはもうオシマイ。
今から最低な事して、そして終わる。
中途半端だからいけなかったんだ。
これでやっと、嫌いになって貰える。
最低な奴になれる。
結局、あなた次第だったんだよ。なにもかも全て。


「知った様なこと言わないで」
「でも、知っとる」
「なんも分かってないよ。あ〜ちゃんはなんも分かってない」
「分かっとる。黙りんさいや」


ゆっくりと近付いてきたあ〜ちゃんが、あたしの唇に指で触れた。


「ほら、あたしは此処にも見つけたよ」


キスをする。
彼女との初めてのキスを。
お互い目を閉じずに、世界で一番近い距離で見つめあう。


「強がりな性格。変わらないもの」



side.K


あ〜あ。なにやってんだろ。
そんな気分じゃないはずなのに。
どんな気分なのかもイマイチ掴めてないけど。


「歳は?」
実はそんな気分なのかな。
「使ってるカメラはね……」
そんな訳ないよね。
「いつもはどんな写真……」
のっちはなにしてるかな。
「びっくりしたよ。こないだスタジオでさ……」
昨日のあ〜ちゃん、帰り際の様子がおかしかった。
ヤバい。なんかまた泣きそう。


「話、聞いてる?」
「え?」
あ、いけない。
この人と居ること、忘れてた。
「すいません。ボーッとしちゃって」
「いや、いいよ。突然誘っちゃったのはこっちだし」
仕事終わり。誘われた夕食。
なんでついてきちゃったんだろう。
プロのカメラマンになんて今となっては中々会えないから、話をしようと思ったんだっけ。
アシスタントを探してるとかなんとか言ってたんだっけ。
なんにせよ、ダメだ。
なにもときめかないし、なにも興味が湧かない。
今のあたしを動かせるのは、きっと世界にたった一人なんだ。


——カシャ、ジー……
暫く考えてると、目の前でシャッター音がなった。
顔を上げると、今日初めて会った人間があたしにカメラを向けている。
別に写真撮られるのには慣れてるけど。今までに何万枚撮られたか分からないから。でも一言くらい声かけてくれたって良いのに。
「ボーッとしてるから、撮っちゃった」
あ……
知ってる。


『ボーッとしてるから、撮っちゃった』
あれは確か、二人でゲームしてる時だったかな。
『ゆかちゃんのカメラ、でかいね』
イジッたことなんてないのに、適当に電源入れてそのままシャッター切ったんだ。
『げ、なにこれ。ちょーボケてるし』
ピントも合わせないし、全然絞らなかったし。
部屋明るいのに、5.6秒なんて絶対要らない。むしろ、あんなのAutoFocusで充分だった。
『あはは、センスねぇ〜』
違うよ。使い方分からなかっただけでしょ。
あたしの素顔を写したかったんだって、言ってたよね。


「ごめん!」
「え?」
「嫌だったよね。いきなり撮られるなんて」
「あ……」
あれ?
あたし、泣いてる。
「違います。ごめんなさい」
こんなに……
あたし、こんなになっちゃってるんだ……
泣き出すくらいに……
どうしようのっち。
どうしたらいい?
ねぇ、のっち。
今、どこでなにしてるの?
なんで別れなきゃいけなかった?
「ごめんなさい、帰ります」
「あ……」
席に彼を残し、あたしは駆け出した。
やっぱり好きだ。
せめて、ちゃんと話くらいしたい。



side.A


難しい顔をしたままのあなた。
今、どんな気持ち?
こうしてみたいって、思ってなかった?
つい最近何処かで見たシーンの様に、執拗に繰り返すキス。
角度を変えては、またあたしの唇に重なる彼女の唇。
ゆっくりとベッドに横たえられて、躊躇いがちに躰をふれる彼女の手。
「ん……のっち」
上昇する体温。
あたしは彼女の名前を呼ぶ。
冷めきった部屋の中、冷めきった彼女の中にある、熱を探す様に。
「のっち。あ……」
何度も、彼女の名前を呼ぶ。
まだまだ、足りないよ。

もっと熱くして欲しい。
もっと熱くなって欲しい。


「ねぇ、ゆかちゃんともこんな風にしてたの?」
「……似たようなもんだよ」
「ふぅん……こんなんでゆかちゃん満足してくれてたんだ」
「っ! うるさいな!」
少し強張った表情。
「思ってたより随分、お利口さんなんだね。のっちのするエッチは」
「黙って」
低く鋭い声。
それでいい。
なんにでも上手く折り合おうとしなくてもいい。
理想通りに生きようとなんてしなくていい。
やりたいことやりたいようにすればいい、言いたいこと言えばいいんだよ。
無理に折り合いつけようとなんてしなくていい。
世の中とも、人とも。
大概不器用な子だから、周りにばっか気を使って。
自由にしてる方がいい。
あなたは自分がどれだけ魅力的かよく分かってないんだよ。
「あたしはこんなんじゃ全然満足できない」
あたしに覆い被さる彼女の瞳を、強くみつめた。
その瞳は、少しの不安を滲ませてるものの、あたしの知ってる芯の強い瞳に少し近付いていた気がした。
「好きな様にしなよ。やりたいように……んぁっ!」

瞬間、触れるだけだったキスが深くなった。
あっという間に口内をかき回される。
同時に、ずらしたショーツから彼女の指があたしのソコに触れた。
「ん……あぁっ」
「あ〜ちゃんの注文通りだからね」
「あ、のっち……ぃ」
「濡れてるじゃん。びしょびしょだよ」
「ぁん……ふ、ぁ……」
口内をぐちゃぐちゃにかき回されながら、一番敏感な部分を弄ばれる。
息もつかせぬ内に、彼女に全部連れていかれそうになった。
近い所からも遠い所からも、いやらしい水音が聞こえる。
唾液を混ぜる音と、あたしのソコから溢れる蜜の音。
静かな部屋に響いて、どうにかなりそうになった。
「ん……ふぁ、あ」
「もういいよね。入れるよ?」
「うん……うん。のっち、あぁ……」
「かなりヤらしいよ。声も顔も」
「あぁっ!」


あたしの中に彼女が入ってきてから程無く、あたしは彼女の腕の中で果てた。
「満足いった?」
そう聞く彼女の表情は、よく見えなかった。


〜続く〜





最終更新:2009年07月22日 21:54