side-N
仕事終わり。地下鉄の駅を出ると、どしゃ降りの雨。
今朝の天気予報どおり。
彼女がプレゼントしてくれたオレンジの傘を開く。
いつも黒ばっかで彩りがないからって、暖色を選んでくれた。
傘見るだけでにやけてる自分って痛いやつだよなぁ・・・
「あー、寒っ」
この時期の冷え込みはなめたらいけん!
って彼女が言ってたけど、ホントだ。
もうちょっと着込んどけば良かったななんて思いながら歩き出す。
道を歩く人の色とりどりの傘をぼーっと見ながらゆっくり歩く。
『傘さす時にいっつも思うんだけどさぁ・・・』
あれ、今思い出した声だれだっけ?
冷たい雨が傘を持つ手を刺すけど、意識はそんなとこにはなくて、声の主を捜すのに必死だった。
彼女ではない。彼女ほどじゃないけど甘さがあって、柔らかさもあって・・・だけど芯がある。
懐かしい感じ?思いだせよ、自分。
思い出せないや、って空を見上げたら、どしゃ降りの雪は気づかないうちに雪に変わってて、オレンジの傘は真っ白になっていた。
雪・・・
あぁ、そっか。 あ〜ちゃんだ。
じゃあ思い出したのはきっとあの日の事だね。
こんな日はあの日のわたしたち3人に感謝しなくちゃなって思うんだ。
ほら、もう家が見えて来た。あの部屋にいる彼女も今きっと思い出してる。
side-K
キミの帰りを待ちながら夕食の準備。晩ご飯はシチュー。
しちゅーずでぃ なんてね。
♪さよならーさよならーさぁうちにかえろう ありがとう大切な このレトロメモリー
最近お気に入りのシチューのCMの歌を口ずさみながら手早くランチョンマットを広げていく。
窓の外を見るとさっきまでどしゃ降りだった雨は雪に変わってて、ベランダにうっすらと雪が積もっていた。
だいじょぶかな?傘持っていってたよね。
ベランダに出て積もった雪を少し指でなぞってみた。
指先に感じた冷たさはあの日と全く同じで、指先とは正反対に心はあったかくなった。
今キミも思い出してるかな?
ベランダから下の方を見ると、オレンジ色の傘をさした人影が見えた。
帰って来たみたい。今日は玄関でお出迎えしよっかな。
side-N
「ただいまー。」
「お帰り。」
家のドアを開いたら珍しく玄関でお出迎え。
なんだか急にすごく愛しくなって、濡れたコートも脱がずに力一杯彼女を抱きしめた。
「どしたの、急に」
ってクスクス笑う彼女。その笑顔を見たら体中に安心感が広がって脱力してしまった。
「いや、雪降ったから。」
「あぁ、やっぱ思い出した?」
「もちろん。ゆかちゃんも?」
「うん。てかやっぱ思い出すって。あれは。」
「だよねぇ」
ふたり顔を見合わせて同時に笑う。ああ、やっぱこのひとだな。
「晩ご飯もしかしてシチュー?」
「お、よくわかったね」
「のっちの鼻をみくびったらいかんよ。」
「犬かw」
手を洗って、夕食が準備されたテーブルを彼女と挟むようにして腰掛ける。
「ご飯終わったら久しぶりにあ〜ちゃんに電話してみよっか」
「うん。いいかも。ま、とりあえず先に・・・
「「いただきまーす」」
今夜も幸せな食事が始まる。
最終更新:2009年08月01日 21:41