side.K
あたしはことを済ませたあと、彼女に腕枕をしてもらうのが好きだ。
体を重ねて曖昧に混ざり合っている時とは違う、心地好い一体感。
その一体感は、この上ない至福の時間をもたらしてくれる。
いつもなら。そのはずなのに。
だけど彼女は大概天井とにらめっこしている。最近は、そうしていることが増えた。
お互いがお互いを想う一体感は、そこにはない。
気付いてるんだよ。
最近、なんかおかしい。
様子が違うのも感じるし、いつもなにか
考え事をしている。
相変わらずあたしに触れる手は優しいけど、何処か心此処に在らずっていうか……
不安だよ。
昔から彼女には、なにを考えているか分からない時がたまにある。
びっくりするくらい単純な時もあれば、恐ろしいくらい複雑な時だってある。
今は、後者。
ピクリとも表情を変えず、瞬きだけを繰り返し一点を見つめる彼女。
あたしが横顔を見つめていることにすら気付かない。
だけど、その横顔は息を飲む程美しい。
月明かりだけを浴びて、真っ白に浮かび上がる。
あたしの方へ伸びる左腕も、放り投げられた右腕も、細い首筋も綺麗な顔のラインもなにもかも。
いつの間にか彼女は、非の打ち所のない魅力的な女性そのものになった。
あたしなんかが捕まえておける人じゃないよな。
きっと、彼女へのお誘いだってひとつやふたつじゃないだろう。
こんな方向にしか発展していかない自分の思考は大嫌いだけど、仕方ない。
不安にもなる。
だから、最近あたしは何度も何度も彼女を求める。
不安を打ち消して欲しい。
余計な事を考える暇なんか与えないで。
彼女も、嫌な顔ひとつせずに応じてくれる。
それでも、終わったあとはこの空気になる。
なんか、彼女が遠い。
微妙な距離感。
ねぇ、遠く感じるよ。
こんなに近くにいるのに。
なにを考えているの?
抱いてくれるのは、なぜ?何をすればあなたの全てを占めれるの?
あたしはそればかり考えている。
のっち。
ねぇ、のっち……ねぇ。
のっちってば。
心の中で何度も呼ぶ。
なにひとつ反応のない彼女。
暗くなる。
重くなる。
痛くなる。
冷たくなる。
苦しくなる。
悲しくなる。
気付いてよ!
ずっと見てるのに。
ずっと呼んでるのに。
大丈夫なのかな。
ふと気付いた時には、そこにもういなそう。
なんだか、どこか知らないところへ行ってしまいそう。
「……のっち?」
「……」
「ねぇのっち!」
「……ん?」
「ずっと呼んでるのになんで返事してくれないの」
「え、ホント? ごめん全然気付かなかった」
「……うそ」
「え?」
「うそついた。ずっとなんて呼んでない」
「……そっか」
「うん……」
「ごめんね」
向き合えば、優しいんだ。
でもね、この人はそうじゃない時なんてなかったから、分からない。
うわべ?
ほんね?
教えて欲しいのは、あなたのホント。
それでも、柔らかい表情を向けられると少し安らいでしまうのは、惚れた弱み。
「ねぇのっち。例えばあたしが作った料理が凄く不味かったらどうする?」
「……黙って食べるよ。嫌な顔しながら」
「えぇ……それなんかちょっとイヤ」
「言わない優しさだよ。言わずに、でも伝えてあげるのも、優しさ」
「上手いこと言っとるだけじゃん」
「そんなもんだよ。あたしなんて」
「じゃあさ、二人で海に行った時にさ、突然の嵐であたしが沖の方で溺れちゃったらどうする?」
「う〜ん……大きく手を振ってさよならする」
「はぁ?」
「今までありがとー! みたいな? あはは」
「なにこの人最低じゃ」
「ようやく気付いたか」
「助けんさいや」
「無理だよ。のっちそんな泳ぎ自信ないし。嵐の海なんてとてもとても」
「飛び込みんさいや。一緒に死のうやぁ」
「う〜ん……怖いなぁ」
「もういいよ」
「あれ、拗ねちゃった?」
そう言って、頬っぺたを摘ままれた。
もう!
真面目に話す気ねぇなコイツ。
「……じゃあさ、あたしがなんか病気にでもなっちゃってさ、余命あとどんだけです。みたいなやつ。そしたら、泣いてくれる?」
「うん。泣くね。わんわん泣くと思う」
「あたしが死ぬ時はさ、のっちどうする?」
「えぇ〜……随分難しいね」
「また、さよならって手でも振る?」
投げ出されていた右腕が、その手が、あたしのおでこに降ってきた。
そして、撫でて、笑った。
「そん時はさ、ゆかちゃんのっちの事殺してくれていいよ。一緒にいくわ」
ずっと我慢してた涙が、ヒトスジ流れた。
〜pege3 end〜
最終更新:2009年08月22日 20:25