「・・・ゆかちゃん?どうしたん?彼氏さんとデートじゃなかったん?」
あたしは動揺を隠しながら扉を開けて、ゆかちゃんを玄関に入れた。
「別れてきた。てか、別れてやった。あー、せいせいしたwwてか、『クリスマスに何やってんだろ?』って感じよw」
「別れたん?」
「うん。だって、一緒にいてもつまらんもん。時間の無駄ムダ。って、あれ?先客がいたんだ・・・」
ゆかちゃんは部屋にいるのっちに気付いた。
狭い部屋だから気付かない方が無理だけど。
「どうも」
のっちは一言そう言ってペコッと頭だけ下げて、ゆかちゃんに挨拶した。
「どぉぉぉもぉぉぉ。あたしは、あ〜ちゃんの幼馴染のゆかでーす。よろしくねー♪イエーイ」
最初気付かなかったけど、ゆかちゃんお酒臭い。
そして、手にはシャンパンが顔を出してる袋を持っている。
「ゆかちゃん、お酒飲んだん?」
「おう!!ちょっと一杯ひっかけてきました!!」
おっさんかよ・・・。
「よし!!三人で、飲もう!シャンパン半額だったから買って来ちゃったのw」
ゆかちゃんはのっちの隣にデンと座った。
座った拍子に、のっちにもたれ掛かった。
それだけなのに、あたしは軽く嫉妬してしまった。
そんな嫉妬した自分にショックだった。
自分はいつからこんな、ちっさな人間になっちゃったんだろ・・・。
のっちが絡む事になると、自分が自己中な人間になっていってる気がする。
「ところで、あなたは誰デスカ?」
もたれ掛かったままの状態でのっちに質問するゆかちゃん。
「あ〜ちゃんの友達の・・・のっちです」
のっちは動じずに答える。
この辺は女の子の扱いになれてるのっちっぽかった。
「のっち?変な名前wwのっちより、のんのんの方が良くない?ゆかは、のんのんって呼んでイイ?」
「どうぞ。お好きに呼んで下さい」
「なーんで、敬語なん?のんのん、ウケる〜。同い年でしょ?もっとフレンドリーにシテヨww」
あー・・・ゆかちゃん、完璧に酔っ払い。
のっちは酔っ払いの扱いも上手なのね・・・。
「あ〜ちゃんー、シャンパン飲もう。グラス持ってキテー」
「・・・はいはい」
あたしは言われた通りにグラスを三つ持ってきて、シャンパンを注いだ。
「はい。ふたりともグラスは持チマシタカ?」
あたしとのっちは顔を合わせながら、ゆかちゃんの言うとおりグラスを手に持った。
「では、カンパーイ・・・って、何に乾杯スンノ?」
「さぁ?クリスマスにじゃない?よくわからんけど・・・」
ゆかちゃんとこんなやり取りしてたら、のっちが「・・・三人の出会いに乾杯でいいんじゃない?」って口を開いた。
「のんのん、それいい!!かなりキザっぽいけど、ゆかそういうの嫌いじゃナイヨ!!」
のっちはあたしを見てまたあのニュって口角を上げて笑った。
あまりにも不意の事だったから、思わず目を逸らしてしまった。
ゆかちゃんがベロベロに酔っててよかった。
これがゆかちゃんに見られてなくてよかった。
「はい。では、気を取り直して・・・三人の出会いにカンパーイ!!」
コンっと三つのグラスが当たる音が狭い部屋に響く。
ゆかちゃんは酔っててかなりの上機嫌。
それは誰が見てもわかる。
のっちはニコニコしてあたしとゆかちゃんを交互に見てる。
あたしは突然のゆかちゃんの訪問にまだ動揺している。
まぁ、これだけ酔ってれば、ゆかちゃんにあたしの気持ちは悟られないよね・・・。
「で、ふたりはどのようなお友達ナンデスカ?」
「えっ!?どういうって・・・ふ、普通の友達じゃけぇ・・・」
「大学で知り合ったんだ。よく授業が一緒だから自然と仲良くなった感じだよね?」
あたしが答えに困ってると、のっちが助け舟を出してくれた。
若干内容は違っていたけど。
「わかる、わかる。あ〜ちゃんは人を呼び寄せる才能があるもんね。ゆかもそのひとりダモン」
「そうだね。あたしもそのひとりに仲間入りだ」
「なんだ、のんのん。仲間じゃんwwじゃ、ゆかとのんのんも今から友達ネ?」
「えー・・・ゆかちゃん、それはちょっと強引じゃろ・・・」
「ふふ、いいよ。ゆかちゃん、これから友達だね。よろしくw」
そう言ってゆかちゃんはのっちと握手をした。
「のんのん・・・指がウインナーみたいwwカワイイ」
「へ?マジで?そんなん、初めて言われたわw」
のっちは自分の指をマジマジと見ている。
そうなんだ・・・のっちの指なんてそんな見てなかったから気付かなかったよ。
なんか、すんごい嫌だな・・・。
ゆかちゃんに黒い嫌な気持ちにされた気分。
なんか、すんごい嫌だな・・・そう思っちゃう自分が。
ゆかちゃんの事大好きなのに、そういう気持ちになっちゃうのが嫌だな。
のっちが絡む事になると、自分が醜い人間になっていってる気がする。
あれよあれよという間に、ゆかちゃんが持ってきたシャンパンが空になった。
気付いたらクリスマスが終わる30分前の
23:30になっていた。
ゆかちゃんは酔いつぶれて寝ている。
そのままにしとくと、風邪を引くからあたしのベッドに寝かしてあげた。
のっちとあたしは後片付け。
「ごめんね・・・。ゆかちゃん、シラフの時はあんなんじゃないけぇ。もっとちゃんとした子なんよ・・・」
「あぁ、わかってるよ。だって、あ〜ちゃんの親友でしょ?良い子に決まってるじゃん」
カチャカチャと食器を洗うのっち。
あたしはテーブルを布巾で綺麗に拭いている。
「今度・・・三人でご飯でも食べようよ。あの子がシラフの時にw」
「あの子って・・・ゆかちゃんの事、気になるん?」
「別に。なんで?」
「ゆかちゃん、かわいいじゃろ?」
「うん。かわいいね」
「のっちは、かわいい子好きじゃろ?」
「うん。好きだね」
「なら・・・ゆかちゃんの事好きになったじゃろ?」
「うん。好きになったね」
「・・・・」
「だって、あ〜ちゃんの親友だもん。嫌いになれるわけないじゃん」
そんな優しい顔してそんな事言わないでよ。
「布巾、かして。洗うから」
あたしの親友だからゆかちゃんを好きになったの?
あたしの親友じゃなかったらゆかちゃんを好きにならなかったの?
のっちに布巾を渡す時、指と指が触れ合った。
ほんの・・・それは本当にほんの一瞬だったけど。
あたしはそれだけで、すごくのっちの事を意識してしまう。
「のっち!!先にお風呂入ってきてええよ・・・」
さっき触れた指から全身が熱くなって、あたしは居たたまれなくなり、のっちにお風呂に入るように促した。
「先、入っちゃっていいの?」
「ええよ。だから早く入っちゃって・・・」
「わかった。んじゃ、先入るね」
のっちはバスタオルと着替えを持って浴室へ向かった。
「ふぅ・・・」
あたしは深く息を吐いてベッドに寄りかかって座った。
ベッドにはうつ伏せに寝てるゆかちゃんがいる。
「ん・・・・」
斜め横から声がした。
ゆかちゃんが起きたみたい。
「あっ、ゆかちゃん。起きた?」
「んー・・・、あ〜ちゃん?」
まだ半分しか開いてない目を擦ってるゆかちゃん。
「ふぁぁ・・・」
ゆかちゃんは、大きな欠伸をひとつした。
目は虚ろで、まだお酒が残ってるみたい。
「・・・おしっこ」
そう呟いてトイレへ向かってしまった。
「おしっこって・・・あっ!!!ゆかちゃん、今ダメ!!」
だって、うちはユニットバス。
今はのっちが浴室を使っている。
ゆかちゃんを止めるのが一歩遅かった。
浴室に入っちゃった・・・。
「おぉぉ!?」
シャワーの音で聞き取りずらいけど、微かにのっちの驚いた声が聞こえた。
そりゃ、驚くよね・・・。
あたしが浴室の前でオロオロしてると、ドアからゆかちゃんがひょいと顔を出した。
「ねぇ、あ〜ちゃん。ゆかもシャワー借りてイイ?」
「えっ!?え?い、一緒に?」
「うん。シャワー浴びてサッパリしたいんよ。ダメ?」
「ダメ・・・じゃないけど、のっちと一緒に使うの?」
「うん。だって今使いたいんだもん。いいでショ?」
そんな風に言われたら、NOなんて言えないよ、ゆかちゃん。
「・・・うん。いいよ」
「ありがとう、あ〜ちゃん」
パタン。
「・・・タオル、出しとくね」
あたしは閉じられたドアに向かって独り言の様に呟いた。
のっちとゆかちゃんが狭いユニットバスに一緒に入っている。
だた、シャワーを使っているだけだよね・・・。
二人とも裸だけど、体を綺麗にしているだけだよね・・・。
のっちはゆかちゃんに手なんて出してないよね?
ゆかちゃんものっちの誘いなんて受けてないよね?
あー、嫌だ・・・。
ふたりの卑猥な行為しか想像出来なくなっちゃってる・・・。
最低。
いつから自分は変態な人間になっちゃったんだろ・・・。
耳を澄ましても、シャワーの音が大きくてその音しか聞こえない。
聞こえないけど、ふたりの悦んでる声が聞こえてきそうだ。
ここに立ち竦んでも息が詰まるだけだ。
あたしは浴室に一番遠いベランダに逃げ込んだ。
遠いと言っても狭いワンルームで、目と鼻の先だけど、この距離しかないんだもん。
ベランダに出ると、寒かった。
そりゃ、今日はクリスマスだもん。
あと、30分で終わっちゃうけどね。
ベランダから見下ろす景色はクリスマスだけあって、イルミネーションが綺麗だ。
そんな綺麗な景色がぼやけてきた。
あーあ、また泣いちゃった。
最近あたし、泣きすぎでしょ・・・。
あたしはなんで、クリスマスに自分ちのベランダで泣いてるんだろ・・・。
のっちが絡む事になると、泣き虫なあたしはもっと泣き虫になってしまう。
ねぇ、ふたりで狭いところで何やってるの?
ねぇ、のっち・・・ゆかちゃんだけは手を出さないで。
ねぇ、ゆかちゃん・・・のっちの誘いだけは受けないで。
この物語はのっちの物語だけど、あくまであたしから見たのっちの物語。
だからあの時、ゆかちゃんと何をしてたのかは、結局わからずじまい。
もしものっちともう一度会えたなら、あの時の事訊いてみようかな?
訊いたらきっと、のっちは困った顔になって絶対ハノ字眉になるだろうな・・・。
本当はね・・・あの時ゆかちゃんと、どんな事をしてたっていい。
そんな事、今となってはどうでもいいから。
のっちに会いたい。
あたしの願いは、ただそれだけ。
その願いが叶うなら、神様・・・あたしは何だってするよ。
最終更新:2009年08月22日 21:43