side.K
「ねぇ、ゆかちゃんもゲームやってみない?」
「えぇ、無理だよ。ゆかうまくできんもん」
「大丈夫。忙しいやつじゃないから」
二人で過ごす休日。
あたしの部屋。
テーブルの上には、遅く起きたあたし達の朝ごはん兼お昼ごはん。
あたしは白ごはんで、のっちはパン。食べっぱなし。
ベッドの横には、脱ぎ散らかした二人分のお洋服。
ソファには大きめのシャツだけ纏った二人。
今の空気を色で例えるなら、暖かいオレンジかな。
それとも優しいピンクかな。
溢れる気持ちは、間違いようのない幸せ。
穏やかに二人で過ごす、幸せ。
「このキャラをね、森の中走らせ回したらいいから」
「うん」
「んで、敵が出てきたらやっつけて。魔法でも特技でもなんでも使っていいから」
「うん」
「んで、誰かやられちゃったりHPって書いてあるとこ黄色くなっちゃったりしたら、横にある街で宿屋に泊まれば回復するから」
「わかった」
「分かんないことあったら言って」
「うん」
のっちの大切にしているゲーム機。
生活の大半を二人で過ごす様になって、のっちが一番にあたしの部屋に持ってきたのはこれだった。
と言うよりも、これ以外はなにも持って来なかった様な……
のっちに言われた通りにゲームを始める。
RPGっていうやつかな?
あたしはパズルみたいなのとか、マリオくらいしかやらないから良く分からないけど。
のっちはこういうやつが好きらしい。
隣でニコニコして見てる。
あたしが握る、カチョカチョ鳴るコントローラーを、見てる。
ニコニコっていうより、ニヤニヤ?
「なん?」
「ん?」
「見とるじゃん」
「なんか良いなぁって思って」
「なにが?」
「こういうの。あ、エンカウントしたよ」
画面がかわり、大きなモンスターの周りに小さなキャラが四人出てきた。
金髪で体より大きな剣を持ったキャラ。
主人公かな?
名前は……かっしー。
なんで?
隣にいるワンピースを着た女の子キャラはあ〜ちゃん。
これまた大きな手裏剣みたいなのを持っている女の子が、もっさん。
そして銃を持った色黒でゴツいキャラが……あやの。
なんで?
「ねぇ、キャラに付けた名前の基準は?」
「ん〜? なんとなく」
「この人あやのはおかしいじゃろ」
「なんか自分の名前ってつけづらいんよね」
「にしたって、もっさんとあんたは逆でいいじゃろ」
「その子序盤居ないんだもん」
「ふ〜ん……わ、ゆかめちゃくちゃ強い!」
「でしょ? 愛を持って育てたからね」
「じゃあゆかがやっとったらのっちが強くなるね」
「あら〜、かわいいこと言うねこの子は」
伸びてくる大好きなのっちの手は、あたしの頭を撫でてくれた。
あたしを守ってくれたり、あたしを気持ち良くさせてくれたり、たまに困ったオイタをする愛しい愛しいのっちの手。
全部、好き。
side.N
「楽しい?」
「うん。まぁ」
「そっか」
「のっちのやつじゃけぇ、なんか嬉しいよ」
「うん。じゃあ良かった」
ああ、のっちはなんて悪い子なんだろう。
なにも知らないゆかちゃんにレベル上げと名付けられたゲームという名の作業をやらせている……
でも楽しんでくれてるみたいだし、いっか。
「さて、と」
あたしは鞄からPSPを取り出し、電源を入れた。
「のっち今度はそれやんの?」
「うん」
「どんだけゲーム三昧よ」
「また違ったやつだから」
「ふ〜ん……じゃあゆか今のうちに部屋掃除しちゃおっかな」
「え、なんで?」
「散らかっとるじゃん」
「そうだけど、ゲームは?」
「ゆかはのっちじゃないけぇ、ゲームせんくても死なんもん」
「えぇ〜……もうちょっとやろうよ。のっちはもうちょっとゆかちゃんとくっついてたいなぁ〜」
あたしがこう言えば、仕方ないなぁって柔らかく笑って、隣にいてくれる。
かわいいよね。
てか、やっぱりあたし計算高くね?
真剣にテレビ画面を見るゆかちゃんの横顔を見つめる。
幸せだなって、思うんだ。大好きな子が、自分を好きでいてくれてる。
あたし達の場合、特にね。
始まりを迎える事自体、奇跡のようなものだから。
あたしが少し笑うとすぐにゆかちゃんは気付いた。
今度はなに? そう聞いてくる彼女に、別に。そう答える。
教えてあげないんだ。一生懸命慣れないゲームをしてるゆかちゃんは、口が開いてること。可愛いから、教えてあげない。
姫の機嫌を損ねる前に、あたしはソファにPSPを置いた。
代わりに、サイドテーブルに置かれていた姫愛用の大きなカメラを手に取る。
電源を入れると、訳の分からない数字が液晶に並んだ。なんだこれ。普通液晶には被写体が映るんじゃないの?
まぁいいや。なんだか良く分かんないけど。カメラなんだから、
シャッター切りゃ写るには写るべ。
あたしは適当にゆかちゃんの顔にカメラを向け、幸せな瞬間を切り取るべくシャッターボタンを押した。
side.K
横にいるのっちがなにやらガサゴソやってると思ったら、今まで幾度となく聞いたあたしの大好きな音が聞こえた。
あたしは無意識に頭の中で秒数を数える。
—ピピッ
いち……にぃ……さん……しぃ……ご……?
—カシャッ、ジー
ながっ!
のっちの方に視線をやると、案の定良く分かってない顔でカメラをイジっている。猿みたい。
「ちゃんと写ってないね。ひゃくぱ〜」
あたしに気付くと、いつもの小さな子供みたいな笑顔が弾けた。
「ボーッとしてるから、撮っちゃった」
カメラを上げて見せる。
「ゆかちゃんのカメラ、でかいね」
あたしは静かに、のっちの持つカメラを操作し、今撮った写真を表示させる。
「げ、なにこれ。ちょーボケてるし」
何が写ってるのか、てんで分からない映像が液晶に表示された。やっぱりね。
「あはは、センスねぇ〜」
そういうのっちは、なんだか楽しそうだったから、あたしも笑った。
「なんで写真?」
「ん〜……なんとなく」
「使い方もわからんくせに」
「なんか今の幸せな感じをさ、あたしのセンスと腕で残しとこうと思ってさ」
ちょっと、嬉しかった。
「ほぉ〜。センス。腕」
「あ、馬鹿にしてんな」
「してないしてない」
「でもさ、なんかちゃんと写ってないけど、幸せ感漂ってない? この写真」
あたしはまた液晶を覗き込む。はっきりいってなにがなんだか分からない。
でものっちにそう言われれば、そんな気もするから不思議だ。
「ゆかちゃんの素顔を撮りたかったけどさ、こんくらい分かんないのも反っていいよ、うん」
そう言ってのっちはなんだか満足げ。良くもまぁ、この超絶ボケ写真に自信が持てるもんだ。
でもそんなこと考えながら、この先何度ものっちが撮ったこの写真を眺めてる自分も想像できて、また少し笑った。
そんなものなのかもね。
なにを切り取るかは、人それぞれで良いのかも。
「逆にちゃんと写ってない感じが、空気を感じさせるよね」
「……目隠ししてエッチすると、いっぱい感じちゃうようなもん?」
「たとえがわるい!」
わざとだよ。
またのっちは歯を見せた。
side.N
「この紐、かわいいね」
あたしは、ゆかちゃんのカメラから伸びる紐をイジる。ほどけてるけど、多分首からかける為のもの。
「さすがのっち師匠御目が高い」
「その呼び方なつかしぃ〜」
演技がけたゆかちゃんの台詞に、投げ出した足をバタバタさせて笑った。
つられて、ゆかちゃんも笑顔になる。
「あたしが結んどいてあげるよ」
そう言ってあたしは蝶々結びを作った。
我ながら、良い出来栄え。綺麗な蝶々。
あたしは余り器用じゃないけど、これくらいはね。
褒めて貰おうとそれをゆかちゃんに差し出すと、これじゃダメだと御叱りを受けた。なんで?
「綺麗にできたよ?」
「蝶々結びって見た目は良いかもしれんけどさ……」
そう言ったゆかちゃんは、あたしが作った蝶々結びの紐を一本引っ張った。
「ほら。簡単にほどけちゃった」
ぷらぷらと紐をぶら下げる。確かに。
「で、でもさ、ひとつ目の結び目は生き残ってるよ。根性感じない?」
「重いもんぶら下げたら、すぐ離れるよ」
ゆかちゃんが右手に持っていたコントローラーをサイドテーブルに置く。
一歩あたしに近付き、今度はソファの上のPSPを、同じ様にサイドテーブルに置いた。
それらは、コツンと音を立てて、一緒になった。
「だからさ、もう離れる必要ないものは、固結びしちゃえば良いんよ」
「な、なるほど……」
ゆっくりとゆかちゃんの指が、あたしの指に絡む。熱い。
「ギュッと絞めちゃえば、もう離れん」
「べ、勉強になります」
シャツ一枚しか着ていないあたしの背中に、ゆかちゃんのもう片方の腕が侵入してくる。
同時に、首筋に熱い吐息。
「固結び、しちゃおっか?」
「か、かたむすび。ですか……」
耳元で、艶っぽい声。
「固結び、してくれる?」
「します。したいです。させて下さい」
そっと微笑んだゆかちゃんを、ソファにゆっくり押し返した。
まだお昼過ぎ。時間はたっぷりある。
ゆっくりゆっくり時間をかけて。
つよくつよく、きつく結んで、もう離れない様に。
〜pege4 end〜
最終更新:2009年08月22日 22:49