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「もうすぐのっち、誕生日だね」
「そだね」
「プレゼント…何が欲しい?」
「うーん…犬」
「…犬ねぇ」

前にペットショップで眺めてたトイプードルの赤ちゃんが凄く可愛くて、のっちは今もたまにペットショップに寄っては眺めているらしい。あの可愛いワンコと戯れるのっちはさぞ愛くるしいだろうな。
だけど犬が犬を飼って良い訳がない。どうせのっちの事だ、飼い始めて1ヶ月も経てば世話すんのが面倒になって散歩もろくにしなくなるに違いない。
それに、犬を可愛がるくらいだったら、ゆかを可愛がってよ。もう少し愛情を注いでくれたって良いのに。今朝だって「ゴミ出しといてね」ってちゃんと言っておいたのに、仕事から帰ってきたら普通にキッチンにゴミ袋が朝のまんま置いてあって「あ、ゴミ出し忘れてた」って悪びれる様子もなく言うんだもん。
そんないい加減で面倒くさがりなのっちが、ペットなんて飼える訳がないんだよ。とゆー訳で、

「犬は却下」
「えー、もう名前も考えてたのにぃ」
「そもそも10万くらいするよね?そんなお金無いし」
「名前はねぇ、スザンヌかアッキーナか、ガッキー」
「だから買えないってば」

のっちはまた駄々っ子みたいに「えー」と嘆く。そんな風に携帯待ち受けのあのペットショップのトイプードルを見つめても、ダメなものはダメなんだから。






だけど次の日、ゆかは仕事帰りに一人であのペットショップに寄った。一番隅のショーケース、あの茶色い毛の可愛いトイプードルの姿は、無かった。ショーケースは空で、あの子が遊んでた小さなボールだけがポツンと残ってる。動揺した。すぐそこにいた店員さんに声を掛けた。

「すみません、三番の子って…」
「三番ですか、あの子なら今朝売れちゃったんですよ」
「…そうなんだ」

そっか、売れちゃったのかぁ、確かに可愛かったもんなぁ。空になったショーケースを見てると、なぜか悲しくなってきた。あの子をプレゼントしたら、のっち喜んだだろうな。のっちの喜ぶ顔、見たかったな。
だけど、もう売れちゃった物は仕方ない。ゆかも諦めよ。諦めてハムスターのコーナーに足を運んだ。犬は一匹何万もするのに、ハムスターって千円もしないんだ。同じ命なのに、こうも価値が違うのって、なんだか可哀想。ハムスターに同情。

ゆかはしばらくハムスターを眺めてた。遠くでキャンキャン鳴いてる元気な子犬達も良いけど、小さな体で狭いゲージを走り回るハムスターも相当可愛い。ゆかを見つめて鼻をヒクヒクさせて、


「お前……ゆかに飼われたいんか…?」


うん、って頷いた様に見えて、ゆかは後ずさりした。ダメだ。本当に欲しくなってきた。可愛い、千円もしないのに。



ゆかはペットショップを飛び出して、走って家に帰った。のっちが見せ付ける様にパソコンで子犬の画像を見ていて、ゆかはちょっと前に髪を切って脱オニギリしたそののっちの丸い後頭部に呟いた。

「ガッキー、おらんくなっとった」

って。のっちは大きな目をさらに大きく見開いて振り返る。そして泣きそうな顔するのっちを、ゆかは強く抱き締めた。





その日はすぐに灯りを消して、ベッドでずっと抱き合ってた。唇と唇をくっつけながら、たまに目線を上げると睫毛と睫毛が当たって。のっちはゆかの髪を撫でては溜め息を繰り返す。そんな息が唇を掠める度に、ゆかは目を閉じた。

「…ハムスターも、可愛かったよ」
「…のっちハムスター怖い」
「…どうして?」
「…小さい時…手を噛まれて、ビックリして…落としちゃったから…」
「……、そう」

背中に手を回し、のっちはゆかの服を脱がそうと足掻いた。不器用に磨きがかかってる。全然脱がせそうにないから、ゆかは自分で服を脱いだ。のっちの服も、脱がしてあげる。
裸になっても姿勢は崩さないまま、ただただ抱き合って、唇をくっつけながら、睫毛をかすって。のっちの肌は温かい。すべすべしてて、綺麗で、柔らかくて。

「……」


のっちは気付いているのかな、のっちはゆかに飼われてるんだよ。ペットがペットなんて飼えない事くらい分かっているでしょ。

「…誕生日…何もいらない」
「……」

のっちはそう言うと、ゆかに背を向けた。その背中に頬擦りして、肩胛骨の浮き出た部分にキスを繰り返した。キスだけじゃ足りなくて、舌で舐めあげたりなんかもした。
こうすれば、いつもだったらのっちはすぐに反撃してくるのに。

「…やめて、今日は、ちょっと無理」

……ゆかはそのままのっちに背を向けて目を閉じた。背中合わせになって眠るのには時間がかかって、結局眠れたのは三時を過ぎてからだった。



そして誕生日には、腕時計と羊のロッキングチェアをプレゼントした。のっちは喜んでくれた。あ〜ちゃんから貰った羊のぬいぐるみも凄く気に入ったみたいで、部屋の一番目立つ所に置いてある。

「ありがと、大切にするね」

なんて笑ってくれて嬉しかった。ゆかが作ったケーキも美味しいと言って食べてくれたし。お酒も飲んで酔っ払ってご機嫌なのっちは、ロッキングチェアに跨って子供みたいに揺れていた。
何もいらないなんてムキになった所で、のっちはどこまでも子供だから。そんな子供には大抵何をあげても喜ぶから腕時計なんてありきたりなプレゼント、よくもまぁ出来たもんだ。自分のセンスの無さにガッカリだ。
羊のロッキングチェアは、ぶっちゃけるとゆかがネットで発見して一目惚れしたからのっちにあげようと思っただけであって、本気でのっちを喜ばそうだなんて思ってもなかったのに。


今年の春に買ったカメラで、ゆかは一人、ご機嫌なのっちの撮影会。写真を撮って、綺麗なヤツは残しておきたい。やっと使うのにも慣れてきたこのカメラも、今のところ空と近所の公園とのっちしか撮ってやれなくて可哀想。

「のっち、来月、ゆか連休があるんだけど」
「うんー」
「久しぶりに、江ノ島行かない?」
「行くー」

のっちは二本目のシャンパンを開けた。そのままがぶ飲みしちゃってる、超豪快。ゆかはシャッターを切る。


「あー、ゆかー」
「なに?」
「ゆかの誕生日ー何欲しいー?」
「うーん…、ヴィトンのバック」
「買えねー」
「じゃあ、ハムスター」
「え〜ハムスター触れんもん〜」
「のっち触んなくて良いよ、ゆかがずっと世話するもん」
「ぜってー買わん」
「なんでよ、」
「のっちがおるじゃろ」


酔って自我が崩壊してるからなのか、奇跡なのか、それとも意味は無いのか。
のっちが自分をペットだと自覚してるらしいので、ゆかはのっちに似合う首輪も折ってプレゼントしようかと企んだ。

「のっちおいで!」
「ゆかひゃん!」


手を拡げると胸に飛び込んでくるのっちの耳には犬耳、お尻にはふさふさの尻尾が、ゆかには見えた。
ほら、ここにこーんな立派なワンコがおる。


◇03:終◇







最終更新:2009年09月03日 20:14