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放課後の教室にあ〜ちゃんと二人きりになってしまった。なってしまったって言うと語弊があるように思えるが、決して二人きりになりたくなかったのではないけれど、二人きりになりたかった訳でもない。
そもそもなんで二人きりになってしまったんだろ。あ、そうだ。のっちが朝貰った手紙に、「放課後、屋上で待ってます」なんて青春真っ盛りなワードが書かれていて、のっちは全ての授業が終わって皆が部活やら帰路やらに向かう波を逆流して屋上に向かった訳だ。
そこで待ち受けていたのは一年生の確か……みさとちゃんだったかな?で、その子に「好きです付き合って下さい!」って言われて、なんかちょっと深キョンに似てて可愛い子だったから勿体ないな…なんて思いつつも天使のキスを思い出して「ごめん…」って頭を下げたんだ。

それから「気持ち伝えられただけで満足です、ありがとうございました」って頭を下げられて、本当に可愛かったから、のっちも何を思ったのか思い出になるかな、なんて優しく抱き締めてあげた。
この子の青春の一ページにのっちの事が刻まれるのなら出来るだけ爽やかな青春らしく彩ってあげたいし。そんなのっちにしては珍しいサービス精神が、こんな事になってしまった。


まぁ、手っ取り早く言うと、深キョン似のみさとちゃんのせいではないけれど、それが僅かながらの原因で、のっちはあ〜ちゃんと一緒に帰るって約束を忘れてしまっていたんだ。


「どこおったんよ、探したわ」

あ〜ちゃんは教卓に座って足をブルブラさせていた。携帯をぱくんぱくん折り畳んで開いてを繰り返し、俯いた横顔はなんだか寂しかった。

「電話しても出んし、ゆかちゃんも知らんって言うし」

ぱくん、ぱくん、

「どこにおったんよ」


知ってるくせに。
みさとちゃんを抱き締めながらふと見えた二階の校舎の図書室の窓際、あ〜ちゃんとバッチリ目が合ったんだ。あれは多分、いや絶対あ〜ちゃんだった。

「屋上にいたよ」
「ふーん、なんで?」
「呼び出されて…告白された?」
「そこで抱き締める必要性はあったんですか」


ぱくん、ぱくん、

あぁ、もしかしたら今のっちピンチなのかも。まさかあ〜ちゃんがあんな所から見てるなんて誰も思わんでしょ。てかこれなんなの。あ〜ちゃん嫉妬してんの。あのあ〜ちゃんが!?嘘、どうしよう、死ぬほど嬉しい。

「あれは、なんていうか、彼女の良い思い出になるかなーって」
「いつからそんなサービス精神旺盛になったん」
「まぁ…、青春なんて一度きりだしさ」
「…ほんまじゃね」
「てか、あ〜ちゃん携帯ぱくぱくし過ぎだから」


軽く笑いながら言うと、あ〜ちゃんはぱくぱくの手を止めて、ゆっくり顔を上げた。そうしてのっちの視線を捕えると、いとも簡単にぶちのめす。


「ねぇ、うちらって、付き合っとるん?」


のっちは言葉を失った。
それでもあ〜ちゃんは変わらない口調で続ける。



「付き合うって事はさ、恋人同士になるって事じゃん、恋人同士になったらデートしたりだとか手を繋いだりとかもする訳でしょ?さっきのっちに告白した子は、のっちと恋人になりたかった訳だから…あの子はのっちとキスしたりしたいって思っとるんじゃわ、きっと。でもそしたらさ、のっちはあ〜ちゃんにキスしたいとか、そういう目で見てるん?のっちは、のっちはあ〜ちゃんにしたいって思ってるん?」


それ以上言わないで。
のっちを変な物を見るみたいな目で見ないで。


「あ〜ちゃんと、エッチな事したいとか…思ってるん?」

あ〜ちゃんの声は震えてた。こんなこと普通言いたくないよな。のっちだってまさか言わせちゃうなんて思ってもみなかった。のっちの心臓は破裂するんじゃないかってくらい大きく高鳴っていて。

のっちは頷いた。


「そう、なんだ」
「だって好きなんだもん、あ〜ちゃんの事が」
「あはは」
「なんで笑うん」

あ〜ちゃんはくしゃっとしたいつもの顔で笑った。のっちの大好きな笑顔。なんで笑うの。のっちが好きだとおかしいの。
そうだよ、のっちはあ〜ちゃんとエッチな事とかしたいんだよ。だから告白したんだ。結局はそれが目的だったんだ、キスしたりエッチな事をしたりすればあ〜ちゃんを自分の物に出来るって思った。自分の物になんて出来ないって分かってる、あ〜ちゃんは物なんかじゃないって事くらい百も承知してる。つまりは錯覚だよね。そうすればあ〜ちゃんが自分の物になったかの様な錯覚に陥る事が出来るんだよ、のっちが。


「なんか、想像しちゃった」
「え」
「あ〜ちゃんとのっちが、エッチな事してるの」
「えぇっ」
「絶対のっち、カミカミな上にヘタレで何も出来なさそう」
「な、そんな事ないよ!もしかしたら超テクニシャンかもしんないじゃん」
「きんもー!何言いよるんね!」
「だから、やってみんと分からんじゃろっ」
「だったら」


あ〜ちゃんは教卓から飛び降りた。トンッて床に両足をつけて、ちょっと嫌味を言う時の、あの顔をした。だけどうっすら頬っぺたはピンク色だ。


「明日、うち来る?家族みんな、おらんけぇ」


その一言で頭の中がショッキングピンクに染め上がってしまった。心臓破裂。のっちの天使がすげぇ大胆。こんな時はどうすれば良いんだっけ。明日まで待てない、むしろ今ここで…

「あ、あ〜ちゃん愛してる!」


ガバッと抱き付いたら、あ〜ちゃんは悲鳴を上げて腕の中で暴れた。そうしたらあ〜ちゃんの頭がのっちの顎にクリティカルヒットして、のっちがひるんだ隙にあ〜ちゃんはバッグを持って逃げる様に教室を飛び出してった。

ハッと我に返ってももう遅い。
馬鹿だのっち!まるで変態みたいだったじゃん!すぐさま追いかける、しかしあ〜ちゃんの俊足に適う訳もなく二人の距離は広がる一方で。


「あ〜ちゃん待って!待ってってば!」

そうだ、のっち達は付き合ってるんだ。恋人同士なんだ。少女漫画みたいに手を繋いだりキスをしてドキドキしたりして。
どうしよう、のっちの頭ん中、あ〜ちゃんでいっぱいだよ。もっとあ〜ちゃんを知りたい。誰も知らないあ〜ちゃんを。頭のてっぺんから爪先まで、全部全部知りたいよ。そしてのっちの事も知って欲しい。そうすれば他に何もいらない。




「あ〜ちゃん!」


前方30メートルくらい向こうのあ〜ちゃんの足がぴたりと止まった。のっちは警戒しながらゆっくりと近づく。また走って行ってしまわないように、そっと、そっと。
5メートル、って所までに近づいた時に、あ〜ちゃんは振り返った。息切れしてるのっちを見て笑った。そしてまたのっちに背を向けるもんだから、のっちはすぐにその手首を掴んで、走って行ってしまわないように引き止めたんだ。

「もう逃げんわ」
「あ、そ、そっか」

なんか恥ずかしくなって手を離した。だけどあ〜ちゃんはすぐにその手を握ってきた。前だけ向いて、あ〜ちゃんに握られた右手がほんのり熱を増していく。

「恋人同士は、なんかまだ恥ずかしいけぇ」

一つ一つ慎重に言葉を選んでいくあ〜ちゃん。並んで一緒に歩き出して、のっちはあ〜ちゃんが丁寧に選んでくれた言葉達を心に刻みつけようと必死に無い頭を回転させた。
数学の公式や英語の文法なんかより、よっぽど大事な事。勉強の分のその容量を削ってでも、のっちが覚えておきたいあ〜ちゃんとの一瞬一瞬を。歌う様なその優しい声を、のっちは一生忘れない。


「だから、恋人同士とかは、もうちょっと先延ばしにして」
「先延ばしって…?」
「今はまだ、のっちとキスしたりすんのに慣れとらんけぇ」
「慣れたら付き合うって事?」
「うん、」
「それって順序が逆じゃない?」

あ〜ちゃんは「良いの」なんて言ってのっちの手を強く握った。やっぱりあ〜ちゃんには適わないや。足の速さも頭の回転の速さも、のっちをリードしてくれんの、全部あ〜ちゃんじゃん。
本当はもっと格好良くのっちがリードしたいのにな。焦っちゃって格好悪い。あ〜ちゃんをメロメロにしてやりたいのに、何をやっても格好付かないや。


「じゃあ、あ〜ちゃんには早く慣れて貰わんといけん、明日いっぱいキスする」
「そういえば明日ね、ゆかちゃんも家に遊びに来るんじゃったわ、一緒に英語の課題する約束してたの忘れとった」
「えぇっ!3Pってヤツですか!?」
「何を言いよるんね変態っ」

繋いでない方の手に持ったバッグで、のっちのお腹を攻撃するあ〜ちゃん。のっちは低い呻き声を上げる。
そんなのはもちろん冗談として、ゆかちゃんがいるんだったらキスとか出来ないじゃん…。どうにかしてゆかちゃん風邪でも引いてくんないかなぁ、真冬にアイス食べ過ぎたとかでお腹でも壊せば……




なんて悪い事を考えながらゆっくり歩いて家へと向かう。夕日が綺麗だけどやっぱまだ寒い季節は続いてる。だけど隣にあ〜ちゃんがいるってだけでのっちの体感温度は2℃程上昇。
恋人同士になんかならなくたって、なんだかあ〜ちゃんはのっちの物みたいな錯覚。恋人じゃなきゃキスしちゃいけないなんて誰が決めた!恋人でなくたって愛し合っていけるんだよ、恋人なんてただの束縛の名称に過ぎないんだから!

でもやっぱ、あ〜ちゃんが恋人っていう甘い響きは絶対的魅力なので。


「…そうと決まれば、あ〜ちゃん!」
「ん?」
「明後日、のっちの家泊まりにおいでよ!お母さん達仕事で夜おらんけぇ」
「なんかのっち、がっつき過ぎ」

握ってた手を離された。あ…。
一気に下がるのっちのテンション。それを見たあ〜ちゃんは「なんでそんな顔するんよ」って言って恥ずかしそうにまた手を繋いでくれて。そうしたらまたのっちのテンションは上がって、

「のっちのその眉毛って、どんな仕組みなんかね」
「え、眉毛?あ、ずっと剃ってないや伸びてたかも」
「反則じゃわ」


これからたくさん良い事が待ってる気がした。見える世界がきらめく。あ〜ちゃんと一緒なら、どんな世界もきらめいて見えるよ。
だから何があっても、一緒にいたいと思ったんだ。



◇㊥:終◇







最終更新:2009年10月22日 18:01