その店は、のっちが住んでる街の隣、ちょこっと路地裏に入ったとこに、ひっそりとあって、
隠れ家っぽくってよくない?、、、そう、あなたが見つけてきた、二人のお気に入りのお店だった。
こうして、この坂道を歩くのもほんと久しぶりだ。
あの頃、この手は、あなたの手と繋がっていて、、、そうでなくても、そこに向かう足取りは、いつも軽かった。
ふぅ・・・まさか、ため息をなんかつきながら、この坂道を歩くことになるなんて、ね。
2年、ぶり?・・いや、もっとか・・別れてからは、一度も訪れることはなかった。
そりゃそうだ、一人で来るには、、、ましてや、他の誰かを連れてくるには、想い出がつまりすぎている。
カラン、カラン、、、、扉を開けると同時に鳴る鐘の音は、あの頃とちっとも変わってない。
「いらっしゃい」そう言って、迎えてくれるマスターの笑顔も、鼻先をくすぐるコーヒーの香りも、全く変わってない。
「久しぶり、だね」
「はい、、久しぶりです」
「もう、先に待ってるよ?」
そう言って、奥の席を指差す。・・・あぁ、参ったな、、、いつも、時間にルーズなのっちをあなたが待ってくれていた、
それすらも、あの頃と変わってなくて、、、こぼれるのは、苦笑い。
その席は、扉で仕切られてるわけじゃないけど、構造上、他の席からは死角になっていて、、、
そう、二人だけの特等席だった。
「…お待たせ」
「ほんとだよ、呼び出しといて、待たせるなんて、全然変わってないね」
そう言って、ふわっと笑った、彼女は、あの頃より、ずっとキレイになっていたけど、
あたしを子ども扱いするような表情は相変わらずだった。
「ごめんなさい、けど、めずらしく遅刻してないでしょ?」
「うん、めずらしくねw」
そんな会話を交わしながら、向かい合って、互いの指定席だったイスに腰掛ける。
「・・・で?…どうかした、の?いきなり連絡くるから、びっくりしちゃった」
「あぁ、、、うん、、どうしてんのかぁ、て思って」
「ふーん、、、別に、普通、だよ?・・・あやの、は?」
「あぁ、、うん、、ま、特に変わりなく、、かな・・・」
時間はあの頃よりも、ずっとゆっくりに感じられた。うまくコトバを紡げないまま、、、
二人とも運ばれてきたコーヒーを、ずっと眺めている。
そっと、目を閉じる。。。まぶたの裏、きみの笑顔が見えた。鼓膜の奥、甘い甘いきみの声が響く。・・・よし。。。
「あのね、のっち今、すっげー好きな人がいて、ずっとずっと一緒にいたいって、そう思っていて・・」
「うん・・・」
「その想いは揺らがないって、そう自信もあるのに、、、最後の一歩が踏み込めなくって・・・」
「うん・・・」
「・・・ちゃんと、さよならできてなかったなぁ、、て、、、カエと、、、
「・・・うん、、、
「ほんと、今さらなんだけど、聞いてくれる?」
「うん…」
コーヒーから視線を上げ、見つめたその先には、とてもやわらかな笑顔の彼女がいて、、、
自分の中で何かが動き始めたのがわかった。
「ずごく好きだったよ、、、ずっと一緒にいたかった。・・一緒にいれるって思ってた、、、何の疑いもなく」
「うん、あたしも、好きだった、、よ?」
「うん、、、でも、、、ずっと一緒にいるために、、、のっち、なんもしなかった・・・想うことばっかで、、なにも・・・」
「・・・」
「あなたが、不安に思ってることに、最後の最後まで気がつかなかった、、、、ごめん・・・」
「んーん、、、」
「最初から、最後まで、自分のキモチ押し付けてただけだった」
「そんなこと、、ない・・・」
「そんなことなくない、、よ、、、でしょ?・・・うん、だってさ?、、始まりは、、、ムリヤリだったじゃん?」
「んー、、、ムリヤリっていうか、、、強引だったよね?たしかにw・・・毎日、毎日、、、すごかったよねぇ。。」
思わず、思い出し笑いの彼女。のっちは、思い出し苦笑い。
「女の子とか考えられないって言ってんのに、、、
彼氏よりのっちのほうが、絶対にカエのこと好きだし、大切にする!てw」
「ははっ、、ほんと、まじ、どっからそんな自信でてくるんだよ?だよね」
「うん、、、でも、、、、だから、、だよ?」
「えっ?」
「だから、、、すごくまっすぐにキモチぶつけてくれたから、、、、あやのと、、一緒にいたいって思ったんだ」
「・・・」
「幸せだった、よ?ほんとに、、、きっと、これからも、、あやの以上に、あたしのこと想ってくれる人は現れないって、、
本気でそう思ってたし、、、、今でも、そう思ってる・・・それくらい、あやのは、ちゃんとあたしのこと大切にしてくれた」
「ありがと・・・でも、結局、傷つけちゃったけど、、ね」
「・・・そっか、、な・・?傷つけたのは、あたしだと思うけど?」
「いや、、あぁ、、うん、、、お互いさま、、かな」
きっとのっちは、ハの字眉で、そしてやっぱ、彼女は変わらず包み込んでくれるような笑顔で、、、笑いあった。
「母さんにさ、、話そうと思っていて・・・彼女の、こと、、、てか、自分のこと、、か…」
「・・・へぇ、、そ、、っか・・・」
「うん、、、もう、同じこと繰り返したくない、し、、、大切な人、不安にさせたくないから」
「そっか・・・
大好きだった彼女は、“そっか”って繰り返して、その瞳を伏せた。
「うん、、、ねぇ、、、、あの時、さ、、、のっちが、カエのこと、、、
ちゃんと母さんとかに話せてたら、、なにか違ってたかな?・・・今もまだ、、一緒にいれた、かな?」
「…どうだろ?・・それは、、わかんないや・・・・けど、、、
「けど?」
「あやのに、そう思わせたのは、あたしじゃなくって、今の彼女だってこと、、、これだけは、確かだね」
あぁ、、、そっか、、、そういうこと、か。
「そ、だね・・・」
「それに、、」
「ん?」
「その時のあたしが、それをほんとに望んでたかどうか、、、正直、今でもわかんない、、
ごめん、ね?あやののこと、試すようなこと言って」
「あぁ、、うぅん、、そんなこと、、いいよ。それに、言わせたのは、のっちだから、さ、、、ね?」
「・・・やさしすぎるのも、考えものだよ?」
「ん?なに?」
小さすぎる囁きは、うまく聞き取れなかった。視線を上げた彼女は、ニコっと笑い
「あやの?あたしね、来年、、、ママになるよ」
「え、、まじで!」
「うん、まじでw」
「そっか、そうなんだ!おめでとっ!」
「ありがと、って、、、!?、なに泣いてんの?」
え、、、頬を拭うと、あったかい水滴に触れた、、、ほんと、だ、、、泣いてんじゃん、あたし。
ゆっくりすぎる気がしていた時間の流れが、自分の鼓動とリンクしていく。。。あ、抜けた、、、長い長いトンネル。
「あぁ、、うん、なんか幸せなんだなぁって、、幸せでよかったなぁって、素直にそう思ったから、、かな」
「うん、幸せだよ。ずっとずっと、幸せだったよ?この幸せをくれたのは、間違いなく、あなただから・・
ねぇ、、あやのは?今、幸せ?」
「んー、、幸せに、、、なるっ!これから、幸せになるとこっ!」
「そっかそっかw・・・ね、今の彼女は、どんな人?」
「えっ、、あぁ、、、、手がかかるというか、、翻弄されっぱなし。とにかく、かわいすぎて、困る」
「へぇ、、、ベタ惚れだね、、、、なんて。だいたい、相手が誰かってのは、わかってんだけどw」
「まじでっ!?うわっ、恥ずかしっ!」
「苦労するだろうけど、、いろんな意味で、、、でも、がんばれ」
そう言うと、のっちの髪をくしゃくしゃと撫でた。励まし方も、あの頃と変わってないや・・・
「ありがとう、、ほんとに、ありがとう」
ぎゅっと、握手を交わして、店を出た。
見上げた夕空に、
一番星が見えた。ココロは、驚くほど軽くって、今なら、あの星を掴めるんじゃないか、
そんな気がして、単純な自分に思わず笑ってしまった。
動き始めると、世界って、おもしろいくらい、単純だ、、、、
ん?単純なのは、のっちか・・・
ねぇ、ゆかちゃん?
やっぱ、きみが愛しくて仕方ない、や。
最終更新:2009年10月22日 18:36