××は、お酒の匂いがした、
かしゆかの身体は重たかった。かしゆか自体はそんなに重くはない、でも重く感じるのはかしゆかが全く歩く気がないからだ。だらりと垂れた身体にのっちはため息を吐いた。
「……ねえ、ゆかちゃん帰るよ。」
「やだぁー、ゆか、帰りたくない。」
先ほどからかしゆかはこの調子で、数歩歩いたかと思えば地面にしゃがみ込み、駄々をこねる。のっちが無理やり片腕を引っ張りどうにかして身体を持ち上げようとするも動く気がないので、動かない。
あのあと、かしゆかは何杯もお酒を飲んだ。のっちがいくら止めても無駄だった。その結果がこれである。
しゃがみこんだまま、動こうとしないかしゆかをのっちは見下ろした。
(…ゆかちゃん、何か嫌なことでもあった?)
地面に俯いたままかしゆかが顔を上げることはない。のっちは、またかしゆかの腕を取った。
「ゆかちゃん、今晩はうちにおいでよ。」
「…のっちんち?」
「うん。このままゆかちゃん自分家まで帰れそうにないし、もう遅いし…。」
「のっちんち、行きたい。行く。」
急に立ち上がったかしゆかの足取りは一気に早まった。かしゆかの急変に驚いたのっちは慌ててかしゆかの元へと駆け寄る。こんなふらふらしたゆかちゃん、ほっとけない。腕をしっかりと捕まえると、かしゆかはのっちの顔をじっと見つめた。とろんとした瞳は少し、潤っていた。
鍵をバッグの中から片手でごそごそと探し当てる。見つけた鍵で慌てて玄関を開けると、中から昨夜のアロマの匂いがした。のっちの家に泊まることになったかしゆかは、終始楽しそうで駄々をこねることもしゃがみこむこともなく、きちんとのっちの家まで歩いてきてくれたからまだよかった。
家の主であるのっちよりも先に、かしゆかは乱暴にパンプスを脱ぎ捨てて部屋の中へと入っていく。のっちも続いて部屋の中へ追うように入る。あ、ゆかちゃん、靴、気付いて明日かしゆかが履きやすいように揃えてから。
「のっちんち、久しぶりだぁー。」
電気も点けずに部屋に上がりこんだかしゆかは、そのままベッドにダイブした。電気を点けたのっちがその姿を確認すると、無防備に短いスカートが太股の付け根まで捲れていた。
のっちは、人の世話を焼くのはそれほど好きではない。けれど、本当に危なっかしい。心配だ。そう思うのはきっとこれまでもこれからも、あ〜ちゃんとかしゆかしかいないと思う。のっちにとってこの2人以上に輝かしい存在など、なかった。
「ゆかちゃん、スカート捲れてるから。」
「のっちのえっちー。」
「いや、ちが…お風呂は? もう朝入る?」
酔っ払いの言うことなど当てにならない、そう判断したのっちが話を切り替える。のっちも、かしゆかも明日は午前から学校だ。ベッドに仰向けに寝転がるかしゆかの横に片膝をついて覗き込むように、肩を叩いて起こす。このまま寝かせるわけにはいかない。
「んー…」
「ちょ、ゆかちゃん、せめて着替えよ。」
「のっち、」
片膝は、不安定だった。のっちがかしゆかの肩を叩いていた手を、寝ぼけたかしゆかに引かれた。体制を崩したのっちはそのままかしゆかの身体の上に雪崩れ込む。
雪崩れ込んだら、唇が、唇に触れていた。
最終更新:2009年10月22日 19:00