××は、苦くて切ない感触だけ残した、
「あー…頭痛い…」
昼休み、ご飯を食べる気力もないので食堂へは行かずに、大学内にあるショップでミネラルウォーターだけ買ったかしゆかの身体は、昨日とは打って変わって重かった。気だるい身体を無理やり起こして建物から抜け出た。日差しが眩しい。9月にしては少し肌寒いが、これくらいがちょうどいい。大きな大木の下にあるアンティークなベンチにかしゆかは腰掛けると、葉と葉の間から日差しが通り抜けて、かしゆかの白い肌を鮮やかに見せた。
昨日のことは、自分でも驚くほど覚えていない。覚えているのは、のっちがあ〜ちゃん離れ出来たら、ゆかの気持ちを言ってもいいよ、と言ったこと。起きたらのっちの家にいた。
「ああー…せっかくのっちとお泊りだったのにな、ゆか、バカじゃね…。」
かしゆかは、全く記憶がない自分に呆れた。起きるといつも料理などしないのっちが食パン焼いてくれていて、たまご焼きまで用意してくれていた。服も、いつの間にか着替えさせてくれていた。のっちは、本当にかしゆかに対してやさしい。
(でも、夢、見たよ。…のっちとちゅーする夢。)
かしゆかはそっと自分の唇に触れる。夢の出来事なのに、リアルなカンショクが唇に残っている。
(ゆか、そんなに、のっち不足なん?)
何だか虚しくなってかしゆかは触れていた人差し指と親指で、ぎゅっと自分の唇を摘んだ。のっちとの、キスの感触を消すために。これ以上、のっちを好きにならないように。
(あ、のっち。)
かしゆかの視界に3人組みの女の子が目に入る。その中のひとりにのっちがいた。楽しそうに笑うのっちの姿から目が話せない。大体、のっちが大学内で誰かと共に行動をしていること自体、珍しかった。かしゆかは、少し焼いた。
「のっち!」
「あ…、ゆかちゃん…。」
かしゆかは、衝動的に名前を呼んだ。なに、その間。気に食わん。
のっちはその他2人に申し訳なさそうに別れを告げると小走りでかしゆかの元へ駆けてくる。なに、その申し訳なさそうな顔、気に食わん。
「ゆかちゃん、なに?」
「のっち昨日は、ありがとう。」
「それ、朝も聞いたんやけど…。」
眉を垂らしてのっちはかしゆかを見る。その顔が、目が、いつもと違った。もっといつもはかしゆかのことやさしく見る、のっちは、仕方ないな、可愛いな、ってかおをしてくれるのに、それが今日は、な、い。
「う、うん…。」
「もしかして、そんだけ?」
「そうじゃけど…いかんの。」
「のっち、次も授業急ぐけえ、またね。」
そう言うとのっちは早々とターンして先ほどの2人組を追うように駆け出す。
のっちが行ってしまう。
「のっち、ゆか、今日ものっちんち、泊まる!」
かしゆかの声に反応したのっちの動きが止まる。かしゆかは、今、ここでのっちとバイバイしたら、のっちがもう二度とかしゆかの前から消えてしまうような、そんな孤独感に襲われた。しかしのっちは振り向かない。
「……今日、のっちせんといかんレポートあるから、無理。」
「ゆか、邪魔せんよ?」
「ごめん、今日は無理だわ。」
そしてのっちは駆け出した。2人組みは笑って遅れてきたのっちを迎え入れて、また楽しそうな背中がかしゆかの目に映った。
「なんで…なんでなんよぉ…っ。」
かしゆかは地面にしゃがみこんでしまった。もう、のっちの姿は見えない。
冷たい、冷たい冷たい冷たい。のっちは一度もかしゆかをやさしい目で見てくれなかった。
無常にも、空は雲ひとつない青空だった。
最終更新:2009年10月22日 19:11