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いくら考えても、わからないよ。僕の気持ち。





テーブルいっぱいに広げたレポート用紙、無駄に分厚い教科書、バラけた筆記具とガム。テーブルに肘を突いて頬を歪ませているのは、のっち。たった今、あ〜ちゃんとの電話を終えたものの、何も答えは見つからなかった。レポートが全くと言っていいほど進まなくなってしまって、悶々と考え込んだ結果、携帯電話に手を伸ばした。自分から連絡をすることの少ないのっちの履歴に、家族とマネージャー以外で残っている2人のうちの1人。


「あー…なんか、わけわからん。」


あ〜ちゃんが好き。大好き。
ここ数年、1日1日積み重なっていた小さな好きが、心の中にあるメーターの数値を超えた。その途端、のっちはあ〜ちゃんが好きだと自覚した。自覚してしまえば早いもので、何をするのにもあ〜ちゃんが浮かんだ。それは買い物をしていても、あ、これ、あ〜ちゃんに似合いそうだな、と自然に考えてしまうほどに。あ〜ちゃんがいてくれるだけで、のっちはしあわせだった。のっちはあ〜ちゃんの太陽だ。あ〜ちゃんに照らされてのっちは輝けるのだと本気で思っていた。
頬杖するのを止めて、のっちはぱたんと後ろに倒れた。見上げた天井は代わり映えもない。そして、無意識に指先が唇に触れる。


(……ゆかちゃんのくちびる、やわらかかった。)


かしゆかと、キスをした。
掴まれた腕は意外と力強くて、すぐには離れなくて、身動きがとるにもとれない状態ののっちとかしゆかの唇は暫く触れていた。驚きのあまり意識が飛びそうになっていたのっちが、はっと我に返り無理やりかしゆかの手を離すと心なしかかしゆかの表情が何だか泣きそうになった気がした。
かしゆかは、のっちといるとき、すごく楽しそうだが、時折すごく悲しい表情をした。そのかしゆかの表情がのっちの頭から離れない。あ〜ちゃんと電話したあとなのに、浮かぶのはかしゆかの、泣きそうな、顔。
そのあと、すぐにかしゆかから寝息が聞こえてきた。のっちはほっと胸を撫で下ろすと、ひとりシャワーを浴びてから一応かしゆかの服が皺にならないようにと、適当な部屋着に着替えさせた。寝る場所もなかったので、かしゆかが夜中にまだお酒が抜け切れぬまま寝ぼけてベッドから落ちてもいけないから、と隣に潜り込んだ。
その日は何だか寝付けなかった。ベッドの中心に向かって寝ていたらかしゆかが寝返りを打った。時折、小さく可愛らしい寝息が聞こえてのっちはくすりと笑う。シングルのベッドはやはり狭く感じてかしゆかとの距離も近い。睫毛が可愛い。こんなに至近距離でかしゆかの寝顔を見たことがなかったのっちは、見とれた。ほのかに香るかしゆかの香りが心地いい。いいにおいだなあ、落ち着くなあ、そんなことを考えていたらいつの間にか眠りについていた。



翌朝は、のっちの方が先に目が覚めた。食パンを2枚とスクランブルエッグを2人分作って、コーヒーも淹れた。料理が出来上がる頃に物音に目覚めたかしゆかが目を擦りながら起きてきて、一緒に朝食をとった。ご飯を食べている間、かしゆかは終始「ごめんね、本当にごめんね。」と何度も謝ってきてその度にのっちは「いいよ。」って答えた。のっちは、ゆかちゃんとあ〜ちゃんの為なら何でもするんよ。


(キスした、とは言えんかった。ゆかちゃんに気持ち悪いとか思われたらのっち死ぬかも。でも、してきたんはゆかちゃんじゃん? ゆかちゃんが酔っ払ってのっちにキスしてきた…あれは事故?ただ手を引っ張っただけなん? それとも酔っ払っとっても、のっちとキス……。)


ふと、思考が止まった。


「…じゃあ、何でのっち、今日、ゆかちゃんのこと避けたん…?」


今朝、かしゆかに朝ごはん用意したのは、だれ。ごめんね、って言われて、いいよって答えたのは、だれ。
大学でかしゆかに呼び止められた。また、謝られた。友達は、特に仲いい子でもなかった。たまたま授業がかぶっただけ。話してみたら意外とふつうに話せて、偶然次の授業も一緒だったから一緒に行こうってなっただけ。怒る理由なんてどこにもない。


何で、何で、何で。
どんなに考えても、わかんない。


一緒に歩いていた大学の友達の1人に言われた。
「あの子が、“かしゆか”ちゃん?」
「あ、うん。」
「やっぱり可愛いねー。あたしね、かしゆかちゃんめちゃくちゃ好きなの!ファン!」
あまりにも目を輝かさせて言うものだから、のっちは少したじたじした。仲のいい、かしゆかのことを可愛いと言われて本当は喜ぶべきところなんだろうが、そのときのっちは素直に喜ぶことが出来なかった。きっと、まわりをもっと見渡したらかしゆかのことを可愛いなあ、って思っている男の子も女の子もたくさんいる。可愛いよ、可愛い。可愛いのは、のっち自身もよくわかっている。


けれど、それはのっちが知っていればいい。
馬鹿げた独占欲。アイドルを、アイドルが欲しい、だなんて馬鹿げている。


(ゆかちゃんのバカ、何で、のっちの前でばっか泣くんよ…。)


考えることさえ億劫になって寝返りを打った。そこに見つけたのは、かしゆかの、ポーチだった。






最終更新:2009年10月22日 19:34