…偽ることなど出来ない。必要、ない。
あ〜ちゃんは、のっちの太陽だ。
だって、あ〜ちゃんはのっちを救い出してくれたから。一緒にユニット組もうって言ってくれたから。あ〜ちゃんがいれば、のっちは頑張れる。あ〜ちゃんがいるから、頑張ってきた。
憧れは、恋になった。
あ〜ちゃんのことを想うだけで、胸がはじける。目があ〜ちゃんを探している。耳があ〜ちゃんの声を聞いている。鼻があ〜ちゃんの匂いを求めている。口があ〜ちゃんと喋りたいと言っている。のっちの全てはあ〜ちゃんだった。あ〜ちゃん、ありきの、のっちだった。
あ〜ちゃんが太陽なら、かしゆかは、月だと思う。のっちは、星。太陽も月もどれも魅力的でのっちは素敵だと思えた。だけど、かしゆかとのっちはどこか似ている。暗闇の中で、何も見えない闇空を彷徨っている。
似てるもの同士って惹かれあうのね、って誰かが言った。
のっちを引きとめるかしゆかの声も、体も震えていた。閉められた扉、無理に逃げようとは思わないのっちの腹部でしっかりと組まれた細い指を愛おしく撫でた。背中に広がる暖かな体温、心地よかった。
「ゆかちゃん、」
「……ん。」
「こないだ、何で泣いてたん?」
今なら聞ける気がした。目を伏せて、眉を垂らしてのっちは尋ねた。するとかしゆかの指先がきゅっとよりいっそう強く結ばれた。
「…ゆかちゃん。」
「……のっちが、」
清らしくて綺麗な声が震えている。その声を聞いてのっちは胸を痛めた。かしゆかは、涙をぐっと堪えてのっちの背中におでこをぐりぐりと押し付けながら、嘆くように吐き出した。
「ゆかだけのものに、ならんから…っ!」
うわぁ、ああ、
かしゆかの子どものような泣き声が背後から聞こえた。薄っぺらいのっちのTシャツは、かしゆかの涙で濡れた。どうすることも出来なくて、のっちはただ、かしゆかの手に自分の手を重ねる。
あ〜ちゃんは、何でもひとりで抱え込んでしまう。
のっちはいつもそれを遠くから見ることしか出来なかった。あ〜ちゃんがぼうっと何か考え込んでいるとき、声をかけることさえ出来なくて歯痒い思いをたくさんした。
その度に何も出来ない自分に嫌気がさした。そして、あ〜ちゃんがのっちを頼らないことで、のっちにはあ〜ちゃんの為に出来ることは何もないのではないかと思っていた。この恋が、迷惑だとも思うようになった。
かしゆかは、こんなにものっちを必要としてくれている。
揺れた、
「…のっちの、気持ち、気付いてた?」
「…うん、」
「そっかあー。」
のっちは何もかも諦めるように見上げた。何も代わり映えのない白い天井。のっちの家と似た天井。何もない天井を見ていると込み上げてくるものが、ゆっくりと薄れていく気がした。
「ゆかちゃん。」
「なん…」
「ゆかちゃんから、離れんから。」
かしゆかは背中にぶつけたおでこを離した。そして自分より少し背の高いのっちの後頭部を見た。後ろから見えない表情を必死に読み取ろうと。
「のっちは、ゆかちゃんの傍におるよ。」
のっちがきつく結ばれたかしゆかの指を優しく解くと、くるりと振り返ると真っ直ぐかしゆかを見た。そっと目尻に溜まった雫を拭き取る。
「そんなん、」
「のっちが決めたんよ。」
「…なんで、」
「ゆかちゃんの傍におりたいからよ。」
すると、みるみるうちにかしゆかの目には涙が溜まっていてそれをのっちは止めるようにかしゆかを抱きしめた。驚いて円らな目を開くとぽつりと雫はのっちの肩に染み込んだ。
「だめじゃけえ、のっちはあ〜ちゃんと幸せになるんよっ。」
「…ゆかちゃんと幸せになったらいかんの?」
「いいんよ、ゆかは、ゆかは…。」
思ってもないことを言うかしゆかの目からは涙が溢れた。その姿を見ているだけでのっちは胸を締め付けられる。
かしゆかをこんなにも苦しめているのは、のっちだ。
「ゆかちゃん。ねえ、ゆかちゃん。」
「のっちぃ…。」
「ゆかちゃんが大事なんよ。」
それは、偽りのない本当の気持ちだった。
最終更新:2009年10月22日 20:13