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しっと、シット、嫉妬?




教科書の詰まった重い鞄。大好きなひらひらの膝丈のワンピース。時間が無いあ〜ちゃんにはうっとおしく感じた。いつもより授業が長引いてしまい、雑誌の取材に間に合うか間に合わないかの瀬戸際、息をはあはあさせながらも走り続けた。


(何で今日に限って渋滞しとんよ…!)


タクシーの運転手に「急いでるなら走った方が…。」と遠慮がちに言われ、渋々タクシーを降りた。確かにこの混み具合では、走ったほうが早そうだが今日の格好が邪魔をする。


ギリギリでスタジオがあるビルに着いて、「あ、すいません!」と閉まりかけのエレベーターの中の人に声をかけると、その艶やかな長い髪の女の人はにこりと笑いかけてくれた。荒い息を整えながらも、笑顔を作るとあ〜ちゃんもぺこりと頭を下げた。


(…それにしてもきれーなひとじゃ。)


あ〜ちゃんはそのままエレベーターの奥へと進んだので、ボタン付近に立っていた、その髪の長い美女を後ろから見つめるような形になった。どこか、美女の雰囲気がよく知る人に似ていた。


「……。」


あ〜ちゃんは、何だかその美女を見る気がなくなって美女がエレベーターから降りるまで視線を上げなかった。


「あれ、あ〜ちゃんじゃん!」


下げていた視線を上げると、美女と入れ違いにエレベーターに乗り込んで来たのはのっちだった。落ちてしまっていたあ〜ちゃんのテンションは少し上昇する。


「どしたんのっち、こんな階に。」
「んー、前にお世話になったスタッフさんが今日4階のスタジオにおるから、挨拶してきた。」
「そうなんじゃ。もうかっしーも来とる?」


他愛もない会話をした。のっちと話している間は何もかも忘れることが出来た。
エレベーターが8階にあるスタジオに着くと、2人で控え室に向かって歩いた。


「ねえ、のっち。」
「ん?」
「今日、取材終わったあと、空いとる?」


あ〜ちゃんはのっちが心配だった。昨夜の電話のあと、のっちの真意を知りたくて考えたけれど、いくら考えても何がのっちを辛くさせるのかが、あ〜ちゃんにはさっぱりだった。このときばかりは、いつも愛情表現の裏返しと言えど冷たくのっちをあしらい続けたあ〜ちゃんものっちのことが心配で。するとのっちは視線を泳がせたあと、答えた。


「あー…今日は、ちょっと。」
「何かあるん?」
「え? ああ、うん。ちょっと、ゆかちゃんと約束してて…。」
「かしゆか? あ〜ちゃんも一緒に行っていい?」


のっちは黙った。まるであ〜ちゃんがお邪魔虫のような態度。あ〜ちゃんは意味がわからない。


「…あ〜ちゃんの悪口でも言うんじゃね。」


ぶっきら棒に、明らかに拗ねてます、と口調で表す。


「違うよ、今日はね、ちょっと、2人で行こうね、って言ってたし、」
「もういいよ、のっちなんか知らん。勝手にしんさいや。」


あ〜ちゃんが冷たく言い放つとのっちは金縛りにでもあったかのように、その場から動かなくなってしまった。あ〜ちゃんは、怒りに身を任せるかのようにスタスタスタスタと早足で進んだ。
口調はきつかったかもしれない。けれどあ〜ちゃんを仲間はずれにして、のっちとかしゆかが仲良くするのがあ〜ちゃんは気に入らなかった。けれどそれは、あ〜ちゃん自身が選んだ道のはずだった。


(……離れたくて、付き合いだした、意味がない、)


だから、あ〜ちゃんは泣かなかった。泣けなかった。







最終更新:2009年10月22日 20:14