今日最後の仕事、ラジオ収録が終わった。
私はいつも通りさっさと荷物をまとめ
『お疲れ〜、また明日ねぇ。』
そう2人に言うとためらいなく楽屋のドアに手をかけようと体を反転させ始めた。瞬間、ゆかちゃんと目があった。と思ったらパッとそらされた。
(えっ!?今そらされた……?)
確かめる事も出来ず勢いが付いた体は完全に背中をむける形になった。
(今さらまた向き直す理由が見付からないよぉ…、背中に目があれば……)
なんてバカな事を考えながら私は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。
私は眉間にシワを寄せながらさっきの事を思い出してみる。
(なんでゆかちゃんは目をそらしたんだろ…、私なんかしたっけぇ…)
あれこれ考えても何も浮かんで来ない…。
(なんも心当たりがない…。ヤバイ、なんでだぁーーっ。くっそー明日謝って理由を聞いてみるしかないかぁ……。)
心当たりなんかないのに謝る辺り、我ながらヘタレだな……、なんてへこみながら家のドアを開けた。
(ふぅ…、今日も疲れたぁ。でも収録ではちょっと嬉しい事もあったし…)
多分顔はニヤけてて、その場にあ〜ちゃんが居れば
『のっち、キモい』とバッサリ切られていただろう。
(だってゆかちゃんと両想いよっ!?こんなHAPPYな事はないじゃろっ!そりゃまぁ、私もゆかちゃんも男じゃないけどさぁ〜)
こんな妄想めいた事にもニヤニヤして鼻の下が伸びてしまう。
つくづくあ〜ちゃんがいなくて良かった……。
♪〜甘い愛には罠があるのよ wonder girl good morning……〜♪
私の携帯から聴こえてきたその曲はcapsuleのSugarless GiRL。
ゆかちゃんの好きな曲でゆかちゃんからの着うたにしている。
(この曲やっぱゆかちゃんに似合っとるよねぇ。キラキラしててでもちょっと毒もある感じがまた……)なんて一人悦に入ってデレデレしていたらサビが終わりそうになっていた。
(ってゆかちゃんから電話じゃん、はよう出な!どんだけアホの子なん私…っ)
『あっは、はいっモシモシィ』(ヤバイ、声が裏返ったっ)
Y『……何慌てとるんよ。』
柔らかい笑いを含んだ甘い声が私の耳をくすぐる。
N『いや、なんでもないなんでもないっ。と、ところでどうしたん?』
Y『用がなきゃ電話しちゃいけんの?』
甘えるような声に私の鼓動は高まっていく。
N『いっ、いい、いけん事はないと思いますよっ。』
電話の向こうから聞こえてきた爆笑の声。
N『あ、あれ?なんで敬語?』
Y『こっちが聞きたいわっ。』
ゆかちゃんはケラケラ笑ってて会話にならない…。
N『わ、笑いすぎっ』
多分私は顔を真っ赤にしてたと思う。
Y『アハハ、ごめん、ごめん。いやーさすがのっち、勝てんわぁ』
N『自分でもびっくりしちゃったよぉ。』
こんな他愛ないやり取りでもゆかちゃんとだから心地良い。
(さっき目をそらされた理由、今ならさらっと聞けそう…)
N『ねぇかっしー?』
Y『ん?』
まだ少し笑いの残る声色に背中を押された私は、
N『さっき目そらしたのはなんで?』
勢いよく直球を投げてしまった。
ピタッと止まる笑いと時間。多分、2〜3秒もない沈黙が私にはとてつもなく長く感じた。
(しまったーっ、ストレートすぎた……。)
Y『さっき??いつ?目なんか合ったっけ?』
(えぇーっ!そんなぁ、のっちの勘違い…?目が合ったと思って喜んで、そらされたと思って沈んで、一人エレベーター?!)
N『あー…、勘違いならいいんだけどね、はは…っ。』
Y『……あのさぁ、ちょっと話変わるけど今からのっちん家行っていい?』
N『え、あーいいよぉ。(勘違いかぁ、勘違い…、ん?)……えっ今から来るの!!?』
Y『うん、今から。てゆうかもうちょっとで着くんだよねぇ。あ、のっちん家見えて来た。』
N『ちょっとなんでっ、急すぎっ、えぇっ。』
もうパニック通り越して笑いが出てきたよ。
Y『迷惑なら帰るよ?』
N『い、いやいやいやいやっ。迷惑じゃない迷惑じゃないっ。』
Y『……のっち大丈夫?いつも以上に壊れとるよ?』
(壊れもするさっ。一人アップダウンに突然のお宅訪問。もう何が何やら目まぐるしすぎ……。って、いつも以上?!)
Y『あ、着いた。ピンポーン。』
ピンポーン。
家のチャイムとゆかちゃんの声がシンクロした。
(はやっ、もう着いたん?どんだけ急展開なん。)
私はこの展開にぶつぶつ言いながらドタバタ走り、鍵をあけた。
Y『こんばんわ〜』
N『あ、ども。』
またゆかちゃんが笑い出す。
Y『どもってっ。』
(もう、なんかダメダメなとこしか今日は見せられないんだろうなぁ…。はぁ。)
激しくテンションダウンな私をあまりに気の毒に思ったのか、
Y『お邪魔しま〜す。お土産もちゃんと買って来たんよ、のっちの好きなじゃがりこ。これあげるけぇ、元気出しんさいや。』
と、ツアーグッズのエコバックを広げて見せてくれた。
そこにはアイスも入っていた。
N『あ、ピノのマンゴー味だ。あ、こっちの棒アイス気になってたんだよねぇ。』
Y『え、そっち?……まぁいいや、アイス溶けるし早く食べようよ。』
ゆかちゃんは私の手を取るとリビングへと歩き出した。
まるで我が家のような迷いのない足取り。
それが何故か私には誇らしかった。(なんかホントに結婚してるみたい…)
Y『のっち、キモいよ』
(あ〜ちゃんじゃなくゆかちゃんに言われたっ!)
Y『心の声を顔に出すんはやめんさい。好きな人の前でやったら確実に引かれるよ?』
(もう、やっちゃったよ…)
N『気をつけます……』
もう、私は完全な抜け殻だった。
何を話したか全然覚えてないまま1時間が過ぎようとしていた。
Y『でね、…ってやっぱ話聞いとらんじゃん。もういい、ゆか帰るわ。』
何度目の注意だろう、抜け殻の私はその回数すら覚えていなかった。
N『えっ、あ、ごめんっ!帰らんでよ。』
立ち上がろうとするゆかちゃんの腕を咄嗟に掴んでいた。
(あれ?顔赤くなった?また気のせい?)
N『ちゃんと話聞くけぇ、帰らんでよ。』
Y『…そんなん言ったってなんも聞いとらんじゃん。』
N『ごめん、もう大丈夫。ちゃんと話聞く、ちゃんとゆかちゃんを見るから。』
真剣な眼差しでゆかちゃんを見つめる。
私の視線から逃げるようにゆかちゃんは横を向いた。さっきと同じだ。また目を逸らされた。
ただ違うのはアップにした髪から覗く耳が赤く染まってる事。
(あれ?なんか…。え、もしかしてゆかちゃんも……?)
確証はない。自信もない。
ただはっきりしている事は、耳まで赤く染めて私の射抜くような視線に堪えている事だけだった。
だけど私を覚醒させるにはその可愛い横顔で十分で。
この世界のスイッチ、押したのはゆかちゃん…。
(よし今なら…。)
N『ゆかちゃん…』
引き寄せようとしたその瞬間。
Y『……のっち、キャラ違いすぎ。』
N『え??』
Y『ライブのっちとラジオトークのカミカミのっちくらい違いすぎ。かっこいいのは似合わんよ。』
スイッチオフもやっぱりゆかちゃん…。
N『えぇー、そんなぁ…。』
私の情けない声はゆかちゃんを冷静にするには十分だったみたいで。
こちらを向いたゆかちゃんはいつもの感じに戻っていた…。いやむしろ小悪魔モード?!
最終更新:2008年10月11日 15:33