何処かに置いてきたのよ、愛するということ。
声が枯れるくらい泣いたのに、思いのほか気持ちは落ち着いている。もっとぼろぼろになって、崩れて、あ〜ちゃん自身も枯れてしまうのではないか、そんな恐怖に襲われた。
もう、空は明るかった。太陽は昇り、部屋にはただ独り。肌寒い寂しげな秋の空を避けるかのように締め切られたピンク色のカーテンから差し込む一点の光。眩しすぎて目が覚めた。
彼はあ〜ちゃんが泣き止んで寝付くまでずっと手を握っていた。泣き虫のくせに強がりのあ〜ちゃんが必死に情けない顔を見せまいとベッドにうつ伏せで泣いているのを、彼は背を向けてけして見ようとはしなかった。
どうして彼はこんなにもあ〜ちゃんを大事にしてくれるのだろう、あ〜ちゃんはいつも思う。こんなにもやさしい彼を裏切ったのに、こんな最低なあ〜ちゃんをいつまでも想ってくれるのだろう。
声を振り絞ってやっと口から出たのは、
「…わ、か、れて。」
だった。彼はそのときだけはあ〜ちゃんの顔をしっかり見て首を横に振った。
どうして、それは喚きとなってあ〜ちゃんの喉から溢れた。
「…今もゆかちゃんのこと好きなの?」
「ちが、う…。」
「なら、いい。もういいから。ごめんな。」
いつも頼りがいのある彼の見たことのない情けない、弱弱しい表情。彼は背を向けた。何だか拒絶されてはいないのに、その背中があまりにも寂しそうであ〜ちゃんは拒絶されている気分になった。頭の中が彼の背中を見ているだけでぐるぐるしてあちこち棘が刺さったかのように痛む。ズキズキ痛んだ。痛みを耐え、目をぎゅっと閉じているといつの間にか眠っていた。
目が覚めると彼の姿はなかった。夢ではないと感じさせたのは、あ〜ちゃんの脱ぎ捨てられた衣服とゴミ箱に捨てられたコンドームの袋。それは彼がいた証拠。それと、テーブルに置きっぱなしにされた手紙。
気だるい身体を起こすとまた泣けてきた。1年前の出来事が、こんな風に彼に伝わってしまうなんてあ〜ちゃんは思いもしなかった。
かしゆかのことは、1年前に終わった。終わらせた。
見ているだけでつらかったから、押し込めた、こころのおくに。
(けど、1年前、あ〜ちゃんもかしゆかと歩く未来を想像したんよ、ねえ。)
ぽたりぽたりと、ベッドに落ちた雫。可笑しくなって情けなくて笑った。誰一人、真剣に愛せない。愛されれば応えられなくて、愛せばつらくて逃げてしまう。
(……あ〜ちゃんは、だれと未来を歩くのかな。)
未来は、のっちとかしゆかがいてくれれば充分だと思っていた。少なくともかしゆかを好きになるまでは、2人とずっとずっと一緒にいれるだけでいいと思っていた。自分で壊したものはあまりにも大きすぎて、現実逃避をした。気がついたらあ〜ちゃんの隣には、かしゆかものっちもいなかった。だから、のっちだけはずっとあ〜ちゃんの傍においておきたかった。のっちはやさしいから、のっちのこと、あ〜ちゃん好きだから、ずっとずっと傍にいてほしいな、あ〜ちゃんは勝手に思っていた。だから2人が仲良さそうにしているのに、嫉妬、した。
「…きもち、わる…。」
どうせ誰も愛せないなら、最初から捨ててしまえばよかった、そんな自分に、吐き気がした。
最終更新:2009年10月22日 21:13