見たくなかった、
あ〜ちゃんが、かしゆかの携帯電話についた可愛いストラップに気がついたのはあれから2週間後のことだった。
彼とは、あれから何の変わりもなくデートをしたりキスをしたり。彼は相変わらずあ〜ちゃんに優しく接する。けれどあ〜ちゃん自身は彼に少し距離を置くようになった。見た感じは、変わりない。特に何をするわけでもないし、会える日は会う。けれど心が、あ〜ちゃんの心が甘えられない。
のっちが、インタビューを受けている最中の待ち時間。目にとまったそれに、あ〜ちゃんの乙女心が擽られる。
「かしゆか! そのストラップ可愛いやん!」
あ〜ちゃんのいきなりの食いつきにかしゆかは、すごく驚いていた。ばっとその携帯電話を手に取ると、まじまじと眺めた。女の子らしくて本当に可愛い。
「どこで買ったん?」
「渋谷の、雑貨屋さん。」
「可愛い、いいなあー、あ〜ちゃんも欲しい。」
あ〜ちゃんは、うっとりとそのストラップを見つめた。かしゆかのイニシャルであるYの字の中に散らばる可愛らしい花柄は、あ〜ちゃんを虜にさせた。
あ〜ちゃんがストラップにすっかり気にとられているとのっちが楽屋に戻ってきた。それと共に今度はかしゆかの名が呼ばれて、かしゆかはあ〜ちゃんが持っていた自分の携帯電話を返してもらうとそっとバッグにしまった。
のっちは、戻ってくるやいなや座り込んで眠たそうに大きな欠伸を一つした。あ〜ちゃんは、そんなのっちを気にして「少し寝たら。」と冷たく、言った。するとのっちは、「ああ、うん。」と眉を垂らして返事をする。まるであ〜ちゃんが怖いみたいな態度。無理はない、こないだのっちがあ〜ちゃんの誘いより、かしゆかとの約束を優先してから2人の関係はずっとこんな感じだった。あ〜ちゃん自身、冷たく言うつもりなんて更々無い。前々からしていた約束を優先するなんて当たり前。それでも気に障ったのは、きっとこの意地っ張りのせい。ごくりと口の中に溜まった唾液を飲み込むと、決心してあ〜ちゃんはだらしなく椅子に腰掛けるのっちの元へ近寄る。
「…のっち。」
「…なに?」
恐る恐る視線をあげるのっちに、ごめんね、喉まで出かかっていた。
「…なんよ、コレ!」
「え? なに?」
あ〜ちゃんが奪うように取り上げたそれは、のっちが無造作に机の上に置きっぱなしだった携帯電話。その携帯電話についているのは、先ほどあ〜ちゃんが「可愛いね。」とべた褒めしたイニシャル付のストラップだった。咄嗟のことで何が何だかわからなくなっていたのっちが、漸く、事の事態を確認した。途端に、のっちの顔色は見る見るうちに青くなっていった。
「のっち、正直に言いなさいや、コレ、ゆかちゃんとおそろなんじゃろ!?」
「違うんよ、違うんよ、あ〜ちゃん、」
「何が違うんよ、はよ、言いなさいや!」
頭が暴走する、熱い。のっちが宥めるように掴んだあ〜ちゃんの腕を一気に振り払うと、反動でのっちは体制を崩して尻餅をついた。
(あ、…)
痛い、と表情を歪めるのっちに差し出しそうになった手をあ〜ちゃんは引っ込める。かっこ悪い。かっこ悪いところなんて、誰にも見せたくないのに。あ〜ちゃんはその場に雪崩落ちてしまった。
「のっち、教えてよ、のっち…っ。」
「…あ〜ちゃん。」
「のっち、のっち…。」
のっち、のっちと何度も名前を呼んだ。その度に、のっちもあ〜ちゃんの名前を呼んだ。のっちの顔で歪んだあ〜ちゃんの視界にはぼんやりとしか映らなかった。けれど、のっちはきっとまた眉を垂らしてあ〜ちゃんの名前を呼んだのだと思った。
かしゆかとさよならしたあ〜ちゃんは、今未練なんてない。彼のことも愛していない。
(じゃあ、なんでこんなにも2人に執着するの、なんで愛せないの、なんであ〜ちゃんはこんなにものっちがいるとだめになるの、)
いくら考えても答えなんて出なかった。
最終更新:2009年10月22日 21:33