独占欲が駆り立てるの、あたしを。
独占欲というものは醜い。けれど人を愛する上で独占欲は必要不可欠だ。欲しいと思う気持ちに逆らうことなど出来ない。頭では理解していても恋をしてしまえばそんなことを言っていられなくなるのは、かしゆか自身も充分に承知していた。
今日もかしゆかは、仕事が終われば一旦のっちとスタジオがあるビルの前で手を振り合ってから、少し離れた場所にある歩道橋で合流する。いつものように2人は同じ部屋に帰って、いつものようにお風呂に入って、いつものようにソファーに2人並んで座って。のっちの家には、日に日にかしゆかの私物が増えていった。そのたびにかしゆかは思う。もう、この部屋にのっちはあ〜ちゃんを呼べないだろうな、って。かしゆかが、仕組んだことではない。それはあくまで自然な出来事だった。
揺れる携帯ストラップをうっとり見つめていると、隣に座っているのっちがちらりとかしゆかを盗み見する。それに気付いたかしゆかが並んでいた体をくるりとのっちの方に向け、えへへ、とだらしなく笑った。「のっちとゆかの愛の証。」なんて言いながら。なのにのっちは何だか浮かない表情をしていて、それがかしゆかはすぐに、あ〜ちゃんと何かあったと悟った。かしゆかの感が正しければ、のっちはあ〜ちゃんと上手くいっていない。上手くいくも何も今、のっちと付き合っているのはかしゆかだ。心配することもない、はずだが、未だにかしゆかの心に引っかかるのはあ〜ちゃんの存在だった。
「のっち、どしたん。」
「何もないよ。」
「…ならいいけど。」
のっちがそれでも隠そうとするものだから、かしゆかは追求しなかった。追求しない代わりに、口付けるとのっちはすんなり受け入れてくれた。小さく唇と唇が触れる音がした。離れて、目を開いて見つめ合うとのっちは再び目を閉じた。それが合図かのようにかしゆかとのっちはまた唇を重ねる。2度、3度、繰り返すうちにかしゆかの中で突如浮き上がった独占欲。ああ、ゆかのものにしたい、もっと、
「…ゆ、ゆかちゃん…?」
のっちの声でかしゆかは自分が何をしているのかに気付いた。のっちのトレーナーの隙間から忍ばせたかしゆかの手が、のっちの肌を撫で回していた。無意識だった。
少し困ったようなのっちの表情に、かしゆかは一瞬考え込んだ。自分がこれからどうしたいのか、この手は何を意味していたのか。答えはすぐに出た。
「のっち…」
「え…っと、」
「のっちと…、したい。」
腹部を撫で回していた手が、ゆっくりとトレーナーをたくし上げる。お風呂から出て、のっちはブラジャーをつけていなかった。指先にのっちの柔らかい感触に触れ、かしゆかはのっちを見た。困惑していた。眉を垂らしてかしゆかを見るのっちは何ともかわいらしい。囚われた子犬のような目に、かしゆかがくすりと笑った。触れてしまえば、勢いだ。右手で、のっちの左胸をやさしく揉んでいくと、のっちが小さく「んっ…。」と声を発した。かしゆかはそれを聞き落とさない。
「のっち可愛い。」
「ゆかちゃん、なんか、」
「ん?」
「ゆかちゃん、」
必要以上に名前を呼んで、何とか気を紛らわそうとする。次第に主張し始めた胸の突起をピンポイントで刺激すると、また声が聞こえた。
「んっ、…かしゆか、」
「なんよ? さっきから。」
「だ、から…。」
「どしたん、のっち。」
「……はずかしい、んよ。」
呼びすぎよ、名前。なんて嬉しいからかしゆかは言わない。けれどのっちはかしゆかの顔をずっと眉を垂らして歯を食いしばってみている。その顔、好きよ、なんて嬉しいから言わない。恥ずかしいんよ、なんて言われたらかしゆかの頭が沸騰する。
ソファーからだらんと垂れたのっちの足先がぴくぴく揺れた。胸の突起に与えられるもどかしく、じんじんする刺激にどうしていいのかわからなくて足先が動いた。胸を弄るかしゆかの楽しげな表情に、のっちを思い切り睨んでどうしようもなくかしゆかの腕を掴んだ。捕まれた腕にかしゆかは、のっちの行き場のない思いを感じて内股を撫でた。撫でるとすぐにきつく脚が閉じられて、かしゆかの手が挟まれた。挟まれた手の自由の利く指先で、また内股をさすると、今度はそれに驚いて脚の力が緩められた。ショートパンツのゴム紐に手をかけて、のっちを見つめるとのっちはまた困ったように見つめて、ゆっくりと恥ずかしそうに頷いた。
いつの間にか、のっちの下半身は何もつけていない状態で、上半身は乱れたトレーナー姿。何とも情けない格好にかしゆかは笑った。一方、かしゆかはちゃんと服を着ていて、初めてのエッチがこんなんじゃ申し訳ないけえ、と言って全部床に脱ぎ捨てた。
「のっちもはよ、脱ぎなよ。」
「え、自分で脱ぐん…?」
「ゆかに脱がされたいん?」
のっちは固まって口をぽかんと開けてかしゆかを見た。どうしよう、悩んでいる様子が表情から伺える、かしゆかは更に聞いた。
「もう、早く。ゆか待てん。」
「わかった、わかった、ゆかちゃん…脱がして。」
かしゆかは、にたりと笑った。あまりにものっちがかわいいから。かしゆかの独占欲はどんどん満たされていく。ばんざいして、かしゆかが言うと、のっちは素直に腕を垂直にあげてトレーナーはかしゆかによって脱がされてのっちもかしゆかも生まれたままの姿になった。お互いの裸なんて、何度も見てきたはずなのに、この恥ずかしさは何だろう、かしゆかはのっちの露わになった胸を見ながら思った。一方でのっちは自分の裸を見られる恥ずかしさと目の前にあるかしゆかの裸に顔から火が出そうな勢いだった。
かしゆかが、ゆっくりとのっちの左胸の突起を吸おうと顔を近づけると、のっちがかしゆかの名を呼んだ。
「ゆかちゃん、」
「なんよ。」
おあずけをくらったかしゆかは不服そうに行為を止めてのっちを見た。
「…ベッド、が、いい…。」
「ごめん、忘れてた。」
行為に夢中で気づかなかった。どうりで足場が悪いわけだ。ここでお姫様抱っことかしてあげれたらかっこいいんだろうなあ、と思いながらかしゆかは、はよ行くよ、って言った。
ベッドに寝転んだのっちを見下ろすのは、最高に気持ちがよかった。この支配感、たまらない。
かしゆかはのっちの左胸に吸い付く。途端に頭上から甘い声が降ってくる。甘すぎるほどに甘い効果音にかしゆかの頭はもう目の前ののっちしか見えなくなっていた。しつこいくらいに擦り続けた内股がもぞもぞとかしゆかの左手に擦り付けられるかのように触れた。
「のっち、欲しいん?」
かしゆかが、問えばのっちは恨めしそうな目で、そんなの聞くなって言っている。面白くなってくすりと笑うと内股を擦っていた手は、ゆっくりと上昇しそっと既に濡れている割れ目をなぞった。
もどかしかった箇所は、なぞるだけという些細な刺激でのっちの大きな瞳を更に大きく開かせた。かと思えばきつく瞳は閉じられてしまった。つまらない、その瞳開けさせて、ゆかを見て。
かしゆかは、撫でるのを止めてゆっくりと人差し指だけ、いれた。のっちの濡れたそこは、かしゆかの指をいとも簡単に受け入れた。
「ゆかの顔、見て。」
「ん、ゆか、ちゃ、…! やだ、」
ヤダなんか思ってないくせに。
やっと見開かれた顔は何ともいやらしくてかしゆかは、興奮した。これがまだのっちがあ〜ちゃんに見せていない表情だと思うと、余計に。そんなことを考えている自分が、何だかものすごく嫌になった。
「ゆか、ちゃん…っ。」
「…なに。」
「好き、」
また名前を呼ばれて、ハッと我に返るとのっちが先ほどかしゆかが興奮したやらしい表情とは全く違う、やさしい顔をしていた。
好きということばが、こんなにも嬉しくてこんなにも愛おしいものになるなんて、初めて、知った。
「ゆかものっちがだいすき。」
差し込んだ指を増やして、卑猥な水音を聞きながら、のっちの甘い声に耳を澄ました。好きなひととのセックスってこんなにも愛おしくて、こんなにも切ないのだと思った。いたくない?と尋ねれば、首をこくこく縦に振って、気持ちいい?と聞けば、控えめに、うん、と言う。いきなりのっちの腕がかしゆかの首に回された。突然の行動にかしゆかが驚いているとのっちがかしゆかの耳に唇を寄せて「もう、…ゆかちゃんがいい、」と熱い吐息を発した。かしゆかは涙が出そうになるくらい嬉しくて、噛み付くように首筋に舌を這わして、掻き混ぜる指を激しくすると、のっちの声が小刻み発されて震えた。
(ゆかの独占欲、全部のっちにあげるから、のっちの独占欲、全部ゆかにぶつけてちょうだい、)
眠くて熱くて気持ちよくて。遠のく感覚にのっちの隣に寝転んだかしゆかは、永遠を願った。
最終更新:2009年10月22日 21:53