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宿命。




日も暮れて緑生い茂る公園の敷地内は、更に暗闇に包まれていた。等間隔に置かれているベンチとベンチを支えるかのように傍に寂しく立っている街頭の灯りはチカチカして今にも消えそうだった。あ〜ちゃんはそのうちの1つに腰掛けてのっちがやってくるのを待った。やはり季節は秋だ。大好きなワンピースには、そろそろ素足では寒い。脚と脚を摺り寄せながら、誰もいない公園であ〜ちゃんはのっちを待つ。
すると、コツコツコツ、と聞きなれたブーツの音がした。きっとこれは、のっちだ、のっちが大好きなショートブーツ、きっと今年も履いてるんだ、あ〜ちゃんはベンチから立ち上がると足音の方向をじっと見つめた。人影が見える、影でわかってしまう、のっちに間違いない。急ぐ素振りをしないところが何とものっちらしかった。あ〜ちゃんが胸の前で小さく手を振ると、のっちも右手を胸の前まで上げて返してくれた。


「ごめん、待たしたね。」
「ううん、いきなり呼び出したんはあ〜ちゃんじゃけえ。」


お互い挨拶を交わすと先ほどあ〜ちゃんが座っていたベンチにどちらからともなく座った。数秒の沈黙のあと、あ〜ちゃんがその口を開く。


「あんね、今日はのっちに謝りたくて呼んだんよ。」
「……そうなんだ。」


次の言葉が出て来ない。息が詰まりそうになるのは、空気が乾燥しているせいか、違うのか。街灯はチカチカして隣にいるのっちの顔も同じリズムでチカチカしていて、表情は暗い。表情が読み取れないのは、今のあ〜ちゃんにとったらとてもありがたい。


「…あ〜ちゃんね、何か勘違いしとった…のっちとかしゆか、あ〜ちゃんおいて仲良くなりよって、何かどうしていいんか、わからんなってね? のっちにばっか八つ当たりした。謝らんといかんと思った。のっちが、かしゆかのものになるみたいで、嫌だったんかなあ…あ〜ちゃん、よくわからんけど…。のっちにあ〜ちゃんが酷いこと言ったりしたんは事実じぇけえ、謝りたかった。…ごめんね。」


あ〜ちゃんは今の自分自身の正直な気持ちを全部のっちにぶつけた。なのに、のっちは何も言わなかった。言えなかった、のかもしれない。あ〜ちゃんは何も言ってくれないのっちに酷く不安になって、慌てた。背中には、肌寒い季節でもつぅーっと冷や汗が流れた。間があ〜ちゃんの心を痛める、耐えられなくなったあ〜ちゃんはのっちを見た。無表情、だった。


「……どしてそんな顔するん…?」


驚いて呟いた言葉は、うわ言に近かった。
無表情の、のっちの表情は生きている気がしなかった。“生命”を感じとることなど到底出来なかった。触れるともしかしたら冷たいのではないか、ヒトの体温をしてないのではないか、そう思えるほど冷酷な顔をしていた。


「ねえ、のっち、」


のっちが死んじゃう、咄嗟にあ〜ちゃんはそう思った。両手で掴んだ腕はやはり冷たかった。その冷たさに驚いてあ〜ちゃんは、手を離してしまった。ゆっくりと立ち上がるとのっちは無表情の口を少しだけ開いた。


「…謝らんといかんのは、のっちだよ。」


のっちは死んでいるような目をして、言った。視線は確かにあ〜ちゃんと交わっているのに、その瞳は全く生気を感じることは出来なかった。のっちの瞳にあ〜ちゃんは映っていない。あ〜ちゃんは怖くなった。


(…目の前にいるひとは、だれ、な、ん…。)


ふらふらとおぼつかない足取りでのっちは来た道を帰っていく、呼び止めることも出来ない。声を出そうとすれば、全身が震えた。


愛されれば、愛せなくて。愛せば、つらくて苦しくて逃げてしまう。
同じ事は、もうどちらも繰り返したくもないと願っていた。ダラダラ付き合っている愛してくれる彼は、ただの気休めだったのだろうか。目の前には、こんなにもあ〜ちゃんのことを掴んで離さない背中があって、もう、どうでもよかった。全てを投げ出してしまいたかった。たとえ以前のあ〜ちゃんに戻ることを、今のあ〜ちゃんが望んでなかったとしても、変わるには、これしかなかったのだと。彼が変えれなかったあ〜ちゃんをこの背中は変えてくれる気がした。かしゆかにサヨナラ出来なかった分、彼にサヨナラ出来なかった分、決着をつけたい。あ〜ちゃんは心に決めた。


小さく、息を吐いた、


(……あ〜ちゃんは、のっちが好きなんじゃ。)


また同じ軌跡を辿ることが、運命なら、もうどうなってもいい。






最終更新:2009年10月22日 22:16