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沈んだ太陽




次の日も、次の日も、そのまた次の日も。仕事以外でのっちはあ〜ちゃんとかしゆかに会うことはなかった。あ〜ちゃんに会わないのは珍しいことでもないが、かしゆかとはよく昼休みも一緒に過ごしていたし付き合ってからは、毎日飽きることなく一緒にいたから違和感を覚えずにはいられなかった。当たり前のことが当たり前じゃなくなるのって、こんなにも呆気無くて、こんなにも目の前の景色が色を失うのだと、のっちは思った。
元々、友達が多くなかったのっちはひとりで昼休みを過ごすことが多くなった。かしゆかと一緒にいることが当たり前だった毎日が、ひとりでいることが当たり前になっていった。かしゆかに似た後姿を見つけては、駆ける心音。別人だと気付いては、唇をきつく噛み締める。


腕時計をふと見れば、針は20時を指していた。辺りはすっかり薄暗くなっていてのっちは慌てて大学を後にした。明日提出のレポートが終わらなかった。いつもなら、「のっちゃん、明日までじゃけえね、レポート仕上げんさいよ。」と忠告してくれるひとがいたのに。考えるだけで胸が苦しくなった。2人がいなければ、のっちの人生なんて真っ暗だと、思った。
急いで大学を出て家路を急ぐ。今日はのっちが毎週欠かさず見ているドラマの放送日。その時間になるとソファーに座り込んだまま1時間、けして立つことはないくらい好きなドラマだった。気分転換にもちょうどいい。のに、そんな日に限って冷蔵庫が空っぽだったことを思い出す。今日の晩ご飯も、明日の朝ご飯も用意出来ないほどの食材しかなかった気がした。しぶしぶスーパーに立ち寄ることに決めたのっちは、駅の改札口に向かわず駅構内から引き返し近場のスーパーマーケットを探した。少しお洒落な路面店が並んだ駅近くにスーパーマーケットなんて見当たるはずも無く、のっちは諦めて道路の向かいにあるコンビニにしよっかなあ、なんて思ったときだった。コンビニの前を彼女が通った。


「…あ〜ちゃん、」


無意識に口から洩れた名前は、のっちが恋焦がれ続けていたひと。
神様が、先に出会わせてくれたのは、かしゆかではなく、あ〜ちゃんだった。突発的にのっちは走り出した。あ〜ちゃんの元へ、走った。もどかしいことに信号は赤。車が多数行きかう大通りでは渡れそうにない。足踏みをして、信号が変わるのを待った。いつもより長く感じるのは逸る気持ちのせいか。
信号が青になった途端にのっちは走り出す。あ〜ちゃんの元へ。


大丈夫だった?こないだちゃんと帰れた?ごめんね?のっちのこと嫌いにならないで?頭の中にぐちゃぐちゃに描かれた線と共に言葉が無数に浮かんだ。


「あ〜ちゃ…!」


のっちの視線の先に何かが、見えた。


「綾香、お待たせ。はい、これ。」
「ありがとう。」


缶ジュース片手にコンビにから出てきたその男は、あ〜ちゃんにそれを手渡した。あ〜ちゃんは何の躊躇いもなさそうに受け取って天使のような笑顔で男に微笑んだ。のっちは声をかけることが出来なかった。その男は誰? 突如浮かんだ疑問に誰が答えてくれるはずもなく、あ〜ちゃんと男はまるで恋人同士のように寄り添って歩いてく。距離が離れる。ただ呆然とその光景を見ているだけののっちを通行人が怪訝そうに見る。でものっちはその場から動けないでいた。


「邪魔なんだよ。」
「う、わ、…すいません、」


派手なのっちと同い年くらいの女の子2人組のうちの1人と肩がぶつかった。ぶつかった女の子はのっちを見下すように睨んだ。東京って冷たいな、のっちは一瞬でそう思った。ありがたいことにぶつかられたことで思考が回復した。のっちは再び駆けた、あ〜ちゃんの元へ。もう、いてもたってもいられなかった。今ここで何か言わなきゃ、ずっとこのままなんだ、それだけは嫌だ、その気持ちだけがのっちを突き動かしていた。


夜の街に消えかけた2人の背中を追いかけた。のっちがあ〜ちゃんの背中を見つけれないはずがない。のっちは自信に満ちていた。


再び見つけたその背中が、角を曲がった。


「あ〜ちゃん!!」


しかし、曲がった先に2人の姿など存在しなくて。
まさかと思って見上げた。煌々と光るピンク色のネオン。電光掲示板には、意味不明の言葉の数々。信じたく、なかった。


「…なんで、なん…なんで、」


ラブホテル、だった。







最終更新:2009年11月01日 04:03