それは承諾ともとれるし、とれないし。
「うわ、さむっ…。」
あまりの寒さに目が覚めた。薄っぺらいロンTにジャケットを羽織ってショートパンツにブーツは、この時間帯には似合わない。時計を見れば2時間は経過していた。楽しみにしていたドラマも終わってしまった。
ショックのあまり、その場に座り込んだのっちはラブホテル脇の植木を背に眠ってしまっていた。この時間にこんな場所で眠っていたのに何事も無かったのが幸い、のっちは無事だった。もうあ〜ちゃんはホテルから出てきただろうか。もし出てきたのなら、きっとあ〜ちゃんはのっちのことを気付いてくれるはずだとのっちは思った。いや、こんな場所から出てくる姿を親友に見られるのは嫌だろうから、いくらあ〜ちゃんでものっちを見捨てて帰るかもしれない、とも思った。
すると、ラブホテルからひとりで出てきた男がいた。あの男だった。
のっちは地べたに座ったまま彼を睨むように見た。そんなしつこいくらいの視線にも彼は気付くことなく、スタスタと大通りへ出てその背中は視界から消えた。
のっちは立ち上がった、あ〜ちゃんはまだこの中にいる、そう確信した。喉に溜まった唾をごくりと飲み込んで、のっちは意をけしてラブホテルの中に入ろうとした、ら、またも誰かと肩がぶつかった。今度の衝撃は大きかった。のっちが気持ちに任せてホテル内に入ろうとしていたから、思いっきりぶつかってしまった。だが、跳ね飛ばされたのはのっちだけらしく、地面に尻餅をついた。
「いててて…。」
「…のっち、何でおるんよ!?」
頭上から降ってきた声は、のっちの太陽のものだった。
「あ〜ちゃん。」
「なに、しよんよ…!?」
尻餅をついたまま地べたに座り込んでいるのっちにあ〜ちゃんが駆け寄り、のっちの頬に優しく触れた。その掌は温かくて心地がよかった。のっちは思わず笑った、だらしなく「いつものあ〜ちゃんじゃ。」と言った。そして真っ直ぐあ〜ちゃんの視線を捉えてから、聞いた。
「ねえ、あ〜ちゃん。さっきのヒト、誰?」
「……。」
「ねえ、誰なん?」
俯いてのっちは聞きたかったことを聞いた。今聞かなきゃ、一生はぐらかされて生きていくのだと思った。のっちは願うような思いだった、違うって言ってほしかった、3人に秘密はないでしょう?
「…彼氏。」
「そ、そうなんじゃ…いつから付き合ってんの?」
「…1年、くらい前。」
「へえー…」
1年前、のっちがあ〜ちゃんに恋焦がれていた真っ最中に、あ〜ちゃんのことを想い、想われる人物が存在した。のっちの口からは乾いた笑いしか出てこない。あ〜ちゃんはそんなのっちを見ているのが辛いのか、先ほどから桃色の唇を強く噛み締めていた。
失恋だ、失恋。最初からわかりきっていたんだ、のっちなんかが、あ〜ちゃんを振り向かせることなんて出来ないって。どうせ、のっちは、あ〜ちゃんのいちばんにはなれないって。
次から次に出てきた想いがのっちの容量を超えてしまった。目から溢れたものは涙。悔しくて堪らなかった。のっちが、理不尽な行動をしたことくらいわかっていた。のっちはあ〜ちゃんを想うことに疲れてかしゆかとの恋を選んだのだから。最初から届かないことなんて、わかってたではないか。
「ていうか…っ、届けようともしなかったし…!」
「のっち。」
「ずっと、あ〜ちゃんのこと、好きだった…! 好きだったよ、あ〜ちゃん…」
あ〜ちゃんはぼろぼろになったのっちを見ていて耐えられなくなったのか、そっと抱きしめた。のっちは素直にあ〜ちゃんの腕に甘えた。あ〜ちゃんの肩に自らの顔を押し付けてわんわん泣いた。
いとも簡単に男にとられた。世界一、大事な女の子を。のっちの知らないあ〜ちゃんを彼は知っていた。
「のっち…信じれんかもしれんけどね。」
「…うん。」
「あ〜ちゃん、彼氏と別れたよ。」
「……。」
「のっちのこと、好きになったけえ、別れたんよ。」
「……。」
「あ〜ちゃんじゃ、ゆかちゃん以上になれんかなあ…?」
あ〜ちゃんの声は少しだけ震えていた。でもそのぬくもりは確かなものでこれ以上ない包容力に幸せを感じた。
チカチカ光るネオンの下。
「あ〜ちゃんと、付き合って…?」
のっちはあ〜ちゃんにキスをした。
最終更新:2009年11月01日 04:07