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約束したじゃんか、




約束なんて所詮誰も守れない。愛してるだなんて、最も信用出来ない言葉だ。その言葉を信じて生きてきたけれど、呆気なく裏切られてきた。




春も、夏も、秋も、冬も。3回ずつ過ぎた。変わらない生活。かしゆかは、24歳になった。


お風呂上がり、鏡を前にかしゆかは、その綺麗で艶やかな長いストレートヘアをドライヤーで乾かしていた。指先を毛先に絡め髪を揺らしながら乾かしていく。
相変わらず、のっちともあ〜ちゃんとも変わらぬ関係を築いていた。3年経っても何も変わっていない。思い返せばあの1ヶ月が夢のようである。1ヶ月だけ、かしゆかはのっちと恋人同士になった。
3年の間、かしゆかはそれなりに恋もした。いいなあ、と思えるひとも何人か現れたし、かしゆかのことが好きだと言い寄ってくる男も多数いた。その男の中には、かしゆかも惹かれる人がいて、付き合うことにもなったけれど、1ヶ月も経たずかしゆかが振った。


(…んー、そろそろゆかもヤバイよなあ。)


かしゆかは、密かに焦りを感じていた。気が付けばもうあれから3年も経っていてその間ものっちとあ〜ちゃんは確実に愛を育んでいっている。目には見えないし、2人ともかしゆかにはその素振りを見せようとしない。それは優しさなのか何なのかかしゆかはわからなかった。
一方でかしゆかは。3年前からまるでヒトの愛し方を忘れてしまったかのように、恋に臆病になった。
本当は最初から分かっていたのかもしれない。いや、わかっていた。


(…でも仕方ないけえ。)


諦めはとっくの昔についた。あ〜ちゃんはかしゆかとの約束を守り続けてくれている。のっちは笑っている。のっちの隣にはあ〜ちゃんが似合う。


かしゆかは鏡の前の自分に何もかも抜けきったような、爽やかな顔をして笑いかけた。当たり前だがそれに返事をするかのように鏡の中でかしゆかが笑う。
ドライヤーの電源を切ると携帯電話がかしゆかを呼んでいた。慌ててドライヤーを置いて携帯電話の元へスリッパをぱかぱかいわせながら向かう。サブディスプレイに表示された名前は、仲のいい女性スタッフだった。


『あ、かしゆか? 今大丈夫?』
「大丈夫です。」


電話相手のスタッフは、かしゆかの体調の良し悪しなどすぐに見破ってしまうほど気が利く。のっちとゴタゴタあった3年前も気を使わせてしまったことを何度も申し訳なく思った。けれどかしゆかが何も話さなくとも、気にかけてくれたりご飯をご馳走していただいたりと優しく接してくれるスタッフであった。今日も変わらず友達同士のように何でもないことを談笑したのちに、スタッフが「あ、」と思い出したかのように言った。


『かしゆかさあ、のっちから何か聞いてる?』
「え?」
『何か悩んでるとか…。』
「いえ…何も。」
『そっかあ…。』


不意打ちにのっちの名前を出されて心の奥が震えたのをかしゆかは、気付かないふりをしようとした。けれどスタッフは続ける。


『何だかね、1週間くらい前だったかな? 浮かない顔してさ。どうしたの? って聞いても何も言わないし…心配でずっと隣に座ってたのよ。そしたらいきなりね———。』



『大事なひとに、もう一緒にいるのやめよ、って言われたらどうしたらいいんですか? って聞くから、何も言えなくなっちゃった。ただ、のっちの背中擦ることしか出来なかった、ごめんね、かしゆかにしか相談出来なくて。』


スタッフが、何を言っているのかかしゆかには理解出来なかった。それは、もしかして。
機械越しの声が遠のいていく。もはや携帯電話からかしゆかの名を呼ぶ声も届かなかった。


「…ほら、誰も約束なんて守らんじゃんか。」


かしゆかは、スタッフとの電話を終えたあと、すぐにあ〜ちゃんに電話をかけた。だが、携帯電話から聞こえてきたのは、「只今電話に出ることが出来ません、」とわざわざあ〜ちゃんの声に吹きかえられた応答。そのあとかしゆかは、意をけしてのっちに電話をかけた。けれど、のっちは電話に出ることはなく、コールは鳴り続くばかりだった。





最終更新:2009年11月11日 04:23