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守る気なんて最初からなかったんだ






あ〜ちゃんは薄暗い部屋の中で微かに窓から差し込む夕日に背を向けて、ベッドに横たわっていた。先ほどから鳴り続けている携帯電話は相変わらず無視している。着信を知らせるピンク色のライトがチカチカと光っているのだけはっきりと見えた。


(もう、潮時かな…。)


携帯電話を見つめるその目は、思いのほか穏やかである。チカチカ、チカチカ。光るライトを見ていると、解放されたんだと思えてあ〜ちゃんはとても安心出来た。むくりと起き上がって、やっとのことで携帯電話を手に取り、そっと耳に当てた。


「…もしもし。」





『ねえ、あ〜ちゃんもうすぐ付き合って3年の記念日だね。どこ行く? せっかくだから遠出したいなあー、出来んかなー。』


あ〜ちゃんの部屋で、いつものように桃色ソファーに腰掛けるのっちが、表情をキラキラさせて期待に胸を膨らませて喋り続けていた。


『のっちはね、USJもいいと思うけど、ディズニーランドもいいなあって思いよるんよ。』


ねっ、あ〜ちゃん?
期待を込めたキラキラ輝いた目で、あ〜ちゃんを見つめるその顔をもう見てはいけないと気がついたのは、いつ頃だったのだろうか。あ〜ちゃんは、その目を伏せて告げた。


『のっち。』
『ん?』


それはそれは、のっちは嬉しそうに、なあに? と、あ〜ちゃんを見る。その優しい瞳が、あ〜ちゃんは好きだった。その目を直視出来ない。顔を上げると、のっちの顔が少し歪んで見えた。


『…もう、一緒にいるのやめよ。』


やっとのことで搾り出したその言葉は思いのほか声量が大きく、のっちは、大きな瞳を更に大きくした。一瞬、何もかもの動きが止まったようだった。のっちはすぐに眉を下げて聞いた。なんで、と。あ〜ちゃんはただ首を横に振る。


『他に好きなひとでも出来たん? のっちじゃ駄目なん? あ〜ちゃんはのっちのこと嫌いになったん? ねえ、教えてよ。』


のっちの手があ〜ちゃんの二の腕を掴んで身体を揺らした。腕に、感じたことのない力強い圧がかかる。


『そーいうんじゃないんよ…。』
『じゃあなんなん、言ってくれなわからんよ』
『わかってよ。』
『わかりたくもないよ、あ〜ちゃん…。』


のっちはあ〜ちゃんの腕を掴んだまま、がくんと肩の力を抜いてそのまま俯いた。震える身体が窺える。あ〜ちゃんはただその頼りない身体を見つめているだけだった。




『あ〜ちゃん!? やっと出た…』


機械越しに聞こえる声は安堵している。高めの可愛らしい声があ〜ちゃんの耳に届く。


『あ〜ちゃん…のっちと別れたん!?』
「…そうじゃよ。」
『なんで…っ、ゆかと約束したじゃろ!?』


電話越しのかしゆかの声は震えていた。興奮しきっている。息遣いも荒く、あ〜ちゃんはそれを自分でも驚くほど冷静に聞いている。沈みかけていた夕日は、ほぼ姿が見えなくなっていた。暗闇が、あ〜ちゃんを襲う。


「約束したね。」
『なんでなん…のっち、あ〜ちゃんのことが好きなのに…。』
「…ゆかちゃん。」
『なんよっ…。』
「約束守れなくてごめんね。」


あ〜ちゃんがそう告げると、かしゆかは感情を抑えることが出来なくなったのか、声を上げて泣いた。その声をあ〜ちゃんは電話を切ることなく、聞き続けた。それがかしゆかの為に出来る唯一のことだと思った。
暫くしてかしゆかの様子が落ち着いたのを確認すると、あ〜ちゃんはもう一度「ごめんね。」と言った。かしゆかは無言だった。
電話を切ったあ〜ちゃんは暗闇に呟く。

「ゆかちゃん、最後まで嘘吐いてごめんね。」





最終更新:2009年12月09日 14:06