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「面白かったね」
「うん」

帰ろうかって言って歩き出す。
映画館からしばらく歩いて電車に乗っている間終始無言のまま。
何度か喋ろうと思ったんだけど隣のゆかちゃんは神妙な顔つきでさっきのこととか思い出しちゃって
また何かうっかりしてしまいそうで言葉が出てこなかった。

そのまま、電車は駅に着いてしまって改札を通りすぎてここで普段ならゆかちゃんとはお別れなんだけど。
「それじゃ」
「あ、送ってくよ」
「でものっち自転車でしょ?」
「うん、けどこんな真っ暗な中一人で歩きは危険だよ」
「悪いよ」
「のっちが好きでやってんだから気にしないで」
あんなことあろうがなかろうが元々こうするつもりだったし。

上手く言えたことに一息つけたのもつかの間また無言になる。
聖なる夜だっていうのに木枯らしは容赦なく吹き付けて体の熱を奪っていく。
このまま家に着くとどうせまた当たり障りのないこと二言三言喋って別れてしまうことになるんだろう
ほんとにそれでいいのかな、いいわけがない
そうわかってはいるけどやっぱり何も言えない。
だってこのままでいることでうやむやに全部流れちゃうなら、そっちのほうが楽だしいいに決まってる。
最初は会う度に思い出して痛くなるかもしれないけどきっといつかそれもなくなるよ。どうせ今後二人っきりで会うことなんてそうないしさ。

ゆかちゃんだってそっちのほうがいいでしょ?

「ね、のっち」
「ん?」
不意にかかった言葉にドキッとする。
「こうやって歩くの久しぶりだね」
「そうだね」
返事をしながら胸が暴れそうになる。
「二人でお出かけしたあと真っ暗なときはいっつも送ってくれたよね」
「まあね」



「ゆかあのときみたいに、また無灯火でにけつするのかと思ってた」
「やぁ〜流石にもうそこまで無茶しないよ」
お互いに笑いが漏れた。
なんだ、案外普通に話せるじゃん
「というかまだ自転車にライトつけとらんのね」
「のっち今じゃすっかりバイク派だから」
「あー免許取ったんだっけ?」
「車も運転出来るよ〜」
「じゃ今度はドライブ、誘ってよ?」
「え」
ゆかちゃんは石畳をとんとんと歩いて玄関の門を開けおもむろに振り返った。
あ、やっぱりかわいい
「のっち。ありがとう」
「ううん」
「今日楽しかった」
「…うん、のっちも」
「またなんかあったら誘って」
「わかった」

手を振って別れたあと自転車に乗る。
どうせ数分で着くんだって思って重いペダルを適当にこぐ。
いつもこんなに重かったっけ、バイクに慣れたせい?んなわけないない
やっぱり失恋のせいなのかな、のっちの体弱いな、いや心か。
ゆかちゃんはあーやって取り持ってくれたんだし早く回復しないとな。
まぁ大学入ってから二人きりで会うこともそうなかったし、なんとかなるって
そう思ったら視界が滲んだから自転車を止めて乱暴に目を擦った。
やっぱり諦めきれらんないよ。

「はぁ、…ん」
コートのポケットに違和感を感じて手を突っ込むとマナーモードの携帯が震えてた。
自転車から降りて画面を開くとそこには樫野有香って書いてある。
一瞬息が止まったけど切ったら後悔するって思ったときには通話ボタンを既に押していた
『…もしもし?』
通話口から聴こえるかわいい声に慌てて耳を当てる。
「もしもし、ゆかちゃん?どうしたん?」
『あんね、のっちにいい忘れてたことがあったの、ちょっと止まって?』
「何?」

『ゆか12月23日生まれでしょ』
「うん」



『だからね、昔っから誕生日とクリスマスは一緒に祝われててね』
「うん」
『だからサンタさんが誕生日プレゼントをもってくる、みたいなかんじだったの』
「へぇ」
樫野家なかなか合理的…いやゆかちゃんは何をいいたいんだ
『だからね、のっちがね
誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを別々にくれてすごく嬉しかったんよ』
「そうなん?ゆかちゃんが嬉しいんならのっちも嬉しいよ?」
『うん、でね』
「ん?」
『ゆかものっちに言わないといけんことがあるなって…たぶん困ると思うけど』
「なんな」
「のっち」
「おわっゆ、ゆかちゃん!」
急に呼ばれた聞き覚えのある声に振り返ると、ゆかちゃん!?
「…どうしてここに」
ちょっと涙目になったゆかちゃん
その顔がキラキラ光る回りの民家のイルミネーションに照らされて赤くなったり青くなったりしてる

「のっちに次にいつ会えるんじゃろって考えたら止まんなかったんよ」
走って来たのか髪は乱れているし、花は寒さで赤いし
その姿はいつもの完璧なときの、例えば今日の昼間のゆかちゃんとは程遠いけど、でものっちのために走ってきてくれたんだって思うと全部が全部どうでもよくなった
「ゆか、のっちのこと…」
「ゆかちゃん」
「え、のっち?」
ゆかちゃんの冷えきった身体を抱き寄せる。
やっぱり諦めきれらんないや
「のっち、ゆかちゃんのこと好きなんだ」
「のっち…それほんまに?」
「うん、諦めようって今日何度も思った。気持ち悪いだろうし…
でも前みたいにそう簡単に会えないとか今ゆかちゃんの姿見たりしたらやっぱりどうでもよくなった
ごめんね、いきなり抱き締めて」

そういって腕を緩めてゆかちゃんの顔を見ると泣きそうな顔をしていた。
「…ごめん、困らして」
「ううん、全然困らんよ」



「ゆかちゃんは優しいね」
「だって」
「うん?」
「だってゆかものっちのことが好きじゃけぇ」


———————————————————

「で、ゆかちゃんがリングでボロボロ泣いたのは嬉し泣き?」
「そうみたい。のっちがまさか好きだなんて思っとらんかったから、不意打ちでぽろっと…
で、それを見たのっちが慌てて付け替えるからやんわり否定されたって思ったみたい、もうゆかちゃんかわいすぎるわ」
「のろけかっ!」
「まあまあそんなツンツンしなさんな、ツンデレーション♪」
「あ〜ちゃんツンデレじゃないけぇ」
「じゃあ翌朝携帯見たら24、25日に掛けてびっしりメール送ってくれてたのは誰だったっけ?」
「さーあ?で告白しあいっこしてリング付け替えて朝まで何してたん?」
「さーあ?あ、ゆかちゃんとの待ち合わせに遅れる!」
「ちょ、のっち待ちんさい!」
「また今度ね!ありがとうあ〜ちゃん!ば〜い!」


end





最終更新:2010年01月19日 18:05