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そばにいてって言えないくらい
好きだった人がいて
好きだよって言えないくらい
愛してる人がいた
あきれるほどの寒さより
レンジで温めたセリフより
ただ届けたいのは

ただ届けたいのは——


【メッセージ】㈪ from K

電気をつけないまま、ベッドに横たわって白い天井を見つめる。
左のほうにあるかすかな薄い染みが、ぼんやりとぼやけた。

窓から差す月明かりが、宙に翳した私の手を青白く照らす。
あまり大きいとはいえない窓からは、濃紺の冬空が垣間見えた。

きっと、彼女は。
私の気持ちには気づいていない。
もしくは、頭のいい彼女だから、気づいてないふりをしている。

当たり前だよ。
私自身だって気づかないふりをしてるんだから。
気づいてないふりが上手になるばかりで、これ以上の距離を縮められない。


この感情を抱き始めたのがいつかはわからない。
いつの間にか、彼女を視界に探し、彼女に異性が近づくのを嫌がっている自分がいた。

3人でいる時間ももちろん楽しい。
だけど二人きりになったときに時折見せる、普段は笑顔ばかりの彼女の真剣な横顔が、私の鼓動を高鳴らせる。
”親友”であるはずの彼女に、それ以上の想いが芽生えているのは確か。

冷静に考えれば、これはきっと世間一般に言う、あの感情に違いなかった。

いっそあ〜ちゃんがいなくなってくれれば楽なのかな、なんて考えるけれど、
同時にあ〜ちゃんがいない世界なんて生きてる意味がないと思うくらい、彼女に依存している自分がいるのも確かだった。

腕で自分のまぶたをふさぐ。
空気に触れていると、目が痛かった。





音が聞こえた。

誰かが屋上への外階段を上っていく金属音。
私の部屋は角部屋だから、すぐ近くの非常階段の足音が聞こえる。

その足音で、誰かはすぐわかった。

夜は冷え込んでいるだろうから、厚手のコートを羽織って、スリッパを履く。
静かに部屋を出て、屋上への階段を、また静かに上った。




「あ〜ちゃん」

「………ゆかちゃん」

屋上の手すりに手をかけて、空を見上げる後ろ姿。
私の呼びかけに、ゆっくりと振り向く。
見慣れすぎたその人は、私の脳から片時も離れたことはない。

「こんな寒い夜に、どしたん」

見ればあ〜ちゃんは、こんな寒空の下、この前買ったばかりだというお気に入りのパジャマだけだった。

気持ちが溢れてしまわないよう、静かに近寄る。
こっちをまっすぐに見つめる瞳は、月の光よりも綺麗に見えて、ついそらしてしまった。

「眠れなくて」

隣で見上げた夜空は、空気が澄んでいた。
故郷の空に比べたら全然星は見えないけれど。
オリオン座の目印の3つの星が、かろうじて見えた。

「都会の星は少ないんじゃなくて、雲に埋もれてるんだって。何かで言ってた。」

あ〜ちゃんが、同じく夜空を見上げたまま言う。


きっと。
私のこの想いも、雲に埋もれて曖昧になってるんだ。

どうせなら一等星くらい思いっきり輝いて、遠い遠い地球にまで届くくらいの光ならいいのに。

「さっきの話の続きなんだけど。」

どきりとした。
なるべくその話はあ〜ちゃんの前ではしたくないから。

きっと彼女の口から出る言葉は、

「ゆかちゃんは、好きな人おらんの?」

——ああ、やっぱり。

寂しげな瞳で微笑みながら、あ〜ちゃんが言う。
そんなたまに見せる悲しい笑顔が、たまらなく愛しくて。
何かが外れそうになるのを、握りつぶすように右手をきつく結んだ。


「——いるよ。」

深く呼吸して、ゆっくり告げる。

心の底では、告げてはいけないともう一人の自分が叫んでいるのに。


「でも、その人も、私もきっと。気づかないふりをしてる」

星空に吸い込まれるように、その言葉はすんなりと私の中から飛んでいった。

今日何回目かに触れる彼女の手は、やっぱり冷たかった。

心のどこかで、「サヨウナラ」と声が聞こえた。

きっとそれはもう一人の自分が、「私」とあ〜ちゃんに放ったものだろうと言い聞かせた。






最終更新:2010年01月19日 19:32