『ゆかちゃん〜、大丈夫じゃった?のっちからきいたよ?』
『あぁ、うん。もう平気よ。ありがと』
ベソをかいたあれから数時間後、あ〜ちゃんから電話が掛かってきた。
『あんねぇ、遠慮せんでいつでもうちに来てええからね?』
『あはは、ありがと』
きっとのっちはゆかと話したことを隠さずにあ〜ちゃんに伝えたんだ。
だからあ〜ちゃんが心配してきて電話掛けてきてくれたんだ。
なんかそれが少し寂しかった。
あれはゆかとのっちとふたりの秘密にしてほしかったって思ってたから。
呑んだ翌日の学校は正直キツい。
軽い二日酔い。
「おはよう!!」
二日酔いの状態で会うあ〜ちゃんは眩しすぎる。
キラキラしすぎでしょ。
「おはよう・・・」
「えー、なんか朝からテンション低くない?」
「ちょっと、二日酔いっぽいから・・・」
「あー、そっか。大丈夫?」
「うん。ダイジョウブ」
「今日バイト?」
「ううん。今日はないよ」
「じゃあ、学校終わったら遊びいかない?今日午前でおわりじゃろ?のっちも今日休みなんよね。あいつアッシーにしてどっかいこうよw」
正直、今日は帰ってから手をつけてない課題をやろうと思ってた。
正直、今日あ〜ちゃんに誘われたら断ろうと思ってた。二日酔いって理由もあるし、断りやすいと思ったから。
でも、のっちがくるなら別。
返事はもちろん「行く!!」
正直、まだはっきりとのっちに恋をしているのかわからない。
恋じゃなくて憧れかもしれない。
このよくわからない感情をどうすればいいか。
もしかしたらのっちにもう一回会えばわかるかもしれない。
でもそれが恋だったらどうしよう。
親友の恋人を好きになるって、永遠の恋愛のテーマじゃん。
しかもそれプラス相手が同じ女の子ってどうよ?ハードル高すぎでしょ。
あ〜ちゃんを裏切るなんて出来ない。
裏切ってまでのっちと一緒にいたいとも思えない。
ゆかは今このぬるま湯みたいな状態が好き。
あ〜ちゃんがのっちと二人でいて、そこにゆかも誘ってくれるこの状態が好き。
ずっとこの状態でいたい。いてほしい。
このままずっと
平行線でいれば大丈夫。
二日酔いで受けた授業はさっぱり頭に入らず、ほとんど寝てたせいであっという間に学校が終わる時間になった。
あ〜ちゃんはのっちとの待ち合わせ場所にゆかを連れてくれた。
「のっち、もうすぐ来るって」
「わかった」
すこし離れた場所からクラクションの音が聞こえた。
視線をそっちに向けると、小さい白い車。のっちの車だ。
あ〜ちゃんは助手席。ゆかは後部座席。
のっちは少し眠たそうな顔。
あ〜ちゃんはそんなのっちのほっぺを「しゃんとしなさい」って軽くつねった。
つねられてものっちは怒らずヘラヘラ笑ってる。
あ〜ちゃんはのっちの寝癖を直してあげたり、頬についてた睫毛を取ったりしてあげてる。
のっちはされるがまま。ヘラヘラしてる。
あ〜ちゃんきっと後ろにゆかがいること忘れてる。
この状態が続くと正直しんどいかも・・・。
「で、どこ行くの?」
「えー、どうしよっか?ゆかちゃんどっか行きたいとこある?」
「うーん、どこがいいかな?ゆかはどこでもいいよ?あ〜ちゃんの好きなとこでいいよ」
「そう?じゃあ、あ〜ちゃん海行きたい!!」
「海?さみーじゃん。ぜったいあ〜ちゃん風邪引くって」
「うっさい。あんたは運転手なんだから文句言わない」
「へいへい。わかりました。ゆかちゃんも海でいい?」
のっちがバックミラー越しにゆかに確認をとる。
鏡越しに見られるのってちょっと弱い。
「うん。いいよ」
「よっしゃ。じゃあ行きますか!!」
そう言ってのっちはいき良いよくアクセルを踏んだ。
1時間くらいで海に着いた。
その間車内ではあ〜ちゃんのプチコンサートが開かれた。
あ〜ちゃんは車から降りると「うみーーーーーーーーーー!!!」って叫んで砂浜に向かって走り出した。
あ〜ちゃんに置き去りにされたのっちとゆかはまだ車内にいる。
「泣きベソちゃん。おとなしいじゃん。車酔いした?」
「ううん。車じゃなくて二日酔い。てか、泣きベソちゃんってなによw」
「だって、昨日泣いてたじゃん。もう平気なの?」
「うん。ダイジョウブ」
「そっか、よかった。辛いことがあったらおじさんに言うんだよw」
「のっちいつからおじさんになったんよw」
ゆかたちは車から降りた。海風が冷たい。さすがにこの時期に、海に来る人は少ない。
せいぜい犬の散歩の人がいるくらい。
ゆかはいつもバックに入って持ち歩いてるオリンパスのPENを取り出した。
パシャパシャと空や雲や海を撮っていく。
あ〜ちゃんとのっちは一緒になって波と遊んでる。
そんな二人は端から見ると高校生くらい幼くみえる。
ゆかはレンズの中に二人を収める。
今度は二人ともしゃがみだした。
なんだろ?砂遊びでも始めるのかな?
すごく楽しそうな二人。あいつらゆかがいること完璧に忘れてるんじゃね?
ゆかもゆかでずうずうしく二人の間に割って入ることは出来ない。
てか、割って入る隙なんてあの二人にはまったくない。
二人とは一緒にいれるけど、二人の間には入れない。
そう思うとまた情緒不安定になってきちゃった。
その状態が好きだって、思ってたはずなのに。
このぬるま湯が好きって自分で確認したじゃん。
「ゆーかーちゃーーーーん!!おいでーーーー!!」
あ〜ちゃんがゆかを呼んでくれたおかげで泣かずにすんだ。
「なーに?」
「これあげる」
あ〜ちゃんの手のひらに乗ってるのは小さい小さい貝殻。
「なんかそれゆかちゃんっぽかったからあげる。いらなかったら捨ててええよ?」
「そんなん貰っても嬉しくないよね?捨てちゃえ捨てちゃえw」
横で茶々を入れるのっちにあ〜ちゃんはチョップをくらわした。
「ありがとう。嬉しい。大事に取っとくね」
これは素直な気持ち。貝殻自体が嬉しかったんじゃなくて、あ〜ちゃんがゆかのためにしてくれたってのが嬉しかった。
ゆかは少し大きい流木に腰を下ろすと、さっきまであ〜ちゃんと遊んでたのっちが横に座りだした。
「それ、じぶんの?」
のっちはゆかが持ってたカメラを指差しながら訊いてきた。
「うん。すんごい欲しかったから買ったの」
「へー・・・。そうだ、明日飲み会やんだって?ゆかちゃんも行くの?」
「うん。もちろん行くよ。女子会やるんだ!あっ、もしかして、のっちも来たいの?」
「いかねーよw第一仕事あるし」
「なーんだ」
「悪いんだけど、その飲み会綾香のこと気にかけて見ててくれない?」
「へ?なんで?」
「ほら、あいつ呑み過ぎると、この前みたくなるじゃん?あれ、避けたいんだよね」
「あーそういうことね。いいよ、わかった!!あ〜ちゃんのことはまかして」
「おー、泣きベソちゃんのくせに頼もしいw」
「だから泣きベソちゃんって言わんでよw」
「ごめんごめん」
のっちの手がゆかの頭をわしゃわしゃと撫でる。胸の奥がざわざわした。
「・・・なんかのっちって男前だよね」
「えー、なに急に?あたしも一応女の子なんですけどw」
「いやー、それはわかってるけど、なんか言動がかっこいいよね」
「それって褒めてるの?」
「うん。めっちゃ褒めてる。だって、踊ってる時めっちゃかっこよかったもん。モテるでしょ?」
「えー、全然モテないよ?」
「それはモテてるって自覚がないからでしょ?」
「そうなの?よくわからん。でも、全然興味ない奴に好かれてもめんどくさくない?」
「そう、かな・・・」
のっちは素直に自分の意見を言っただけなのに、それはゆかのことを言ってるんじゃないかって思えた。
「なに?また泣くの?」
「え?」
「めっちゃ泣きそうな顔してる」
のっちの指がゆかの頬を悪戯につつく。胸の奥が締め付けられた。
ねぇ、のっち、ゆかはあ〜ちゃんじゃないよ。
触る相手間違えてない?それともあ〜ちゃん以外の人にもそうやって触れてるの?
「あーーーー!あ〜ちゃんも仲間に入れてよーーー!!」
あ〜ちゃんの叫び声でハッとした。
のっち邪魔って言ってあ〜ちゃんはのっちを押しのけて、ゆかの隣に座った。
「見て見て。これめっちゃかわいくない?」
砂浜で拾った勝利品を色々見せてくれるあ〜ちゃんは無邪気で可愛い。
「寒くなってきたから車で待ってるわ」
「はいはーい」
のっちがいなくなって砂浜にはゆかとあ〜ちゃんだけになった。
そろそろ太陽が水平線に沈みかける。
「のっちと何話してたん?」
ドキっとした。マジで心臓が止まるかと思った。
「何って、、、あっ!明日やる女子会のこと」
「そっか。・・・ゆかちゃん、のっちのこと好き?」
「えっ!?」
今度こそ死ぬ。ゆか心臓止まって死ぬよ。
「あいつさー、ぜんっぜん友達いないんよ」
「え・・・」
「ゆかちゃんさえよかったらでいいんじゃけど、あいつと友達になってくれない?」
「え?」
「そうしたら、三人でもっといっぱい遊べるじゃろ?」
「・・・いいの?」
「うん!!あっ、もしかして、のっちのこと嫌いとか?」
「ううん。そうじゃなくて、だってゆかがいるより二人でいた方がいいんじゃない?」
「うーん。どうせ一緒に住んでるし。もう二年以上の付き合いだから今更ベタベタするのもって感じよ?」
「そうなん?」
「そーよw」
ゆかは海に来てふたりに別々のことをお願いされた。
それはただ単純に嬉しかった。
ふたりに必要とされてる。
ふたりに頼りにされてる。
やっぱりこのふたりを裏切ることなんて出来ない、、、よ。
最終更新:2010年01月19日 19:36