結局日本一有名なテーマパークに、のっちと一緒に行くことになった。
あの後、あ〜ちゃんから電話が掛かってきて、のっちと一緒に行ってくれって何度も頼まれて断れきれなくっちゃったから。

この状態は喜んでいいわけ?
なんか妙に複雑な心境なんだよね。

これはあ〜ちゃんを裏切ってるのかな?
でもあ〜ちゃんに頼まれたんだよね。
のっちは乗り気なのかな?
ゆかは本当はめっちゃ乗り気なんだけどね。

「おはよう」
「おはよう」
のっちが車で迎えに来てくれた。朝早いから眠たそう。
ゆかは昨日の夜から緊張してあまり眠れなかったけど、眠くない。きっと興奮してるからだ。

「今日はゆかちゃんの誕生日プレゼントで行くんだから、思う存分に楽しまなくちゃダメだよ」
のっちは右手で頬杖をついて左手だけの片手運転。
ゆかはのっちの綺麗な横顔を眺めつつ、素直に頷く。

「綾香に気ぃ使わないでいいから。今日は二人で楽しく遊ぼう」
「・・・うん。ありがと」
「ゆかちゃんは素直でいいね。か〜わいい」
のっちはハンドルを右手に持ち替えて、左手の人さし指でまたゆかのほっぺをつついてきた。
「もうやめてよ」
照れくさくなってのっちの手を払いのけてしまった。
「ごめんごめんw」
のっちの払いのけられた手は今度はゆかの頭にきてポンポンと優しく触れる。

なんかこれって恋人みたいなやり取りじゃん。
あ〜ちゃんはいつものっちにこんな風に触られてるの?
これヤバいよ。ゆか、完璧に勘違いちゃう。
のっちと友達として遊びにいくって決めてたのに。これじゃ、勘違いしちゃうって。



高速を1時間弱走ると、テーマパークのシンボルの火山が見えてきた。
エントラスに着くと、開園を待ちわびてる人たちでいっぱいだった。
「イヴだからカップルが多いね」
「シーだからじゃないの?シーって大人って感じじゃん?」
「うーん。そうかもね。あっすいません・・・」
人が多いから歩くたんびにぶつかる。

えっ?

ふらつくゆかの肩にのっちの腕が回ってきた。

「大丈夫?」
超至近距離にあるのっちの顔。ヤバい、近いよ。息かかっちゃうよ。
「う、うん。へーき」
ゆかは恥ずかしくなって視線を地面に向ける。
「そう?ならよかった」

あれ?

のっちの手はまだゆかの肩の上。
しかも肩の上で指でリズムとってるし。
えーっと、なんでずっとこの体勢?
のっちの身体が密着するほど、ゆかの心臓がドキドキいってる。

リズムをとってた指は次に触ったのはゆかの髪だった。
思わず身体がピクっと反応してしまった。

「髪、綺麗だよね。超キューティクル。妖怪キューティクル女」
のっちは毛先をつかんで、ゆかの鼻にわざとクシュクシュってねこじゃらしみたいに当てた。
「ちょっ、止めてよ。くすぐったい。てか、妖怪って酷くない!?」
「えへへ。シャンプーのいい匂いがする〜」
ゆかの髪の匂いを嗅いでるのっち。ヤバイ、全身から火が出そうなくらい恥ずかしい。

なんか今日ののっちはいつもののっちと違う。
こんなのっち初めてだよ。なんてゆーか、あ〜ちゃんといるのっちみたいな感じ。



そうか。わかった。
きっとのっちはゆかをあ〜ちゃんの代わりだと思って今日来たんじゃないかな・・・。
だからやたらとスキンシップが多いんだ。

いいよ。ゆか、あ〜ちゃんの代用品でも。
のっちと一緒にいれるなら。
イヴの魔法がゆかをのっちの恋人に変えてくれたんだ。

「ねぇ、ねぇ、最初何乗る?それともミッ○ーと写真撮る?ゆかちゃん、ちゃんとカメラ持ってきた?」
のっちは浮かれモードMAXって感じでワクワクしてる。やだ可愛い。チョー、可愛い。
「ゆか、あれ乗りたい。高く上ってガーって一気に下がるやつ!」
「おーー!!いいね。そこ行こう!!もうね、走って行くよ!!ゲートが開いたら走るよ!!」

アトラクションに乗るのに1時間以上待つのは当たり前だったけど、のっちと一緒なら全然苦じゃなかった。
「もー、のっち叫びすぎーー!!鼓膜破れるかと思ったよ」
「ごめんごめん。だって、あれは叫ばずにはいられないっしょ!」
ケラケラ笑うのっちは楽しそう。それを見てゆかも楽しくなる。

「ねぇ、お腹すかない?ゆか、ホットドック食べたい」
「ホットドック?どこにあんの?」
「あそこ」
ゆかは通りの向こうにある黄色い車を指さす。
「わかった。買ってくるから、ゆかちゃんはここで待っててね」
のっちはピュンと走ってホットドックを買ってきてくれた。こんな恋人欲しいよ。

「おいひー」
「ふふふ」
「なんで笑うんよー」
「いやー、可愛いなって思ってさ」
目を細めて微笑むのっちは、またゆかの頭をポンポンと叩く。

「ゆか、可愛くなんかないもん」
「いやいや、めっちゃ可愛いって。ほら、口にケチャップつけてるしw」
「えっ?どこどこ?」
ゆかは紙ナプキンで口の周りを慌てて拭く。

「あはは。取れてないよ」
そう言ってのっちは自然にゆかの口に付いてたケチャップを親指で拭った。
あまりにも自然にやってのけるから、ビックリした。
しかも拭った親指を自分で舐めたし。おいしーとか言ってるし。



ヤバいって、これ。
完璧に恋人じゃん、これって。
ゆかは果たして代用品になりきれるんだろうか・・・。

「あの・・・」
ゆかがのっちの行動にドキマキしてると、高校生らしき女の子二人組に声を掛けられた。
ひとりの子は手にデジカメを持ってる。
あー、シャッター押して下さいってお願いなのかな?って、思ったら違ったみたい。

「あの・・・『のっち』さん、ですよね?」
彼女たちは一体何者!?なぜ、のっちを知ってる!?

「へ?あっ、、、はい・・・」
呼ばれたのっちも目を丸くして驚きながらも反射的に返事をした。
「やっぱり!!キャー、すごい嬉しい!!」
彼女たちはキャッキャとはしゃいでる。この子達はのっちをテーマパークのキャラクターと勘違いしてるのか?

「あの、ツアーすんごく楽しかったです!!そんで、のっちさんのダンスかっこよかったです!!」
ツアー?あぁ、この前のっちがバックダンサーしたあのアーティストのライブね。
彼女たちをよく見るとそのアーティストのツアーグッツのトートバックを肩に引っ掛けてる。

そっか、それでのっちを知ってたのね。
てか、それってスゴくない?
バックダンサーなのに、ファンがいるってことなん?

ゆかもあ〜ちゃんもそのライブには行けなかったんよね。
元々入手困難なツアーチケットだったし、のっちに頼んでも無理だったからさ。

彼女たちの話を聞いてると、のっちはそのアーティストに気に入られてMCの時結構イジられてたみたい。
それで、ファンの人たちはのっちの顔と愛称が知れ渡ったってことらしい。

「あの・・・一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
「えっ・・・」
となりに居たゆかに気を使ってるのか、のっちは少々困惑ぎみ。

「写真くらいいいじゃん。撮ってあげなよ。ゆかが撮ってあげるけぇ」
ゆかはデジカメを貰って、のっちを真ん中にして彼女たちを横一列に並ばす。



「はい、チーズ」

カシャ。

ディスプレイ越しに見るのっちの顔は、笑顔でもなく不機嫌でもなく、なんともいえない顔だった。

「のっち、ユーメージンじゃん。すげーww」
「有名人じゃねーよw」
「だって、写真一緒に撮って下さいって言われとったじゃん。ミッ○ーみたいw」
「それはミッ○ーに失礼でしょwあたしあんなに人気者じゃないし」
「のっちはみんなの人気者だよー。ほんと、ミッ○ーみたいだよ。のっちがミッ○ーなら、あ〜ちゃんは○ニーちゃん?」
「なんだそれ?wじゃあ、ゆかちゃんは?」
「ゆかは・・・一緒に写真撮ってもらって喜んでるお客さん」
「えー、なにその例えwなんか寂しいじゃん。キャラクターで例えてよ」
「自分で自分を例えるのって、変な感じがするからしないwそんなことより、今度はあっち行こうよ」

ゆかはのっちの手を取り歩き出した。
人気者ののっちと手を繋ぐのはなんとなく誇らしく感じた。

でもそれは今日一日だけ許される行為。
イヴの魔法は一日限定。

気付けば、日が沈んでイルミネーションがこれでもか!!てくらい輝いていた。







最終更新:2010年02月19日 20:04