Side K
連日続いているスタジオでのダンスチェック
休憩時間になると、毎回スタジオの外へ出て行くあ〜ちゃん
「ゆかちゃん…」
のっちが心配そうに私を呼んでくる
「解っとるって」
あ〜ちゃんが心配なんでしょ?
私だって心配だよ
だってあ〜ちゃん、全然休んでないみたいなんだもん
今だってたぶん、外で振りの確認してるんでしょ?
お家でもきっと、そうやって
のっちのこと、考えないようにしてるんでしょ?
スタジオの出入り口の戸を少し開けて、様子を伺う
やっぱり…
少し俯きながら、小さく手足を動かしてる
その後ろから近づいて声を掛ける
「あ〜ちゃん、休まんの?」
「あ、うん、平気…」
私の声に一旦動きを止めて、軽くコッチに笑顔を向けて、そのまま練習を再開するあ〜ちゃん
そうやって、のっちのことを考えないように、してるのかもしれないけど
「無理しとらん?」
「…なにが?」
のっちのこと…なんて、言えないけど
「足…痛いんじゃろ?」
「平気だってぇ…」
そんな力ない声して
平気、、だなんて
「…ウソつき」
普通の時より、バランス悪いよ…
そんな風に、心配させないようにするあ〜ちゃんがいじらしくて、愛しくて…
我慢できずに、小さく振りの練習をしているその後ろから、抱きしめた
「ゆかちゃん?」
急なことで少しビックリしているあ〜ちゃん
「フラついとるじゃん」
「だいじょ…」
さっきよりも想いを込めて、ぎゅっと抱きしめた
大丈夫なんて、言わなくて良いから
ダメならダメって、言って良いから
あ〜ちゃんに今必要なのは…
「休むのも大事じゃ。体も、心も…」
「…」
「そりゃ、武道館じゃけぇ、気合入るのも分かるけど。休んで次のエネルギーにせんとwね?」
「う、ん」
無理しないで、って言っても出来ないんだろうけど
とにかく今は、休んでほしい
「ほら、休も休もw」
少し戸惑うあ〜ちゃんの手を引いて、スタジオの中へと戻るとコッチを見ていたのっちと目が合って、あ〜ちゃんを確認するとニコッとして、視線が離れていった
自分で助けてあげられないの、切ないんだよね?
うん、、解るよ、その気持ち
でも、のっちが決めたことなんだから、頑張ってよね
…
それからあ〜ちゃんは、休憩時間にはちゃんと私達と一緒に休憩するようになった
でも…家でちゃんと休んでないような気がする…
よく分からないけど…そんな気がする
のっちにも聞いてみたら、のっちもそう思うって言ってたし
今はまだ大丈夫みたいだけど
そのうち崩れそうで、、怖い
そして
その不安は見事に的中した
ある日のセットを組んだリハで、曲の途中
私の隣に居たあ〜ちゃんが、その場でしゃがみ込んだ
そして立ち上がって私の視界から外れていく
のっち、、あ〜ちゃんが、、っ
曲が終わって、、あ〜ちゃんへと歩き出した私の前には、のっちの大きな背中があった
あぁ、、こういう時は、やっぱのっちだな…
Side N
曲の途中で周りがザワめいた
そして視界の端で見えたのは、横たわる、あ〜ちゃん…
…っ
今すぐ駆け寄りたいけど、プロとしてそれは出来ない
それに、あ〜ちゃんが喜ばないだろうから…
曲が終わると、意識しなくても足はあ〜ちゃんの方へと向いた
横たわるあ〜ちゃんの顔を確認しようと屈んでみたけど、あ〜ちゃんが腕で覆っていて見えなかった
あぁ…たぶん、たくさんの人に心配掛けちゃってるから、、自分が情けなくて悔しいんだろうな…
そんなあ〜ちゃんを呼ぶと、あたしの声に気付いて、顔を見せてくれた
その表情は、やっぱり辛そう…
たぶん、楽屋に戻りたいんだろうけど…
ちゃんと、あ〜ちゃんにも確認しないと
「人がいない方が良いか、それとも、このままココで大丈夫か…」
あ〜ちゃんが顔を小さく横に振る
やっぱりそっか
あ〜ちゃんの返事を周りに伝えて、とりあえず三人だけで楽屋へ戻ることにした
それまでの間、あ〜ちゃんの左に居るあたしと反対側を支えるゆかちゃんが、優しく声を掛けていた
楽屋であ〜ちゃんが休める場所を作って、そこにあ〜ちゃんを横に寝かせる
あ〜ちゃんの顔の脇に座って、あ〜ちゃんに話しかけるゆかちゃん
…
あ〜ちゃん、、ごめんね?
きっとあたしにも原因はあるよね
なんで、気付いたんだろうね?
あたしが本気にならなかったら、まだ二人の関係は続いていて
あ〜ちゃんにこんなに辛い想い、させなくてすんだのにね…
「のっち、タオル濡らしてきて?」
「…」
考え事してたら、返事するの忘れてて…
「…のっち?」
「ぇ、あ、うんwごめんw行ってくる」
もう一回ゆかちゃんに呼ばれて、慌ててタオルを手に部屋を出てきた
パタン…
はぁ…
あたしへの気持ちがなくなって、あ〜ちゃんが楽になるんだったら
早く、なくなったら良いのに…
「なんて、、ね…」
—つづく—
最終更新:2010年04月05日 21:32