「いっちご〜♪いっちご〜♪甘くておいし〜の♪」
練乳片手にあ〜ちゃんが即興の苺の歌を歌ってる。
楽しそう。ゆかもつられて楽しくなってきて一緒に歌ったりした。

「来てくれてありがと」
となりにいたのっちがポツリと呟いた。
ゆかはニコッとそれに応えた。

「あ〜ちゃんと仲直りしたんだね」
「んー・・・正確には喧嘩をしたわけじゃないから、仲直りって感じじゃないんだけど・・・」
「でも、いつもの感じに戻ったんでしょ?」
「うん。そうなんだけど・・・」
なんかのっちの返事のキレが悪い。

「最近あいつの考えてる事がわけわかんなくて・・・」
「へ?」
「このいちご狩りも突然綾香から言い出してきてさ・・・」
「そうなんだ」
「いきなり旅行行こうってはりきっちゃって・・・」
「なんで?別にいいんじゃない?」
「うーん。もしかして、なんか裏があるのかな〜って思うんだけど・・・」
「なーに言ってんの!考えすぎだよw」
「そうかな〜・・・」
「そうだよ!!ダメダメ。もっと前向きにならなきゃ!」
「なにその、無駄に高いテンションはww」

「ゆかちゃ〜ん」
のっちと喋ってたら、少し離れたとこからあ〜ちゃんに呼ばれた。
「なにー?」
「ちょっと”これ”貸して?」
あ〜ちゃんはそういってのっちの上着の裾をクイクイ引っ張ってる。
「どうぞどうぞw」
「これって、あたしは物じゃないっつーのw」
のっちはあ〜ちゃんに引っ張られて奥に行っちゃった。
さっきまでごちゃごちゃ言ってたのに、のっちはヘラっとしまりのない顔になってる。




だから心配しすぎだっつーの。
しかしあ〜ちゃんの甘えっぷりすごいな。
のっちじゃなくてもあんなに甘えられちゃー、しまりのない顔になっちゃうかも。

首に掛けてたカメラでかわいい苺たちを撮る。
パシャ、パシャとシャッター音が心地いい。
ピントを合わす瞬間が好き。
元々カメラは好きだったけど、最近またハマりだしちゃった。

「ゆかちゃんのそのカメラかっこいいよね」
「ん?」
写真撮るのに夢中でとなりにあ〜ちゃんがいるとこに気付かなかった。

「ねぇ、この近くに海があるんだって行かない?」
「うみ?別にいいよ?」
「はい。二対一でけってーい!!」
「へ?」
「さっき、のっちに海行こうって言ったら寒いから嫌だって言われたんよ」
「うん」
「それでー、『だったらゆかちゃんに聞いてみて決めよう』って事になって、行くことになりました〜」
「あぁ。そういうことね・・・」
のっちは口をとんがらせてる。
どうやらゆかの返事が気に入らなかったみたい。ごめんね。

ゆかたちは苺を持って海に向かった。
歩いて20分くらいしたら潮のにおいがしてきた。

三人で海に来たのは二度目。
またあ〜ちゃんは「うみーーーー!!」って叫んで、苺をのっちに放り投げて波打ち際までダッシュ。

「なんであいつあんなに海好きなの?」
のっちは苦笑してる。
「前世は人魚だったんじゃない?」
「人魚ね〜。ゆかちゃんって意外とロマンチスト?w」
なんかすごくバカにされた気がして、のっちの背中を叩いた。
「イデw」
のっちはわざとおおげさにリアクションする。



「でも人魚はいやだな」
「なんで?」
「だって泡になって消えちゃうじゃん」
「あー、そういう話だったっけ?」
「うん。王子様に会いたいが為に声と引き換えに足を手に入れて、やっと会えたんだけど結局ふたりは結ばれなかったんだ」
「のっち詳しいね」
「うん。なんかねこの話可哀相で覚えてた。しかも歩くたびに激痛が走るんだよ?それでも報われないんだよ。可哀相だよ・・・」
「だから人魚は嫌なん?」
「うん。だって泡になっていなくなっちゃうじゃん?綾香がいなくなっちゃったらいやだもん」
「のっちの方がロマンチストじゃんww」
今度はゆかが背中を叩かれた。

叩いたのはのっちなのになんでそんな泣きそうな顔してんのよ。
なに?どうしてほしいの?
こんな顔するのっちにゆかはなにをすればいいの?

「あ〜ちゃんは消えない、よ」
ゆかはのっちを慰めるようにペチペチほっぺたを軽く触った。
触った頬は思った以上に冷たかった。

「ほれ。姫がひとりでいるよ。そばにいっといで王子様w」
「王子じゃないっつーのw」
ゆかはハノ字眉毛の王子様の背中を両手で押してあげた。

水平線に沈みかける太陽が照明。
穏やかに揺れる海面がレフ版。
波に恋する姫と姫を愛する王子の後ろ姿が被写体。

ゆかはそれをカメラに収めた。

泡のように消えないように。

永遠に残るように。






最終更新:2010年04月05日 22:24