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記念すべき武道館ライブは大成功に終わった。
あたしもいちスタッフとして参加出来て嬉しかった。
相変わらずあたしの仕事はタカコさんのアシスタントと雑務だけだったけど。
あのライブを少しでも手伝えたって思えた。

あ〜ちゃんはデカイ武道館のステージで堂々と歌ってた。
それ見て何度か泣きそうになった。
またあ〜ちゃんが遠くにいっちゃった気がした。

でもあ〜ちゃんはあたしの恋人。

って言い聞かせながら、彼女の歌に耳を傾けた2時間半だった。

武道館ライブって大きな仕事を終えたあ〜ちゃんは久々にオフを貰った。
そして今日はあたしも丁度休み。
二人して休日が重なるって久々だったから、今日はデートするって決めた。

「ねぇ、ねぇ、今日どうする?どこいく?あ〜ちゃん、行きたい場所ある?」
身支度の間、あたしはずっとこんな感じでテンション上げ上げ状態。

「んー、特に行きたいとこ思いつかんから、のっちの行きたい場所でええよ?」
「じゃあ、じゃあ、アルパカ見に行こう!!那須、那須!!」
「えーそれは嫌。遠いけぇ」
「えぇぇ!?今あたしの行きたい場所でいいって言ったじゃん!!」
「アルパカ以外だったらええよ」
「なんでアルパカダメなん?」
「だって、アルパカ見に行くとあんたアルパカしか目に入らなくなるじゃろ?」
「・・・はっは〜ん。西脇さん、さてはアルパカにジェラシーですか?」
「、、、、バカ」
「ヤキモチあ〜ちゃん可愛い〜」
アルパカちゃんにヤキモチやいてるあ〜ちゃんが可愛すぎて、飛びついた。
そうしたら思いっきり顔を押さえ込まれた。なぜ?

「イダっ」
「もー、早く仕度して。置いてくよ!!」
「わー。やだやだ。待ってよ〜」

結局アルパカは見に行かなくて、映画を見に行った。
映画のジャンルはあ〜ちゃんが好きそうな若い子向けの甘々なラブストーリー。
あ〜ちゃんは満足したみたい。
あたしはがんばって見てたけど、結局あ〜ちゃんの肩を借りて寝ちゃってた。

「なーんか、おなか空かない?」
「そーじゃね。あれだけ、寝っとたらおなか空くもんね」
「あっ、、、バレてた?」
「フツー、バレるじゃろ。人の肩で寝とったくせに」
「でへへ」
笑って誤魔化す。
さぁ、ご飯でも食べにいこうって思って映画館を出ると、あ〜ちゃんに携帯電話が向けられた。

パシャ。
通りすがりの奴に写メを撮られた。
しかもかなりの至近距離で。

ムカついた。
あたしが一言文句言ってやろうと思い、写メ野郎を追いかけようとしたら、あ〜ちゃんに引止められた。



「いいの!?あーゆー奴ほっといて!?」
「まーまー。落ち着きんさいよ」
「なんでそんな冷静?だって、あれ絶対ネットに乗せる気だよ?ぜってー、あいつファンじゃないって。ファンだったらあんな失礼なことしないっしょ!!」
「別にええよ。それなりの覚悟は出来てるから」
「あ〜ちゃん、優しすぎ・・・」
「ふふ、だって悪いことしとらんもん」
「でも落ち着かないでしょ?いつも見られてる感じがしてさ、、、」
「まー、しょうがないよね。ふふ」
「・・・よし!!変装しよう!!」
「はぁ!?」
あたしはあ〜たちゃんの手を引っ張って小さな雑貨屋さんに寄り道。
そこで黒縁の伊達メガネを買ってあげた。500円で変装出来るってお手ごろでしょ。

「はい。これで、もうあ〜ちゃんって周りの人にばれないでしょw」
黒縁メガネを掛けたあ〜ちゃんは新鮮。また違った魅力だわ。
「メガネあ〜ちゃん。マジやばい。萌える、、、」
やばい、心の声が漏れてしまった。

「のっち」
「ん?」
「キモイ」
「んあぁぁ。真顔でキモイって言わないでよ。本気で凹むからw」
「凹め凹め!ほら早くせんとおいてくけぇ!!」
完璧に軽蔑されたあ〜ちゃんの背中を小走りで追いかける。

「ほら」
あ〜ちゃんに追いついたら手を差し出された。
「え?」
「あんたいっつも、うろちょろ寄り道するじゃろ?だ・か・ら!」
あぁ、手を繋ぎたいってことね。
もうあ〜ちゃん素直じゃないんだから。ツンデレさん。

あっ、でもね・・それはすごく嬉しいけど、やっぱりね・・・。
外で手を繋ぐって人の目があるじゃない?
しかもあ〜ちゃんはそれなりに有名な人であるから、ね?

あたしが渋ってると、あ〜ちゃんは察したみたい。
「ふふ。大丈夫じゃけぇ。別に女の子同士が手ぇ繋いでもええじゃろ?」
今きっとあたしの眉毛は下がりまくってると思う。
その言葉をきっかけにあたしは、あ〜ちゃんの手を握った。

久しぶりに外であ〜ちゃんと手を繋いだ気がする。
手を繋ぐのって慣れない。常に軽く緊張してるよ。
でも安心する。なんだろ、この感じ。
あ〜ちゃんの白くて柔らかい手がそう感じさせるのかな。



「のっちでよかった」
ボソっとあ〜ちゃんがこう呟いた。
あたしでよかったってなにが?

「アッキーナが彼氏と外で会えないからつまらんってこの前言ってたんよ」
「アッキーナってあのアッキーナ!?」
「ん?そうよ?って、なに驚いてるん?」
「えっ、あ〜ちゃん。マジで友達になったの?」
「そうじゃって!この前言ったじゃろ?」
「そうだけど・・・それって、あたしを驚かそうとした冗談だと思ってた」
「・・・な訳ないじゃろ」
「ですよね〜。で、それがどうしたの?てか、アッキーナ彼氏いたんだ。ヤベ、ショック、、、」
「ほら、アッキーナってバリバリのアイドルじゃろ?」
「うん。めっちゃ可愛いもん。もちろんあ〜ちゃんの次だけどねw」
「だからスキャンダルを狙ってる人たちも多いんじゃと」
「ふんふん」
「でもあたしはこうやって堂々と歩けるのは、のっちだからなんだって思っただけ、、、」

事務所の方針で、あ〜ちゃんたちのバンドは半分アイドルのような売り方をしてる。
本人たちはそういう売り方は嫌がってたけど、会長の鶴の一声でそうなってしまったらしい。
まー、そのおかげで彼女たちが売れてるってもは大いにある。
なので、もちろん恋愛はご法度。
あ〜ちゃんに擬似恋愛している人を夢から覚めさせたら、売れなくなっちゃうってこと。
たまにテレビとかで恋愛トークとかあるけど、あ〜ちゃんは元々頭の良い優等生だから返答も、ファンを裏切らない答え方をしてる。

「恋人はいません」

そりゃそうだ。
しかも恋人が女の子ってわかったら大変だもんね。
スキャンダルを追ってる人たちの餌食にされてしまうもんね。

でも、あ〜ちゃんの考えは斜め上をいくものだった。
そっかそういう考えもあるよね。

逆に女同士だから、堂々と歩ける。
それはあくまで友達としてだけど。

「恋人はいません」
って、聞くたびに少し凹んでたあたしがバカみたい。




「よかったね〜。のっちが恋人でw」
「えぇー、なにその上から目線。ムカつくw」
「でへへ。あー、幸せ〜」
「はぁ?なに急に?」
「いやねぇ、あ〜ちゃんがとなりにいて幸せだなってw」
「そんなんいつもそうじゃろ?」
「そうだけどさ〜。当たり前のことが一番大切なんだって思ったわけだよw」
「・・・なに、サムいこと言っとるん」
「だから真顔で言わないでよ、、、。凹むから」
あたしがふてくされると、あ〜ちゃんがギュっと手を強く握ってきた。

「あたしもそう思っとるよ」
「ん?」
「この手は離したくないって思っとるよ」
そう言ってあ〜ちゃんは繋がれた手を大げさにブンブン振り出した。

「のっち、ありがとね」
「な、なにが?」
素直バージョンのあ〜ちゃんにあたしはかなりの動揺というかドギマギ。

「変わらずに付き合ってくれて」
「あ、あったり前じゃん!!あたしは変わらないよ。ずっとあ〜ちゃんのこと好きだもん!!」
「ちょっ、、、声デカいから・・・」
「あっ、ごめん。・・・なんかあったの?」
ほんとこんな、しおらしいあ〜ちゃんは珍しいよ。

「ううーん。なーんもないよー」
「ほんとに?」
「ほんとよー」
「ほんとにほんと?」
「もー、のっちしつこいw大丈夫じゃーて」
「もし誰かにいじめられたら言ってね。あたしがそいつにガツンと言ってやるから!!」
「えー、嫌じゃ」
「な、なんでよ!?」
「争いごとは嫌じゃけぇ」
なんだよ。なんでそんな切なげな顔すんのさ。
そんな顔するからそう言ったのに。



「ねぇ、のっち。ご飯はお店で食べるんじゃなくて、テイクアウトして外で食べない?」
「う、うん」
あたしがそう返事するとニカっと笑ってくれて、少しはホッとした。
あ〜ちゃんの言うとおり、パン屋さんに寄ってサンドイッチを買って、近くの広い自然公園みたいなところへ行った。

公園では小学生たちが野球っぽい遊びをしてる。
犬の散歩してる人たち、カップルもチラホラ見かける。
あ〜ちゃんはメガネを掛けてるからか、誰も彼女とは気付いていないみたい。

あたしたちはそこに日が暮れるまで居座った。
別にこれと言ってなにをするわけでもなく、ただふたりしてボーっとしてるだけだったけど。
少し風が冷たかったけど、あたしは帰ろうって言わなかった。
言いたくなかった。
別になにもしなくても、ただ一緒にいるだけでも十分だから。
それにここから帰ると貴重な休日が終わっちゃう気がしたっていうのもある。

ずっと今日が続けばいいのにって思った。

そうしたらずっとあ〜ちゃんと一緒にいれるし。
あ〜ちゃんも変なプレッシャー感じなくて済むと思うし。
あたしも仕事のストレスも感じなくて済むし。

「そろそろ、帰ろうか・・・・」
あ〜ちゃんがボソっと呟く。
さすがに空は青から黒に変わってて、公園にいた人たちも一人残らずいなくなってた。
わずかな光は、古びた電灯と月明かりだけ。
まるでこの世界にいるのは、あたしとあ〜ちゃんだけみたいな錯覚に陥った。
月明かりに照らされるあ〜ちゃんはまるでこの下界に降臨した純白な天使に見えた。
結構ロマンチックなシチュエーション。

そんなシチュエーションに酔ってしまったのか、あたしは思わずあ〜ちゃんにキスをした。

「なにしとん・・・」
「キス」
「そんなんわかっとる。なんでしたん?」
「消えそうだったから」
「はぁ?」
「あ〜ちゃんが消えそうだったからキスした」
「意味わからんw」
ふふって笑うあ〜ちゃん。

だって本当に消えちゃいそうに思ったんだもん。
背中から翼が生えて、空に羽ばたいていきそうだったんだもん。
あたしの元から離れていっちゃいそうだったんだもん。

「さっ、帰ろう。また明日から仕事じゃけぇ」
「はーい」
あたしたちはまた仲良く手を繋いで家路に向かった。

あ〜ちゃん・・・元をたどれば、あたしが自分の手で、あなたを手放しちゃったんだよね。バカだな。ほんと、あたしってバカだよ。





最終更新:2010年11月06日 01:10