「でさ、いつまでここにいるつもり?」
「もうすこしいさせてよ」
「俺、出かけたいんだけど」
「えー。もうちょっと一緒にいてよ」
ゆかちゃんとはぐれてから、小一時間探したけどやっぱり見つからなくて戻ってきた。
家に帰る気が起きなくて自然と足が中田くんちに向かってた。
「中田くん・・・。あたし、もう辛いよ」
「は?てか、何があったんだよ?たしか今日花火大会だったんだろ?」
「うん。だけどね・・・」
あたしは中田くんにさっきあった出来事を掻い摘んで説明した。
「あー・・・。きっと俺も同じ事されたらヘコむ」
おぉ!!中田くんが初めて共感してくれた。
「だよね!そうだよね!ヘコむよね!?」
「でも樫野さんの行動もすげーわかる」
「、、、っなんだよ。どっちの味方?」
「俺は誰の味方でもねーよ」
ふんだ。
「あー、やっぱりあたしには無理なんだよぉぉ!」
「もうさ、帰ってよ。マジで。俺出かけなきゃいけないんだけど!」
そんな怒んなくてもいいじゃんか。
最近の中田くんはちょっと冷たい。
夜はいつにも増して外で遊んでるみたいだし。
まー、そんなことあたしには関係ないからいいんだけどさ。
中田くんに追い出されて自転車に乗る。
花火大会の後だからいつもよりも人通りが多い。
あたしはまだ家に帰りたくないからわざと遠まわりをした。
学校の裏の公園を通る。
もしかしてまたゆかちゃんがベンチに座ってたりしてって思って通ったんだけど。
まさかとは思ったけど。本当にいてビックリした。
「ゆかちゃん!?」
俯いて座ってたゆかちゃんはあたしの呼びかけに驚いて顔を上げた。
その顔は汗と涙でぐじゃぐじゃだ。
「サンダルなくなった〜。・・・ふぇぇーん」
そう言って泣き出しちゃったゆかちゃん。
足元を見ると左足だけ裸足。
きっとあの後人ごみの中で踏まれて脱げちゃったんだろう。
「わ、わかったから。泣かないでぇ」
あたしはどうしていいかわからず、オロオロしながら隣に座った。
「ヒック、ヒック、、、最悪〜、、ヒック、、、ヒック」
「今までひとりでずっとここにいたの?」
「そーだよ。全部のっちのせいだよ!」
「え!?」
「のっちが花火大会いこうって言ったから。足踏まれるし、痛いし、汗でベトベトになるし、サンダルなくすし。最悪だよ!!」
「ご、ごめん・・・」
そう言われちゃうとなんも言い返せないよ。
「バカのっち!」
バシっと肩を叩かれた。
「ごめん、、、」
「バカ。のっちのバカ」
今度は同じところに頭突きされた。
「ごめんって、、、」
「あやちゃん、、、、。お兄ちゃんと、いた」
ゆかちゃんはおでこをあたしの肩につけたまま喋り始めた。
「お兄ちゃんといるあやちゃんは嫌い」
「え?」
「お兄ちゃんといるあやちゃんは、ゆかの知らないあやちゃんだから嫌いなの」
「ゆかちゃん?」
「追っかけた時お兄ちゃんと一緒ってわかって。追いかけるの止めたの」
「・・・そうだったんだ」
「そしたら、どんどん流されて。足、踏まれて。サンダルなくなっちゃった」
「うん、、、」
「バカ。バカのっち。嫌い。大っ嫌い!」
ゆかちゃんは言葉とは裏腹にあたしに抱きついてきた。
えっと・・・。
この状況はどうすればいいんだろうか。
ゆかちゃんが抱きついてる左側が暑くて熱くて発火寸前だよ。
「もう遅いから自転車で送るよ」
「・・・うん」
ヘタレなあたしは自分から絶好のこの状況を脱した。
自転車の後ろの荷台にゆかちゃんが腰を下ろす。
あたしはいつもよりも重くなったペダルを漕ぎ出す。
「のっちってさー」
「んー?」
「まだゆかのこと好きなん?」
「・・・好きだよ。知ってるくせに」
「やっぱりのっちってバカだよ」
ゆかちゃんは両手をあたしのおなかに回し、おでこを背中にくっつけてきた。
「あたしがバカなら、ゆかちゃんも相当のバカだよね。大バカ者だよ!バーカ!!バーカ!!」
何度もバカバカ言われてムカついて言い返してやった。
「そんなん、知っとるよ」
ゆかちゃんの少し低い声と想いが背中から伝わってきた。
なんでそんな声出すのかな。
そんなんならバカって罵られた方がまだマシだよ。
「うりゃ!!!」
あたしは思いっきりペダルに力を込める。
自転車はグングン加速する。
すでに
シャッターが閉まってる静まった商店街を通る。
「ちょ、、、、のっち!?」
ゆかちゃんを乗せたまま、ジグザグ運転。
かなり揺れて危なっかしいもんだから、おなかに回ってるゆかちゃんの腕がさらに強くなった気がした。
「ギャーーー!!のっち!ちゃんとまっすぐこいでよ!!」
ゆかちゃんの叫び声は商店街中に響いた。
「やーだよ!!」
あたしはわざと両手を離した。
「バっ!?なにしとるん!!手!手!」
ゆかちゃんに背中を思いっきり叩かれて、またグリップを握った。
「ゆかちゃーーん!!」
「なによ?てか、声でかいしw」
「明日も一緒に遊ぼうね!」
「は?」
「明日も明後日も明々後日もさ。一緒に遊ぼうねw」
「・・・なに言ってるん?」
「ずっとずーっと一緒に遊ぼうね!!」
「・・・だから声でかい。響いてるし」
「ゆーかちゃーん!!ゆかちゃん!ゆかちゃん!ゆかちゃーん!!」
「もう!のっちうるさい!!なによ!?」
「好きだよ」
ゆかちゃんが後ろにいてよかった。
きっと今のあたしは顔が真っ赤でかっこ悪いから。
そんな顔好きな人に見せらんないよ。
「、、、うん」
おなかに回されたゆかちゃんの腕がそう言った気がした。
最終更新:2010年11月06日 16:49