Aside
「あ、このあ〜ちゃんのカット超可愛い、みてみて」
のっちは三人の載っている雑誌をあ〜ちゃんとかしゆかの前に広げた。
「これも。あ、これも可愛い」
そんなにひとつひとつあ〜ちゃんの顔チェックせんでも・・・なんか恥ずかしい。
のっちは能天気に「あ〜ちゃんは本当に可愛いねー」なんて言いながらにやにや。そんなのっちの
ことと、顔が真っ赤なあ〜ちゃんのことを交互に見てかしゆかがにやにや。
「のっちは本当にあ〜ちゃんこと好きじゃねえ」
かしゆかがもっと私を恥ずかしがらせようとのっちに言う。のっちときたら、さっきまで雑誌にかじりつ
いていたくせに、かしゆかの質問にすぐ顔をあげる。
「うん、大好きだよそりゃ」
なんて満面の笑みで。いつもは笑っていてもただの阿呆にしか見えないのっちが、こんな時は白
馬の王子様のように輝く。罠をしかけたかしゆかも、あ〜ちゃんも思わずみとれてしまう。のっちに
みとれるなんて心外だ!
でもあ〜ちゃんは知っとるんよ。その好き、が私のそれとは全く違うこと。のっちは可愛いものとか、
女の子とか特別好きじゃけえ、あ〜ちゃんもそのうちのひとつ。その証拠にのっちは、あ〜ちゃんを
大好きだと言った舌の根の乾かぬうちに、今度はかしゆかを褒めている。
「このゆかちゃんやばい!なんでゆかちゃんこんな表情できるの、小悪魔じゃん!」
かしゆかが小悪魔なら、あんたは吸血鬼じゃ。
あ〜ちゃんの心を全部吸い取ってしまう。
もうあ〜ちゃんはね、あんたのことしか見えんのよ。
それに、と思う。それにのっちはあ〜ちゃんみたいな本気の好きじゃないから、
あんなに好き好きって簡単に言えるんじゃ。本当に好きだったら、そんなに簡単には言えない。
本当に好きだったら、私みたいにちょっと冷たくあたったり、
激しいツッコミを入れたりしてしまうものだ。きっと。
「あ〜ちゃん、どした?」
声をかけられ、俯いていた顔をあげるとのっちと瞳ががっちり合う。
なぜか涙目だ。いつもはきゃんきゃんうるさい子犬がエサを貰うために懇願している、そんなような情けない瞳。あ〜ちゃんの大
好きでたまらない瞳。
「かしゆかがなんでこんな表情できるか、気ぃ〜にな〜るのお〜!」
本心を探られそうになる一歩手前。どうにか笑い話にできて安心した。かしゆかものっちも大笑
い。あ〜ちゃんも必死に笑顔作って二人に溶け込む。
たとえかしゆかだろうと、のっちだろうと絶対にこの想いには触れて欲しくない。
気づいて欲しくないけん。それだけ真剣に、切実に想っているんよ、のっち、あんたのこと。
だからどうか、もうしばらく能天気なのっちでおっとって。ただの親友の二人でいさせて。
「のっちちょっとトイレ行ってきまーす」
まだ笑いながらのっちが立ち上がった。かしゆかが携帯片手にいってらっしゃいと手を振る。私は
そっと胸を撫で下ろした。
「のっちは今日も王子様じゃねえ、あ〜ちゃん」
かしゆかが携帯を開きながら見ながら言う。
「そう?あ〜ちゃん別に全然じゃけど」
と、おどけて言ってみせる。彼女はボケた私を笑いもせずただ穏やかな口調で、
「あ〜ちゃん
ツンデレだからなあ、たまには素直にどーぞ」
「だからー、」
別に全然ときめいてなんかないって、と反抗しようと思った瞬間。携帯にメールが届く。
誰からだろう、なんて全然考えずに見てみると、なんとのっちからのメール。トイレ行っとったんじゃないの。
「あ〜ちゃん、
心配ごとがあるならのっちに任せんさい!!
あ〜ちゃんが困ってるとのっちも困っちゃうよ
なんでも話して!
あ〜ちゃんの王子さま のっち」
体が一気に熱くなる。思わず携帯を閉じてしまう。
「どした、あ〜ちゃん。誰からのメール?」
「・・・ちゃあぽん」
苦し紛れの言い訳。一発で嘘だってわかる声音。
絶対嘘だと気づいたはずなのに、かしゆかはそれ以上追求してこない。
閉じた携帯をもう一度開き、返事をすべきかどうか迷っていると、
「あ、のっちおかえりー」
かしゆかの声。のっちがトイレから帰ってきた。私が顔をあげると、
意味深そうな(かつ阿呆な)笑顔を浮かべ私に向かっててのひらをひらひらさせる。
思わず怒ってしまいそうになる。あ〜ちゃんの悩みのたねはあんたなんじゃ!って。
でもその反面、自分の嘘に気づいてくれた人を愛しく思う。要らない期待ももってしまう。
このメールは、保存しておこう。一生大事にしていよう。
それが今できるあ〜ちゃんの精一杯の告白じゃ。この気持ちを伝える日はこない。だって、今親友である関係と、理想を天秤にかけたら、三人のためにも黙っているのが一番いい。
のっちはもう雑誌に目線を落としている。かしゆかは相変わらず携帯をいじってる。
あ〜ちゃんは、こういう雰囲気が大好き。三人とも別々のことをしているのに、孤独に感じない。どこかで繋がっているような。
だから壊せないよ。
ばいばい、のっちへの恋。あ〜ちゃんの王子様。
あ〜ちゃんはね、冗談じゃあんたのお姫様にはなれんけえ。
end
最終更新:2008年10月13日 07:37