Kside




最初にのっちの気持ちを聞かされたのは、一ヶ月くらい前じゃないかな。
深夜、突然メールがきた。
「のっちね、あ〜ちゃんのこと、好きになった」
なんでそれをゆかに言うんよ、と思ったのは黙っておこう。
多分悩んで悩んで、どうしようもなくなってゆかに頼ってきたんだ、きっと。
でも、悪いけどゆかはずっと前から気づいてたよ。
多分のっちがあ〜ちゃんに恋してるって気づくずっと前から。

それから私はたまにメールで相談にのってあげることにした。面と向かっては話せない。
私たち三人はいつも一緒だから、話せるわけがない。
「あんた、だれかれ構わず可愛い言うのやめんさい」
どうすればあ〜ちゃんに振り向いてもらえるかな、なんて深夜にきたメールに返信。
本当は、「振り向いてもらえるどころかのっちしか見てない」って送ってあげようかとも思ったけど、
それはやめた。きっとそんな情報教えたらのっちは阿呆の子だから、舞い上がってしまう。
それじゃああ〜ちゃんとは恋人になれないよ。
「努力はするけど・・・自信ないよ。だって可愛いもんは可愛いもん」
返ってきたメールに呆れてしまう。あんた本当に駄目な子じゃね。


ゆかがこれだけ協力してあげてるのに、のっちときたら努力の成果が一向に見られない。
さっきも折角違和感なくあ〜ちゃんに好きだって言うチャンスあげたのに、二言目にはすぐ、
「このゆかちゃんやばい!なんでゆかちゃんこんな表情できるの、小悪魔じゃん!」
これだ。本当のっちよりゆかのが気遣っとる。
能天気な笑みを浮かべるのっちを尻目に、恐る恐るあ〜ちゃんの顔を見てみると、
やっぱり心持落ち込んだ顔。そんな俯いちゃって。
私はすぐのっちに小声で言う。
(あ〜ちゃん落ち込んどるよ!)
(えぇ!?な、なんで。好きって言われたのいやだったのかな)
そんなわけあるか!と思いのっちにチョップ。のっちはげろげろカエルみたいに「うげっ」とうめく。
こんなに大げさなアクションをしても、あ〜ちゃんは思いつめた表情で気づかない。
      • 二人とも深刻じゃん。
(のっち早くフォローフォロー!)
のっちは素直な犬みたいにすぐゆかの言うことを聞いて、あ〜ちゃんに話しかける。
「あ〜ちゃん、どした?」
のっちに声をかけられあ〜ちゃんが顔をあげる。一瞬躊躇の色を顔に浮かべ、すぐに
「かしゆかがなんでこんな表情できるか、気ぃ〜にな〜るのお〜!」
笑いにしようとする。あ〜ちゃんの悪いくせ。だめだよそこに逃げちゃあ。
のっちを見ると馬鹿みたいに笑ってる。仕方ないからゆかも笑う。
あ〜ちゃんが隠しておきたいと思ううちは、それに乗っかってあげよう。
下手に介入したら、あ〜ちゃんみたいな子はだめだ。

「のっちちょっとトイレ行ってきまーす」
いってらっしゃい、とゆかが手を振るや否や、すぐにのっちからのメール。

「あ〜ちゃん、あれきっとウソだよね・・・
のっちどうすればいいんだろ」

私はのっちからのメールと、あ〜ちゃんの顔を交互に見比べて返信する。

「そう思うなら、そう言ってあげなさい」


返信を済ませ、携帯を閉じる。あ〜ちゃんを見ると、
のっちが居なくなったせいか少し楽そうな表情。目の前に居ると素直じゃおれんなんて、
あ〜ちゃんは恋する姿も立派な乙女。
のっちの居ない間にあ〜ちゃんの本心を聞いてみようかな。
今日のっちがうまいこと立ち回れたらご褒美に情報を横流ししてやろう。
「のっちは今日も王子様じゃねえ、あ〜ちゃん」
「そう?あ〜ちゃん別に全然じゃけど」
またあ〜ちゃんの悪いくせ。二人とも本当に手のかかる子。
「あ〜ちゃんツンデレだからなあ、たまには素直にどーぞ」
あ〜ちゃんは笑ってくれなかったことが予想外らしく、目に見えて動揺する。あはは、かーわいー。
するとあ〜ちゃんの携帯にメール。のっちからだなあ、多分。
あ〜ちゃんが携帯を開いて、そこに書いてある文章を読む。
さて、王子様はどんな言葉でお姫様のハートを射止めようとしているのかしら。
少し経つと目の前の恋する女の子の顔が見る見る真っ赤に。
王子様はずいぶんと甘い言葉を吐いたらしい。

「どした、あ〜ちゃん。誰からのメール?」
教えてくれるわけないとは思いつつも、一応質問。
「・・・ちゃあぽん」
あらあら、今のあ〜ちゃんの顔みたいに真っ赤な嘘。仕方ない。
仕方ないよな、あ〜ちゃんはきっと色々なものの大切さをはかって、優先順位をつけているんだ。たまにはそんな優等生もやめていいんだよ、って不良なゆかは思うけど、それは無理な話。
あ〜ちゃんはもう一度携帯の文面を読み直してる。よほど嬉しいんだろうな。
するとのっち王子のご帰還。なんだか満足そうな顔をして、ゆかに笑いかけてきた。
お姫様にも王子様のご帰還をお知らせしようと私はわざと、
「あ、のっちおかえりー」
なんて言ってみる。二人の目がかち合って、のっちは小さく手をひらひら。どちらも顔が真っ赤だ。甘酸っぱいなあ、この二人。


のっちはすぐ席に着き、雑誌に目を落とす。恥ずかしくて顔を見ていられないみたい。
するとメールが届く。雑誌の陰に隠れて打ってる。

「ありがと」

たった、これだけ。でも本当に感謝してるみたいだし、今日ののっちはわりと頑張ったよ。
ゆかとっておきの情報をご褒美にプレゼントしてあげる。

「あ〜ちゃんも、のっちのこと大好きだよ」

のっちがメールを読んだと思ったらすぐにまん丸の瞳でこちらを見てくる。
半信半疑のくせに口元がにやけてる。本当に、なんていうか、素直というか、・・・阿呆だ。
私はたてつづけにメールを送る。

「これからどうするの?」

返信がすぐくる。私はその内容を見て、思わず幸せな気持ちになってしまう。
のっちが珍しく男前だ。あ〜ちゃん、もう悩まなくていいんだよ。
今までひとりで悩んできて大変だったね。のっちはゆかに頼ってるんだもん、ずるいよね。
でも大丈夫。もう少しで最大級の幸せがあなたに。



「絶対告白する

のっち」


end






最終更新:2008年10月13日 07:40