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目の前に、あ〜ちゃんの涙をためた瞳。切なそうに唇を噛みしめて。
あたしの制服の袖の端っこをちょびっとつまんで、上目づかいに泣き声で呟いた。
「…のっち、…お願い」
…ここまでのシチュエーションで甘い展開を期待した人、甘い、甘いですよ。
まあ、かく言うのっちもその一人だけどさ…。
あ〜ちゃんのツンデレな寸止めってゆうか、金メダル級の肩すかしには散々痛めつけられてるのっちです。
プレステ目掛けて一目散に家路につこうとしたあたしの指を…手じゃなくて指をちょこんと嫌々な感じでつかむ、ってどんだけ意地っ張りなんですか君は、可愛いじゃないか、って萌え死にそうになったあたしに、
「のっち、二人きりで話したいことあるんよ」
としょぼんと言われたらさあ。心臓が暴れ太鼓状態なのをこらえながら、ウンウン残りまひゅ、と噛みまくりながら了解したんだけど。
あ〜ちゃんは。雨にうたれた子猫みたいな弱りきった甘えモードで。
「どうしよう、のっち。ゆかちゃんが、とられちゃう」


…ゆかちゃん、ですよ。あ〜ちゃんがこんなにへこんでるのは。
何でも他校の男子からゆかちゃんが告白されたらしい。
ゆかちゃんと一緒に帰っていたあ〜ちゃんはその場に居合わせて、何かその場の流れで3人でカフェに行く事になったらしい。
で、あ〜ちゃんいわく。
「あんなん、ゆかちゃんには似合わん!うちは嫌、ゆかちゃんはあげん!」
「どんなタイプだったん?」
「顔は…まあ…カッコ良かったんよ…」
「ほう」
「じゃけど…っ、あれ絶対俺イケてるとか思っとるタイプじゃけえ!髪の毛ばっか気にして!あんなんうちは嫌いじゃ!」
「はあ〜、なるほど。でもゆかちゃんもキライなんじゃない?」
「…うちもそう思っとったんよ…」
そう言うと、あ〜ちゃんははああ、とため息をついたかと思うとしゃっくり上げだした。
「あ、ああああ〜ちゃん!?」
「…昨日…見たんよ…。ゆかちゃんがその子と一緒におるの…うちには用事があるって言っとったのに…」
「それ、ほんまなん!?」
「顔は確かにカッコいいけえ、ゆかちゃん好きになったんかなあ…」
「…まあ、ゆかちゃん面食いなとこあるけえ…」


あたしのぼそりと呟いた一言に、あ〜ちゃんはキッと目を三角にして、
「ほんまに大事なんは外見とかじゃないけえ!思いやりが無いと駄目なんじゃけえ!」
…そ、それをあたしに言わなくても。そんな血相変えて。のっち怒られ損。
「…ゆかちゃんに直接聞いたらいいんじゃないでしょーか」
「…それが出来たらのっちなんかに相談せん」
…なんか扱いですか、そうですか。
あたしは少しバカバカしくなって、今日クリアするはずだったゲームの事をぼんやり考えたりし始めた。
だって。ゆかちゃんに言えばいいことじゃん?
あの子とつき合うん?好きなん?うちはあんまりオススメ出来んよ〜、って。超シンプル。
あ〜ちゃんは気ぃ使いなとこあるからなあ。オンナの子過ぎるってゆうか。少し面倒くさい。
…と、珍しく心の中であ〜ちゃんの悪口を言ってた。だって正直…面白くないし。
そっぽ向いてると、あ〜ちゃんのふわりとした髪が頬に当たった。あ〜ちゃんがあたしの肩に頬をのせてしがみついてきた。
途端に硬直するあたしに、あ〜ちゃんは聞き取れないような小声で、
「…ゆかちゃんは、うちが嫌がる事は絶対にせん…。じゃけえ、うちが反対すればつき合わんと思う…」
「…じゃあ…」
「…でも、もしゆかちゃんがほんまに好きになっとったら…?」
あ〜ちゃんがぎゅうってあたしの腕にしがみつく。


「…うちも、ゆかちゃんが嫌がる事はしとうないんよ…」
…なるほど。
あたしはあ〜ちゃんを落ち着かせるように、柔らかい髪をそっと撫でた。
「…でも、ゆかちゃんをとられたくない」
あ〜ちゃんが顔を上げてあたしを真っ直ぐに見た。
涙で濡れた頬に髪がはりついて。長い睫毛までしっとりと潤んでて。
…あ〜ちゃんは、ずるい。あ〜ちゃんとゆかちゃんの絆は承知してるけど、何もこんな表情をのっちに見せることないのに。
でも。そんなあ〜ちゃんのへこみっぷりは、やっぱり気が変になりそうなほど可愛くて。
…結局。言っちゃうんだよね。
「で?のっちは何をすればいいの?」
あたしの一言にあ〜ちゃんはぱあって喜んで、
「…のっち、アリガト…」
なんて鼻をすんすんさせながら言うから。あーもう、この人可愛いすぎるじゃろ。
…と一人悶絶してたら。
「邪魔してほしいんよ」


…へ?
ぽかんとするあたしを、あ〜ちゃんは無邪気100%な感じで小首をちょっと傾げて、
「思いっきりアホな感じでお邪魔するとか、ゆかちゃんにベタ惚れな感じでまとわりつくとか」
「…あ、あ〜ちゃん?」
「大丈夫、のっちなら出来るけえ!」
「あああああ〜ちゃん、それってのっちがゆかちゃんに恨まれない?」
「大丈夫、のっちがアホなんはゆかちゃんも諦めついとるけえ」
な、何なんよそれえ!?あたし、めっちゃリスキーなんですけど!?
ゆかちゃんの氷のような微笑を思い浮かべで、絶対無理っと叫ぼうとしたけど。
「…のっち、…お願い」
……あ〜ちゃんって、あ〜ちゃんって…。
ずるい、ずるいよね。確信犯だよね。
ワガママ言う時の甘い声。いつもは口とんがらせて、マヌケだのアホだの散々言うくせに。
あたしが手をつなごうとしたらひらひら逃げるくせに、今はぎゅうってあたしの制服つかんで離さない。
…もう、何てゆうか。可愛いんですよ。惚れた弱みってこういうことを言うんだよね…。
「…分かった。やってみる」
あたしは渋々頷いた。
でも。ゆかちゃんの黒い怒りに触れるかもしれないリスクの代償として、前払いくらいは貰っとこ、とあ〜ちゃんに唇を寄せた。
あ〜ちゃんのキスは甘くて、やっぱりずるいよなあとあたしはため息をついた。


つづく






最終更新:2008年10月13日 11:05