ある日たまたま早く家に帰ると、テーブルの上にたま〇クラブと書かれた雑誌が置いてあった。
「……え?これって妊娠した人が見る雑誌じゃ…」
ページをめくって見てもやっぱり妊娠の事について書かれている。これが家にあるという事はもしかして…。
「…ゆかちゃんが妊娠した!?」
ばんなそかな!…じゃなくて、そんなばかな!うちら夫婦は女の子同士じゃけぇいくらエッチしても妊娠するはずないじゃろ…。
「…でも、妊娠してなきゃこれ買わんよね…」
あたしは頭を抱えた。
そんな…まさかゆかちゃんが妊娠…。いや、嬉しいよ。素直に嬉しいけど、まだ再就職して間もないのに出産費用とか子育て費用はどうすりゃいいの。金ないよ。
「こうなったらバイトするっきゃないか…」
ゆかちゃんも今はパート勤務してるけどこのままじゃ全然足りないよ。
「…よし、バイト探しじゃー!!」
あたしは家を飛び出した。
とりあえずアルバイト雑誌を手当たり次第ゲットして、家まで帰ろうとしたその時。
「あ、のっちー」
「ゆかちゃん!」
買い物してきたのか、両手にスーパーの袋を抱えたゆかちゃんとばったり。
…って、だめじゃん!妊娠してるのに重たい物持っちゃ!
「貸して。持つよ」
「あ。ありがと」
「…ゆかちゃん」
「なに?」
「もっとのっちに相談してよ。頼りない旦那さんかもしれんけど、もっともっと頑張るけぇ…」
「…?うん、ありがと…」
ゆかちゃんはきょとんとしてあたしを見た。
まったく、夫婦なのにみずくさいと言うか…そんな何も知りませんみたいな表情してからに。あたしをもっと頼ってくれればいいのに、ゆかちゃんは全部自分で解決しようとしてさ…。
…しっかし、これ結構重っ。
「…あ、片すの忘れとった」
あたしが冷蔵庫に物を入れてると、ゆかちゃんがポツリと呟いた。
あたしにバレたと気付いたかな…。
「…ゆかちゃん、今何ヶ月なん?」
もう白状しんさいや、ゆかちゃん。
「……は?」
「だから、妊娠何ヶ月なん?」
「え、誰が?」
ここまできてしらをきるか。どんだけ言いたくないんよ。
「誰って、ゆかちゃんに決まっとるじゃろ」
「…ゆか?」
「うん。だってあの雑誌、ゆかちゃんが買ってきたんじゃ…」
ゆかちゃんが目をぱちぱちさせる。…あれ?なんか、変な事言った?
「…あの雑誌は友達が妊娠した言うけぇ、買って渡そうと思って置いといただけ…」
「………友達?」
「うん…。じゃけぇ、ゆかが妊娠した訳じゃないんよ」
「……」
脱力。
「…な、なんだ…ゆかちゃんじゃなかったんだ…」
めちゃくちゃ恥ずかしい。一人で勝手に思い込んじゃったよ。
「え、ほんまにゆかが妊娠したと思ったん?」
「いやー始めはのっちも有り得んって思ったんよ。でも〇まごクラブとか置いてあるしさ…まさか!って思って」
「…まぁ妊娠したらしたで嬉しいけど、うちらじゃ有り得んわ」
「ですよね…。って、妊娠したら嬉しいって…それ…」
ゆかちゃんがしまった!って顔をしている。
ツンデレ妻め…今ので本音がでおったな。
「ねぇねぇ、今のホント?ゆかちゃん」
「い、今のは言葉のアヤじゃ!」
「へぇ〜そのわりには顔が赤いじゃん。なんなら今から子作りす、はぐっ!!」
は…腹にマグロが一本、頭から突撃してきよった…。
「次余計な事言ったらマグロだけじゃ済まさんけぇ…」
ゆかちゃんの手に今度は大根が握られた。確実に殴る気満々だ。
「す、すすすすみませんもう言いません!!」
こうしてあたし一人の妊娠騒動は幕を閉じたのでした。
END
最終更新:2008年10月17日 16:40