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『今日の仕事、思ったより早く終わったんだけど、
 今から、行ってもいいかな?』

『うん、いいよ。待ってるね』

ようやく、時間に余裕ができたので
あの人に連絡し、部屋に向かう。

ここからだと、30分くらいかな。

電車にゆられながら、いろんなことを思い出す。


きっかけってなんだったっけ?

あぁ、趣味で撮ってるっていう写真を見せてもらって
カメラについていろいろと教えてもらって。
いろいろと話してるうちに
一緒にいるのが、居心地よくなって。


あの頃
仕事で焦りや不安でいっぱいだった。
けれど、簡単にコトバにすることもできず…
毎日、懸命だったなぁ。
いっぱい悩みを聞いてもらったっけ。
唯一、弱音を吐けた人だった。


でもさすがに、告白された時は驚いたな。
だって、ねぇ・・・


“女の人”、なんだもん。

それもそうだし
それ以前に、彼女はすでに結婚してたし。

ありえないでしょ。
さすがに、ありえないって。

なのに結局、押し切られちゃったんだよねぇ・・
好奇心を抑えられなかったってのもある。
カメラもそうだけど。たくさんのわくわくを教えてくれた。
一緒にいると、きっと楽しいって思った。

それと、やっぱりあの頃のゆかには、彼女が必要だった。

なんて、言い訳、か。

結婚してることは、ひっかかってたけど
だから、付き合えたってのもある。
お互いに、相手を縛る権利なんてないわけだから・・


今さらながら
ほんと、ズルイな、あたし。
本気にならずにすむってどっかで思ってたんだ。


でも決して
遊びなんかじゃなかった。

彼女のゆかに対する愛情も
ゆかの彼女に対する愛情、、、も。


たとえ
お互いがお互いに
“誰か”を重ねていたのだとしても・・・


でなきゃ、とっくに離れ離れになってた。
でなきゃ、別れを切り出そうとしてるこのココロも
こんなに重くないはず、だ。


はじめから、なんて思わないけど
今となっては、恋心じゃなかったんだね、きっと。


今、向かってるあの部屋。

いつか、彼女が“シェルター”だと言っていた。
落ち着いて仕事がしたいというのと
趣味の創作活動に没頭したいという理由で
ほんとの家、とは別に借りていた部屋。

お酒の大好きな彼女が
珍しく酔った時に、呟いたのを今でも覚えてる。
「それ以上に、自分のキモチを整理するのに
 必要だったんだよね、この部屋・・
 自分を守るための、シェルター・・・・・」


ゆかも守られてたんだ。

あの人に、あの場所で、同じ時間を共有して。


でも、いつまでもそこにはいられない。

もう、オトナにならなきゃ。

ね、そうでしょ?



右手を左胸に。
そっと目を閉じる。
ドクン、ドクン、、、、

のっち・・・


——— 次は、〜。〜。お降りのお客様は・・・

あ、着いた。


ドアが開く。
生暖かい空気に包まれ、一気に現実に引き戻される。


さぁ、行こう。


新しい一歩を踏み出すために。








最終更新:2008年12月16日 22:41