アットウィキロゴ
◇N-side◇

目が覚めたら、隣に二人の寝顔があった。
部屋には、脱ぎっぱなしの服が散乱していて、テーブルの上にはケーキを食べたお皿とフォークがそのまんま。
まだ甘ったるいクリームの香りが残っていて、昨日の出来事がリアルに脳裏をよぎった。
(二人共…可愛かったなぁ…)
なんて一人でニヤニヤするのっちは、かなりの変態さんなので自重は出来ません。あ、ヤバい鼻血が……ティッシュティッシュ。


鼻にティッシュを詰めた間抜けな姿で、眠っている二人を起こさないように静かにお皿やらを片付ける。
二人が作ってくれた美味しいケーキ。お皿の隅っこに残っていたクリームを指で掬ってペロッと舐めた。
二人に見られたら「こら、行儀悪い」とでも咎められるんだろうな。だから、出来るだけこっそりと。
まったりとしたクリームの甘味が口の中に広がった。昨日飽きるくらいたくさん味わったのに、幸せになれた。


昨日、のっちは17歳の誕生日を迎えた。
二人と恋人同士になって半年以上の時が過ぎたのかと思うと、時の流れが物凄く早く感じてならない。
確かに色々な事を経験した。笑ったり泣いたり、色んな二人の表情を見てきた。そしてのっちも、嬉しいとか悲しいとか、様々な感情と出会った。
それも今となっては全て過去なのだけれど、大切な思い出達で。てゆーか、どれもこれも二人が居た。それって凄い事だと思う。


あれだけの事があっても、二人を愛している気持ちは今も変わらない。
いや、むしろ何十倍も何百倍も、二人を以前より愛してるんだ。

色々あったけど、今二人の寝顔を見ながらこんなにも穏やかな心で居られるのは、この二人のおかげだ。



◇◆◇◆




「あれから二年かぁ」
桜が綺麗だった。
まるであの時みたいな花吹雪に、目を細めて思い出す情景。二人の涙は何よりも眩しかったっけ。
今日で三年間お世話になったこの学校ともお別れ。誰も居ない図書室から下を見渡せば、きっちり着込んだ制服の胸に華やかな造花を付けた卒業生達がたくさん見えた。
「あ、」
そんな中に見えた二人は、何やらキョロキョロと辺りを見渡していた。きっと誰かを探しているのだろう。


フワフワな髪が印象的な明るいあの子は…この二年でさらに可愛くなった気がする。ツンデレに磨きがかかった様な…。
そしてストレートの綺麗な黒髪が目立つあの子は…この二年でまた少し髪が伸びて、色気が増した気がする。だけど小悪魔な所は相変わらずだ。

そして自分は…。
あの頃より身長が伸びて、大人っぽくなったね、と周囲から言われる様になった。
だけど内面的な部分は…二人曰く、ちっとも変わらないらしい。

それは酷くショックな事だった。自分ではかなり成長したつもりなのに。
料理も僅かだけど出来る様になったし、人と話すのも以前より抵抗は無くなったし、掃除も洗濯もちゃんと出来るし、ゲームは……まぁ少しくらいなら…ね。
「あーあ、卒業したくないなぁ」
式で全て留めていたブレザーの全てのボタンとシャツの第一、第二ボタンを全て外し、堅苦しいネクタイを緩めた。
子供の様なセリフを呟いて、卒業証書の入った丸い筒を窓の桟に軽くコンコンぶつけてみたり。
あぁ、こんなだからいつまで経っても変わらないと言われるんだ…なんて考えて小さく笑った。
そうこうしていると、携帯から激しい音楽が流れた。
「うわ、ビックリした」
その音楽に設定したのは自分だけど、心臓に悪いよ全く。
着信…あの子からだ。
「もしもし?」
『アンタ何処におるんよ!卒業式終わったら三人で写真撮ろうって約束したじゃろ!』
聞き慣れた可愛い声。その声の持ち主と、もう一人の姿を窓の下に発見した。
春風に揺れる髪を押さえている姿が可愛い。二人の輪郭だけが花吹雪の中でもはっきりと映し出される。
「式が終わった瞬間、後輩達が襲いかかってきてさぁ…」
『第二ボタン取られたん…?』
「あ、ううん無事」
そうか…お腹の辺りに手を伸ばしてくると思ったら、狙いはボタンだったのか…。
てかボタンなんか貰って嬉しいのかな?のっちにはその有り難みが理解出来ないな。
『そ、だったら早く来んさい。もう後輩達はどっか行ったから』
「うん、…あ」
その時、まさに春風の悪戯。渇いた突風が少女達を包み込み、花びらを舞い上げた。
咄嗟に二人はひらめくスカートを押さえ付けた…が、この目には鮮明に映りました。


「…二人共ピンク…、か…」
そう呟いた瞬間、その子は遠くからでも分かるくらい顔を真っ赤にして、怒った表情で辺りを見渡している。
バレたらタダじゃ済まない…。外から見られない様に慌ててしゃがんだ。…あの頃と全く変わって無いじゃん自分…。
なんか悲しくなっちゃった。




しばらくすると、なんとあ〜ちゃんに見つかってしまい、頭をひっぱたかれた。
「この変態!アホっ!」
「うげえっ」
それを横で見るゆかちゃんがクスクス笑う。見て無いで助けてよ!…って助けを求めるだけ無駄か。



「はーい、じゃあ写真撮るよー」
ちゃあぽんがデジカメを構えて合図した。三人並んで、校門の前で卒業写真。
青空には雲一つ無くて、清々しくて。まるで皆の旅立ちを祝福してくれてるみたいな、そんな花の香りが漂う。



春は別れの季節。
春は新たな出会いの季節。
桜が咲いて散るのと同じ、人はそれを繰り返して大人になっていく。


終わりじゃなくて、これが始まり。


大本彩乃、西脇綾香、樫野有香。
三人のこの学園生活は、静かに幕を閉じた。




◇学園hush最終話:End◇





最終更新:2009年01月24日 21:48